「恋する救命救急医~シンデレラナイト~」あとがきと…ちょっとしたおまけ
こんにちは、春原いずみです。
「恋する救命救急医~シンデレラナイト~」DLありがとうございました。
電子書籍オリジナルはあとがきがないので、今回もnoteで書くことにします。少々お付き合いください。
さて、神城×筧編です。一部医療従事者の方にとても人気のある2人ですが、今回はバカンス編…といっても…(笑)。さぁ、どうなったでしょう。というわけで、短い尺にぐぐっといろいろ詰め込みました。
「恋救」は一応恋愛もののカテゴリーだと思うし、文庫の約四分の一という尺なので、医療シーンは省いてもいいのかな…と思ったりもするのですが、やはり、そこは春原的に外せないところだし、「恋救」メンバーが一番輝くところだと思うので、毎回、本編ほどの密度はありませんが、必ず1エピソード入れるようにしています。
さて、冒頭の『le cocon』のシーンで、筧が修学旅行のエピソードを話していますが、実はアレ、私の母校で実際に起きた話です。といっても、私の時代ではなく、私の姪(つまり、姪は私と同じ高校を出ています)が経験した話で、やらかしたのは姪の1学年上の先輩たちだったそうです。これはあるクイズバラエティでもネタになったので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません(笑)。まぁ、やらかしたってのは、暴れたのではなく…女子生徒のスカートがあまりに短かすぎて、品位を損なっている…という、ある意味もっと恥ずかしい理由だったらしい(苦笑)。今から10年以上前の話です。
「恋救」にはこんな風にちょいちょい私の経験談が顔を出します。篠川のアイラモルトウイスキーへの偏愛、藤枝のお菓子作り、賀来と篠川のバレエ鑑賞…ただし、筧のような料理上手ではありません(笑)。
神城と筧は年の差カップルです。藤枝と宮津も少し離れていますが、神城と筧ほどではありません。それだけに肩を並べるような関係になるのが難しいのですが、この2人の場合、センターという職場での結びつきがあるので『相棒』というスタンスがあり、上手く回っているのかなと思います。
これは私の考え方なのですが、恋愛には限りませんが、やはり長くつき合っていくには、どこかで『肩を並べる』という関係性がないと、なかなか難しいかなと思っています。ずっと上とか、ずっと下とか…初めはよくても、長い間には疲れてしまいそうですよね…。
そんなわけで、この2人には『恋人』であり『相棒』でもあるスタンスを崩してほしくないと思っています。
さて、それでは最後は、前回と同じくSSもどきをくっつけて、終わりにしたいと思います。
ではではまた。
SEE YOU NEXT TIME!
シネマ歌舞伎で「桜姫東文章」を見た午後に 春原いずみ
『木漏れ日の午後』
神城と筧が住む家の庭に、竹で組んだ風情ある藤棚が出来上がったのは、もうすぐ冬になる晩秋だった。
「こんな寒い時期に植えるもんなんだな…」
それでも、薄手のTシャツ1枚というとんでもない薄着で、神城は立派に完成した藤棚を見上げていた。
最初はコツコツとDIYすることも考えたのだが、思った以上に藤棚を作ることは難しかった。
藤蔓は意外に重量があり、育つに従って、重くなることはあっても、軽くなることはない。下で犬たちがくつろげるくらいの藤棚だと、かなり基礎をしっかりと作る必要があり、素人の施工ではほぼ無理ということがわかったのだ。
結局、神城の教育係だった小田嶋の伝を辿って、庭師を紹介してもらい、この立派な藤棚が完成したというわけである。
『まぁ、花が咲くのに3年はかかると思って下さい』
藤棚が出来上がった日、七十年配の庭師が日に焼けた笑顔でそう言った。
『最低でも3年、下手すれば10年かかります。ですが……こちらのお庭はこの広さだし、土もたいそうようございます。根がつけば……素晴らしい藤棚が出来上がりますよ』
「結構世話が大変みたいですよ」
庭師が言い置いてくれた世話の仕方を、せっせとメモしていた筧がうーんと唸る。
「まぁ、肥料なんかはやってくれるって言うし。何とかなるだろ」
死ぬほどポジティブな精神を持ち合わせている神城があははと笑った。
「しかし、何か庭っぽくなったなぁ…」
「庭っぽくって…もともと庭じゃないですか…」
筧は呆れたように言った。縁側にいた犬たちがぽんぽんと庭に下りてきて、これはなぁに?と藤棚を見上げている。
「おまえたち、来年の夏はちょっと涼しいぞ」
足元にお座りした犬たちの頭を順番に撫でてやりながら、神城は言った。
「……おまえたちが来てくれるまでは、ここは庭じゃなくて、単なる草叢だったんだよ」
「先生……」
藤棚の下にしゃがみこみ、甘えてくる白柴の華の背中を撫でながら、神城が笑う。
「不思議だよなぁ……。俺は何も変わっていないはずなのに、この家はどんどん変わっていく。庭がきれいになって、家がきれいになって……いつのまにか、俺はここにいることが嬉しくなった。家に帰ることが楽しみになるなんて……生まれてこの方、なかったのにな」
神城は複雑な家庭に育っている。とんでもなく裕福で、とんでもなく……寂しい育ち方をしてきたらしい。
「みんな、おまえのおかげだな、深春」
うっすらと陽が射し始めた庭で、犬たちがはしゃいでいる。くるくると追いかけ合ったり、ワンプロでじゃれ合ってみたり……楽しそうにはしゃいでいる。
「……先生」
筧はそっと手を伸ばして、神城のTシャツの裾をきゅっと握りしめた。
「この……藤棚が花のカーテンになるの……一緒に見たいです」
3年先……もしかしたら、10年先かもしれないその時。
俺はあなたと一緒に、美しく芳しい花のカーテンを見上げることができるだろうか。
「当たり前だろ?」
何を言っているんだと、愛しい人は笑う。
「おまえ以外の誰と一緒に見るって言うんだよ」
おまえしかいない。
俺にはおまえしかいない。
優しい瞳とぎゅっと抱きしめてくれる力強い腕が愛を語る。
ずっとずっと……一緒にいよう。
幻想の甘い香りに包まれて、2人は薄紫に晴れた晩秋の空をいつまでも見上げていた。