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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。

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【売上の一部はどうぶつ基金へ寄付します】 実話を基にした小説です。
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記事一覧

DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【総集編】

第1話 訃報 「龍一、お父さんが死んだよ」 「っえ?」 都庁の役人と打ち合わせを終えて、一息つこうとした僕は、母からの電話に言葉を失った。 「首吊って自殺したんよ」 「なんで?」 衝撃的な死因に、僕は声を荒げた。 「知らんわ。こっちが聞きたいわ。私は今から、警察行ったりするから、しばらくは電話に出れんよ。だけん、連絡は、弥生にしてちょうだい」 母は、気が動転しているのか、早口でまくしたてるように言って、電話を切った。 3月とはいえ、まだ底冷えのす

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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕【第1話:訃報 第2話:酒乱】

第1話 訃報 「龍一、お父さんが死んだよ」  「っえ?」  都庁の役人と打ち合わせを終えて、一息つこうとした僕は、母からの電話に言葉を失った。  「首吊って自殺したんよ」  「なんで?」  衝撃的な死因に、僕は声を荒げた。 「知らんわ。こっちが聞きたいわ。私は今から、警察行ったりするから、しばらくは電話に出れんよ。だけん、連絡は、弥生にしてちょうだい」  母は、気が動転しているのか、早口でまくしたてるように言って、電話を切った。  3月とはいえ、まだ底冷えの

DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【第3話:虐待】

昭和59年、僕は小学2年生になっていた。 父の酒癖は、相変わらず酷いものだった。 そんな相沢家ではあったが、この年の夏から、家族で一泊旅行をするということが、我が家の恒例行事となった。 酒好きの父にとって、旅行といえば酒だと言わんばかりに、朝から泥酔状態だった。

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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【第4話:非行①】

僕が、ブルーハーツと出会ったのは、中学2年生のときだった。 ブルーハーツを初めて聴いたときの衝撃は、今でも忘れられない。 父から殴りまわされて、恐怖しながら気を失っても、泣き叫びながら犯される母を助けることもできずに、布団にくるまってただただ時が過ぎ去るのを待つ惨めさも、ブルーハーツを聞けば自分の未来に、希望を持つことができた。  この頃の父の酒グセの悪さは、これまでにはない強烈さで、僕と母が骨折するほどのケガを負うことも珍しくはなかった。 母はこれ以上、僕を父の側に

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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【第5話:亀裂】

車の窓をノックする音が聞こえたので、目を開けると、利津子が立っている。  彼女は、ショートカットの似合う切れ長の目をした美人で、半年ぶりに会っても、その姿は変わらない。 僕は、体を起こして外に出た。 「久しぶり、元気にしてた?」 僕は、精一杯の笑顔で平常心を装った。 「うん、元気だよ」  利津子も、僕と久しぶりに会ったことが気まずいのか、返事は素っ気なかった。  「荷物、トランクに乗せるね」 僕は、利津子のキャリーケースを持とうとしたが、彼女はそれを拒んだ。 

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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【第6話:非行②】

体育館裏の一件以来、僕はケンカに明け暮れていた。 自分に向かってくる不良を、僕は徹底的に痛めつけた。 痛めつけらた不良は、血まみれになって怯えた顔をする。 その怯えた表情を見ると、僕はたまらなく興奮した。 また、ケンカが強ければ、学校中の男子達からは尊敬され、女子達からはモテると、本気で思い込んでいた。 そんな勘違いをして、調子に乗っていた僕は、違反制服を着て、髪を金髪に染め、中学3年生になったときには、学校一の不良生徒に成り下がっていた。 さらに僕は、もっ

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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【第7話:非行③】

僕と利律子が、大分空港に着いたときには、すっかり夜になっていた。 「俺、レンタカーの手続きをしてくるから、待っててくれる?」 「わかった」 利津子は、携帯電話を操作しながら、愛想なく答えた。 僕は彼女と別れると、レンタカーのカウンター窓口へ向かう前に、喫煙所に立ち寄った。 喫煙所に入って、タバコを吸っていると、ベンチに座っている利津子の姿が、僕の視線に入ってきた。 彼女はベンチに腰掛けて、電話で誰かと楽しそうに会話をしていた。

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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【第8話:逮捕】

僕達が葬儀場に着いたのは23時前だった。 車を駐車場に止めて外に出ると、あたりは静寂に包まれていた。 葬儀場がある場所は、人里離れた山の中なので、葬儀場からだけ人工的な灯りがこぼれている。 葬儀場に入ると、妹の弥生が明るく出迎えてくれた。 「おかえり、お兄ちゃん」 「おう。幸司君は?」 幸司とは弥生の夫だ。 「明日の朝に来るよ。りっちゃん、久しぶり。最近帰って来てくれんけん、寂しかったんよ」 弥生が、満面の笑みで、利律子の手を握る。 利律子は、僕の家族と、

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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【第9話:再起】

出所したとき、僕は25歳になっていた。  高い壁を抜けて空を見上げると、初夏の空が青く澄んでいた。  久しぶりに嗅ぐシャバの空気を、ゆっくり吸って、僕は駅に向かった。

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DV警察官のお父さんと、不良少年だった僕。【第10話:償い】

僕達が、父の棺のある部屋に入ると、ちょうど母が起きてきた。 「帰ってきちょったんね」 「うん」 「お義母さん、ご無沙汰してました」 「利律子ちゃん、よう帰って来てくれたなあ」 母は疲れているはずなのに、僕たちの帰省を喜んでくれた。 「おふくろ、疲れてるだろ。明日も忙しいんだから、休んでなよ」

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