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ヒント-025
大抵の振付家は「ダンサーがどのように動くか」というプランを考えていると思う。
当たり前と言えばそうだが、その逆の考え方で、体の動きの組立をしたことがあるだろうか。
単純に言えば、「今、ダンサーはどういう環境にいて、それによって、どのように動かされてしまうのか」と考えるアプローチだ。「動く」という動詞が受け身になっていることが、ポイントだろうか。
自分がよく設定する「環境」は、「水の中」だ。もしプールとか海とかで、頭まで潜ってしまったら、普段の動きはどのように変化するだろうか、などと考えるのだ。
大げさに言えば、日常生活では我々の周りは、「空気」で満たされている。慣れてしまって特別な感じもしないが、腕も振り回せるし、ジャンプも出来る。その「空気」を「水」に置き換えたら、どのように体の動きは変化するのだろうか、と思考を膨らませていくのだ。
体を大きく動かそうとしても、水の抵抗でそれは想定したものにはならないだろうし、体の力をこれまで以上に掛ける必要も出てくる。またスピーディな動きはどうしても速度が落ちるだろうし、初動が意図しない滑らさを伴ってしまう事が殆どだろう。
自分は公共施設のプールに結構行っているのだが、こういった動きの変化は本当に興味深く、時々、プールで少し変則的なウォーキングをしていた時に、不思議な体の動きのフレーズに出くわしたりもするのだ。これを何とかして覚えて帰ろうと、プールの隅でバシャバシャと似たような動きを繰り返していたのは、1回や2回ではない。
もちろん既存の「振り」がある場合でも、「水の中」エフェクトはかなり有効だ。水の抵抗で思うように体が動かせない感じが、そのフレーズのパターンBを生み出す事も出来るのだ。
「環境」としては、他にも、「宇宙/無重力状態」とか「フロアが異常に熱い鉄板」とか、よく石山が想定するものはある。この辺のものは、さすがに実際に体験したものではないが、想像力を最大限に使って、ああでもないこうでもないと、実験を繰り返している。
「無重力状態」だったら、ふわっと浮かぶ事もできるのでは?とか、「鉄板」だったら、足をバタバタさせていないと火傷してしまうのでは?等、『「環境」の影響で、どうしてもそうなってしまう体の動き』をいくつも試行錯誤して採取している。これらは「動かされる」という受け身のアクションなので、本当に「環境」が「見えて」きやすい。
ショウを観ていて、ダンサーは「人間サイズ」であっても、ステージ全体が動いているような感覚を覚えることがまれにある。ダンサーのスキル/存在感の勝利でもあるが、体の動きの開発方法の根本的な違いもあるのだろう。「空間を踊らす」ことができるのは、こういう方法論を用いるのが近道だと思っている。
(文責・石山雄三)
次回は2月10日、掲載予定。
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