春原いずみ

業界の片隅にいるBL作家 兼 キャリアだけは長いさすらいの診療放射線技師です

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カウントダウンキス

 オテル・オリヴィエのエントランスは、いつになく華やいだ雰囲気になっていた。いつもはロビーカフェになっているところの席をすべて取っ払い、大きなテーブルがいくつか置かれて、白いクロスが掛けられていた。そこに次々と運び込まれ、並べられていくのは、見事なフレンチのオードブルだった。盛りつけも美しいカナッペの数々、ピザのように見える色とりどりの海鮮や肉のタルト、何種類もの芸術的な出来のテリーヌ。デザートもたくさん並べられていて、フルーツやチーズのタルト、ファーブルトン、ガトーショコラ

    • 「恋する救命救急医~ウィステリアの君へ」あとがきと…ちょっとしたおまけ

      こんにちは、春原いずみです 電子書籍オリジナル恒例となりましたあとがきです。 「恋する救命救急医~ウィステリアの君へ~」DLありがとうございました。 楽しんでいただけましたか? さて、藤枝×宮津編です。 『le cocon』のマスター藤枝の過去編第2弾は大きく飛んで、藤枝の英成学院時代の思い出話となりました。 英成学院の話となると、どうしても賀来や篠川、神城の話になっちゃうんですが、よくよく考えると、藤枝だってルックスはいいし、優しいし、穏やかだし…絶対に後輩たちに慕われ、

      • 「恋する救命救急医~シンデレラナイト~」あとがきと…ちょっとしたおまけ

        こんにちは、春原いずみです。 「恋する救命救急医~シンデレラナイト~」DLありがとうございました。 電子書籍オリジナルはあとがきがないので、今回もnoteで書くことにします。少々お付き合いください。 さて、神城×筧編です。一部医療従事者の方にとても人気のある2人ですが、今回はバカンス編…といっても…(笑)。さぁ、どうなったでしょう。というわけで、短い尺にぐぐっといろいろ詰め込みました。 「恋救」は一応恋愛もののカテゴリーだと思うし、文庫の約四分の一という尺なので、医療シーン

        • さすらいの診療放射線技師 5

          さすらいの診療放射線技師 5回目です。 今までは、過去の話をしてきましたが、今回は現在進行形のお話をしましょう。 私のTwitterなどを見てくださっている方は、私が仕事でMRIの撮像をしていることをご存じかと思います。 私の現在の勤務先は整形外科と歯科を併設しているクリニックで、勤務している診療放射線技師は2人。仕事の範囲は一般撮影、デンタル撮影、パノラマ撮影、骨密度測定(DXA法)、フォルム、そしてMRIの撮像です。 うちは骨密度測定の件数がとても多く、多い日は20件近

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        • Chase The Rainbow
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        記事

          さすらいの診療放射線技師 4

          久しぶりの更新になりました。 今回は「私が忘れられない三つの言葉」のお話。 この仕事をやっていて聞いた「忘れられない衝撃の一言」です。 不謹慎な話もあったりするのですが、すべてノンフィクションです。 では、どうぞ 『大丈夫。死んでるから』 これは私が最初に勤務した病院での出来事。 お花見日和の日曜日、私はポケベルで呼び出されて、病院に到着しました。 「頭のCTだから」 そう言われ、CT室に入った私は、すでに寝台に患者さんが乗せられていることに驚きます。 「いや、これからウォ

          さすらいの診療放射線技師 4

          さすらいの診療放射線技師 3

          こんにちは、少し久しぶりになりました。 3回目の投稿です。 今回はちょっと診療放射線技師らしい機器のお話。 相当いにしえの話になりますので、まぁ、びっくりして下さい(笑)。 題して「TCT-60A」。何だそりゃ…(笑)。 あなたはCT検査を受けたことがありますか? 私は現在CTではなく、MRIを持っているクリニックに勤務しているので、自身はCT検査をしていないのですが、MRIを撮像しているため、患者さんに話を聞くと、CTとMRIの区別がついていない方がかなりいらっしゃいます

          さすらいの診療放射線技師 3

          さすらいの診療放射線技師 2

          こんばんは、春原いずみです。 2回目の投稿になります。 今回は「スタートライン」のお話。 私の卒業した学校はもうありません。 私が診療放射線技師を志した頃は、3年制の短大という不思議な養成学校が存在しており、私は某国立大学に併設されていた短期大学部を卒業しています。 今はその学校はなくなってしまい、某国立大学の医学部保健学科という名前に変わっています。これもまたちょっと問題がありまして、医学部なのに、4年で卒業できるというおかしなことになっています。まぁ、これに関しては、い

          さすらいの診療放射線技師 2

          さすらいの診療放射線技師 1

          こんばんは。春原いずみです。 以前「昼稼業方面のことも書いていきたい」と言っておりましたが、年も明けましたので、ゆるゆると不定期で始めたいと思います。 思い出した順に書いていきますので、時代があっちいったりこっち行ったりしますが、あまり深く考えずに、暇つぶしに読んでいただければ。 ではでは、始めます。今回は「忘れられない年越し」です。 年末年始に働かなくなって、もうずいぶん経ちます。病院勤務時代は職場でただ1人の独身者だったため(笑)年末年始は必ず働いており、年明け1発目の

          さすらいの診療放射線技師 1

          「恋する救命救急医~魔王、ジェラシーの夜」あとがきと…ちょっとしたおまけ

          こんにちは、春原いずみです。  「恋する救命救急医 ~魔王、ジェラシーの夜~」をお読みいただきありがとうございます。  電子書籍オリジナルという形式上、あとがきがないのですが、今まで出した「恋救 電子書籍オリジナル」で「あとがきがなくて寂しいです」というご意見を戴いたので、ちょっとだけ書いてみようと思います。  さて、電書名物、濃い(笑)魔王×森住です。この2人に関しては、今までわりと情緒もへったくれもないようなところがあって(多分に魔王のキャラクターによるかと)、即物的な

          「恋する救命救急医~魔王、ジェラシーの夜」あとがきと…ちょっとしたおまけ

          溺愛キッチン

          まな板の上には、でんと大きなタコの足が二つ。 「さて……どうしようかな……」  筧深春は包丁を手にしたまま、うーんと考え込んでいる。 「いくら安くても……これは買うべきじゃなかったかな……」  今日は一日オフだ。昨日は遅番で、明日は日勤から入る。というわけで、今日は少し凝った料理を作ろうと、勇んでスーパーに出かけていったのだ。そこで見かけたのが、この大きなタコの足だったのである。見たこともないくらい立派なタコさんが、あまりに安かったので、ついつい買ってしまったのだが。 「タコ

          溺愛キッチン

          予告編

           いったいいつから、映画館はこんなに明るく、きれいになったのだろう。  森住英輔はシネコンのロビーで、待ち合わせの相手を待っていた。淡いグレイのカーペットが敷き詰められたロビーには、いくつものテーブルが置かれて、映画の上映開始を待つ客たちが、コーヒーを飲んだり、ポップコーンを食べたりしている。森住もホットコーヒーを買うと、テーブルの一つに陣取り、エスカレーターの上がり口をじっと見ていた。このシネコンはショッピングモールの上層階に入っているのだ。 『映画を見に行きませんか?』

          あらしの前

           年末の銀座は、華やかなざわめきの中にあった。 「クリスマスが終わったから、もう静かかなと思ったんですけど」  筧深春は、少しびっくりしたような表情で、辺りを見回している。 「結構、人が出ていますね」 「忘年会とかじゃないのか?」  のんびりとした口調で言うのは、当然のことながら、筧のパートナーである神城尊だ。筧はややオーバーサイズのダウンコートをぬくぬくと着ているが、神城は黒のレザーで仕立てたショートコートの前を開けている。その下は確かクルーネックのセーター一枚だったはずで

          あらしの前

          スノーマンの涙

          肩のあたりがやけに冷えると思った。 「暖房……切れたのか……?」  小さくつぶやくと、内海尚之はすっとベッドの上に身体を起こした。普段から寝覚めの良さには自信がある。そんな内海に対して、長年の恋人である整形外科医の吉永辰也は、頑丈そうな見かけによらず、低血圧で死ぬほど寝起きが悪い。本人曰く、当直帯に本当に寝てしまうと、自分を叩き起こした看護師と患者の首を絞めてしまいかねないので、できるだけ正気を保ったまま、せいぜいうたた寝程度に抑えるようにしているというほどだ。 ”僕だったら

          スノーマンの涙

          ロンリー・クリスマス

          『雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう……ひとりきりのクリスマス・イヴ……』 「なぁんで、こんな日に当直仰せつかるかなっ!」  吉永辰也はぶつぶつ言いながら、検食の鶏の唐揚げをつつき回していた。一応小さなカップケーキもついている。上にぽつんと刺した柊が泣けてくる。そう、今日はクリスマスイヴである。  もともとローテーション的についていたものとはいえ、何とか回避できるものとたかをくくっていたのが甘かった。佐倉総合病院に、整形外科医は研修医も含めて、現在五人勤務しているのだが、その

          ロンリー・クリスマス

          恋する救命救急医「カウンターの内緒話」

          「トムが帰ってきた?」  「le cocon」のカウンターに座り、ウイスキーを楽しんでいた篠川臣が顔を上げた。 「ビザの書き換えにね」  いつもの指定席に座って、賀来玲二が頷く。 「実は何回か帰ってきているんだけどね、変な見栄があったのか、店には来ていなかったんだよ」 「え、そうなのか?」  篠川の隣には、神城尊が座っている。ビールのつまみは、揚げたてのポテトチップスである。 「何だ、行方不明じゃなかったのか」 「何ですか、その残念みたいな言い方」  今日もノンアルコールのカ

          恋する救命救急医「カウンターの内緒話」

          Chase The Rainbow (10)

          「敬さん……」  ドアがぱたりと閉じる音を聞いて、枝崎は敬に振り返る。 「あの……っ」 「いいんだよ」   ゆっくりと車椅子を漕いで、敬は枝崎に近づいた。すっと、枝崎の顔に向かって手を伸ばす。枝崎は床に膝をついて、敬の車椅子に寄り添った。 「……痛かったね」  優しく温かい指が、枝崎の頬や口元を撫でてくれる。 「一応、手加減はしてたみたいだけど……」 「そうなんですか?」  一見優男に見える貴船だが、長身だし、医師の中でも特に腕力を必要とする整形外科医だ。確かに、その彼に力任

          Chase The Rainbow (10)