野瀨君を祝ふ會 「東京近郊フナ釣場案内」の出版を祝して
野瀨君を祝ふ會
「東京近郊フナ釣場案内」の出版を祝して
日時 昭和十三年九月二十二日夕
於 東京本郷帝大前白十字
奥平祥一 今度野瀨君が「東京近
郊フナ釣場案内」を出版し
ましたので、一夕その勞を
犒ふたま知友諸君のお集り
を願ひました。忌憚のない
御批評を賜り同君に餞けた
いと存じます。どうぞ、そ
ちらから。
齋藤芳也 野瀨君はこの本を出版
したのを機會に斷然釣をや
め、本來の文學の方へ熱中
したいといひますが、自分
はこれからます/\釣を始
めようと思ふ。そこで最も
よい竿を一本頂戴したい。
加藤友康(釣魚聯盟)私の待望の本
です。數ある群書中斷然一
頭地を抜いてゐます。野瀨
君の本により、今後釣技も
一進歩を來すでせう。
奥川榮(釣之研究社) 野瀨さんは
釣では食へないとおつしや
るが、今日東京市内五十萬
の釣人中その一割が本を買
ふとしても決して採算が成
り立たないことはない。次
に野瀨さんに希望するとこ
ろでありますが、どうか今
後豐富な文學的素養を利用
して釣に關する文献を後世
に殘すためゼヒ/\書き殘
していたゞきたい。
寺島柾史 自分は釣に關する専門
的なことは判らない。從つ
て今度の野瀨君のフナ釣場
を書いた本も一個の文藝書
として座右に永くとゞめて
置きたい。野瀨君は文學的
手腕もなみ/\でない。さ
ういふ人の書いた釣の本だ
からかならず特異な随筆集
として廣く愛好されるだら
うと信ずる。
大坪正理 おめでたうございます
野瀨さんもうれしいだらう
が、野瀨さんを今日まで仕
上げた蔭の人奥さんのこと
を考へると胸があつくなり
ます。
廣谷千代造 出版社としていろ/\
不行届きの點を著者並びに
讀者の方にお詫び申上げま
す。しかし取次方面の前景
氣がよいのでよろこんでを
ります。再版はまちがひな
いところだらうと存じます
高松茂 私は商賣ちがひのカス
テラやで、釣のことは一向
素人なのですが野瀨君その
人のことは知り過ぎるほど
よく知つてをります。早速
一本御註文申上げました。
相村正巳 僕は野瀨君がやつぱり
文學へ行かねばならない人
だとおもふ。東京へ出て來
て十何年にもなるが、今ま
で何をして來たのかと内心
不平に堪へなり。それを機
會にわれ/\友人の期待に
背かないやうにたのむ。
菊池與志夫 野瀨君の今度の出版は
われ/\釣きちがひを狂喜
させた。私の社(王子製紙
)にも五十人ほどの小さな
釣クラブがあるから早速宣
傳しませう。釣は金がかゝ
らず、さつきの奥川さんの
お話ではないけれど國民保
健のため厚生省でも大いに
奬勵してゐるのですから今
後大いにやるべきです。
江原小彌太 僕は今夜十五年ぶりで
野瀨君の怪氣焔を聞いて驚
いてゐるところだ。さて、
僕は釣には全くの素人なの
だから一言もなしだが、そ
の代り魚を釣つてゐるひま
に自分の女房をまんまと釣
とられた男の話をしよう。
(と前置きしながら面白い
話をする。いつか折があつ
たら江原先生御自身タイム
スの誌上に發表してくださ
るやうお願ひして置く。)
荒木直高 まだ本を見ないのでな
んとも申せませんけれど、
野瀨君の十ヶ年の經験が凝
つて一巻となつたのですか
らきつと完全なものだらう
と信じます。私なども早く
釣を樂しむことの出來るや
うな心境になりたいと存じ
ます。
中村星湖 内容を見ないで序文を
書かされたので一寸面喰ひ
ましたけれど、野瀨君は私
達が十年も前にやつてをり
ました農民文藝會に出席し
てくれたのでその人となり
はよく知つてをります。野
瀨君が特にフナだけのこと
を書かれたことについては
内心大いに敬服してをりま
す。私も以前釣の本を書い
たことがありますが、フナ
だけはとう/\敬遠してし
まひました。それからさき
ほどどなたか野瀨君の文章
に言及されたやうでありま
すが、むろんその枯淡な文
章は随筆としても一頭地を
抜いてゐることは野瀨君を
知る私が保證します。文學
として見ても立派なもので
す。たゞ希望をいへば、東
京西郊方面をもう少し詳し
く書いて貰ひたかつたこと
です。
野瀨市郎 いろ/\お言葉を賜り
ありがたうございました。
自分としては意に滿たない
ものでありますが、足らざ
るところは今後ボツ/\補
つて行きたいとおもひます
僕も來年は四十です。この
へんでまご/\してゐた日
には永からぬ一生が暮れて
しまひます。ホント―に本
格的な文學に打ちこみたい
と思ひます。敢て大器晩成
を自稱する意味ではありま
せんが、どうか永い目をも
つて見守つてやつてくださ
い。おねがひ申上げます。
(奥平記)
(越後タイムス 昭和十三年十一月六日
第一千三百九十四號 一面より)
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#古書 #古本 #越後タイムス #釣り本 #中村星湖
#江原小彌太 #野瀬市郎
(写真)前列左から中村星湖、荒木直高、江原小彌太、
野瀬市郎、相村正巳、高松茂
後列左から寺島柾史、菊池與志夫、大坪正理、齋藤芳也、奥川榮
加藤友康、奥平祥一、廣谷千代造の諸氏。
(以下、一錢亭文庫運営者記す。)
「野瀬市郎」さんのことを検索していて、
「ゆたりやの亭主」のブログ記事、「史話
故寺島みつ子夫人 追悼號」の記事をみつけ
た。
「ゆたりやの亭主」さんは戦時中の空襲で失わ
れた御祖父様である寺島柾史さんの著書を調
査、蒐集されていて、会ったことのない「祖
父」に関して調べているという点で私と共通点
があるかな(寺島柾史さんは多くの著書を残さ
れていてとても偉い方なのですが・・・)と思
いTwitterにいらっしゃったゆたりやの亭主さん
にご挨拶させていただきました。
その後、サムネイルになっている越後タイムス
に掲載されたこの写真の・・・
後方左から一番目に寺島柾史さん、その隣に
一錢亭が写っていてとても驚きました。
一錢亭と寺島柾史さんは直接の知り合いでは
なかったようですが、野瀬市郎さんの繋がり
でこのパーティに出席していたようです。
また、当初、柏崎市立図書館から複写を送っ
ていただいた際、写真がとても不鮮明で、原
本からの複写をお願いしたその夜に、私の父
がなぜか古いアルバムを出してきてくれて、
その中からこの写真が出てきたときはとても
驚きました。
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