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ヒント-005

自分は、スピーディな身体の動きのフレーズを好んでいる。
しかも空気を切るような、シャープで力強い動作だ。準備動作なく、一気にトップスピードに達するものなら、なお良い。自分の振付の中では、そういうパートは必ず入っているように思う。

もちろん、それとは正反対の、しなやかで流暢な動きも設定するし、ダンサーによってはそのボリュームが多いことさえある。しかし、それらはスピーディでシャープな体の動きを引き立てる為に、あえてそうしていることも多いのだ。

「そもそも」ではあるが、自分が好む、「速い」とか「シャープな」という形容詞のつく身体の動作は、具体的にはどういうものか、自分はこれまで結構考え続けてきた。どうすればそれを獲得できるのかと言い換えてもいい「問い」だ。
まだまだ「探求」の途上ではあるが、現状、こちらが掴んでいるものの一つは『落差の大きい動作のつながりが、「スピード感」を生む事が多い』ということだろう。

というのも、若くはないダンサーでも、こちらの意図する「スピード感」を提示することに成功した姿を、何度も目の当たりにしてきたからだ。彼らは10–20代のダンサーと比べてトップスピードでは負けてしまうにも関わらず、より「速く」て、より「シャープ」だったのだ。
ここから引き出せるのは、動作の絶対的スピードが有っても、「スピード感」は必ずしも獲得できないという公式だろう。

極端にスローなものから、ミドルスピードの動きに一気に展開してしまえば、「速い!」となることが多いのだ。極限的なハイスピードでなくても、「速い」のだ。本当にコントラストがなせるマジックだろう。

もし、ダンスの展開パターンの少なさに悩んでいる振付家/演出家がいるならば、基準となるテンポ感を少し下げて、コントラストがより大きなものを生み出しやすい構造を作ってみることをお勧めする。

我々、アート界の振付家が作っているものは、極論すれば、「国立競技場」で上演するものではない。「国立劇場」で上演するものなのだ。より速く走れればいいとか、より高く飛べればいいというものではない。

絶対的な「数値」ではなく、「スピード感」や「シャープさ」といった、人によって振れ幅のある「相対的なもの」の操作をしているのが、振付家/演出家なのだ。近年勘違いをしている人も増えたようだが、少なくとも石山が手がけている「ダンス」は、アートのカテゴリーに入るものであって、スポーツの枠に入るものではない

それ故に「相対的なもの」と日々、格闘している。

(文責・石山雄三)

次回は7月15日、掲載予定。

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