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暮 笛 集 (二)

暮笛集 (二)    草川 義英

うつとりと鹿に見入りしこころにて三
笠の山を仰ぎてゐたれ


春日なるこれやいこひのなつかし
さ奈良戀ふ子らに小鹿きて鳴く


春日野に順禮の子といこふれば小
鹿きて鳴く秋の夕暮


はるかなる奈良をかこめる山の峰
霧にぬれつゝ遠ざかる見ゆ


小鹿なく春日の森の旅いこひ日の
ふるままに心つかれぬ


ほの暗き春日野あたり夕さりて鹿
鳴く森に啄木鳥のゐる


秋を寒み雨のはれまの山路をば鹿
に鳴かれてくるよしもがな


旅につかれきてもむかしを戀ふも
のを奈良の都の山櫻かな

――古歌にかしづく――

道のべの草穂のゆらく月夜野に悲
しく雲をはしる月よな   (終り)

   ―晩秋雲脚記(三)から―

(函館毎日新聞 大正七年一月十一日 十日夕刊 一面より)




※草川義英は與志夫の函館商業学校時代のペンネーム、同学校の生徒
 を中心に結成された夜光詩社という短歌クラブに所属していた。
[解説]夜光詩社について



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函館市中央図書館、国立国会図書館、所蔵


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