ヒント-010
振付を考えている途中で、体の動きの流れやコンビネーションがどうしても決まらない時もある。
「これだ!」という状態に至らない、非常にもどかしい時間だ。
自分はその際によく「引き算」をしてみる。
要するに、アクションの数が多すぎて、体全体の動きとして、いまいち向かっている方向がはっきりしていないことを、まず疑うのだ。これは情報量が多すぎて、整理されていない状態であるとも言えるだろう。
具体的には「腕を動かすことを辞めて固定して、下半身の動きのみにする」とか、「ステージを踊りながら横切るのを辞めて、単にゆっくりと歩くだけにする」という感じのリアレンジをしてみるのだ。
しかし正直に言うと、この方法は、若い頃から人づてに聞いて知ってはいたが、なかなか理解出来なかった。あまりよろしくない状況というのは、いつも何かが足りないせいではないか?とばかり思っていたのだ。せっかく作った動きのフレーズの要素を「引く」ことの勇気がなかったのだ。
そういうこともあり、20代の頃に作ったショウは、情報が積み込まれ過ぎて、ぱっと見で混沌としていることが多かった。もちろん、今ではああいう「エネルギーのぶつかり合い」を全面に打ち出すような作品は、そうそう作れそうもないので、これはこれで感慨深いものもあるのだが。
そして自分はアーティストとして、それなりの年数、経験を重ねた訳だが、不思議なもので、「引き算」の手法の有効性も理解し、それを取り入れることが出来るようになっていったのだ。これは数多くの「失敗」から学んだからかもしれない。
ただこれはここで言わねばならない。「足し算」が全くダメということでもないのだ。ベースにある体の動きのフレーズに、別のシーケンスのアイデアから動きをとり出して加えてみると「化学反応」が起きるパターンもあるのだ。その際には全く別のテイストのフレーズを抜き出した方が、予想外のことが起きて、創作意欲を更にかき立てられることもある。
以前に仕事をした、英国のパフォーマンスチームのディレクターは「演出をする際に、とにかく要素を足していっちゃって、ごちゃごちゃになってしまうことが結構ある」と言っていた。その人は特に顕著だったが、自分の他の経験を思い出してみると、確かに欧州や北米では、「足し算」型のアーティストが少なくはない数、いるように思う。
ということもあり、自分が海外のチームと仕事をする際には、『「引き算」をして様子を見ない?』とよく言っていた。
しかし日本のダンサーに対しては、正反対で、『「出し算」をすると状況は変わるかも』とアドバイスする事がしばしばある。
両者とも、そうすると、結構いいところに作品が収まるのだ。これは地域性なのだろうか。本当に興味深い。
(文責・石山雄三)
次回は9月5日、掲載予定。
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