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箱舟と祈り

 お母さんのふるさとではお盆に灯篭流しをする。流しに行くのはお母さんが亡くなってからずっとだ。もう30年になる。

 お母さんに愛されていたか、私は今もずっと不安だ。妹の方が出来は良かったし、よく周りの大人からは「お姉ちゃんはさっぱりね」と言われていた。妹は反抗期は起こらず、すくすくと真っ直ぐに育った。

 私は妹に対する劣等感の塊に成長した。でもお母さんへの愛は誰にも負けなかった。


 私が大学に行く段になり、合格した次の日ガンだと分かった。私が20になる前にお母さんは死んでしまった。亡くなる前に妹の20のお祝いが出来ないことを悔しいと漏らしたらしい。

 妹はお母さんに対して無関心に見えた。盆も帰って来ない。仕事だから、忙しいからと言って命日にも帰って来ることは無かった。

 灯篭流し、妹だってきっとお母さんの事を想っているはずだ。だから灯篭には妹の分も祈りを込める。
 灯篭の船は風のせいかいつもより早く川下へ向かっていく。最近はゴミの問題で灯篭流しというよりは小舟でまとめて流すことにしている。私には箱舟に見えた。


 お母さん、行ってらっしゃい。