「対立」を「共創」に変える5つのヒント
先日はプロダクトマネージャーカンファレンス「pmconf2024」で登壇して参りました!「社内の意思決定にはパワポプレゼンよりドキュメントの黙読が良いよ!」というメッセージをパワポで届ける、シュールなセッションを開きました(笑)。
ご参加頂いた方の中には「これぜひ社内研修に使いたい」と言ってくださった方もいたので、ご興味ある方はこちらのリンクをご覧ください。
さて、本題です。チームで事業に取り組むと、優先順位や進め方について意見が分かれることはありますよね。読者の皆さんは、そんな時はどうしていますか?
例えば、各メンバーが最優先事項について異なる考えがあったとします。
エンジニア:「インフラの再構築が急務」
デザイナー:「ユーザーのオンボーディング(導入)体験の改善が必要」
PM:「生成AI機能を搭載しないと、出遅れてしまう」
こんな時、「どの決断が正しいのか」を見極めるのも大事ですが、同時に「どうしたら皆が納得感を持ってその決断に辿り着けるか」も同じぐらい大事です。自分が思う「正解」を押し通そうとしても、社内で異なる視点や懸念を持つ人がいれば、対立や不和につながるからです。
どうすれば、建設的に議論を深めながら、チーム全体をより良い意思決定へと導けるのでしょうか?
元MetaのデザインのVPであり、新任マネージャーのバイブルにもなったベストセラー「The Making of a Manager」著者のジュリー・ゾーが先日公開していた「5つのステップ」が、私の視野を広げる機会になったので、今日はその内容を共有したいと思います。
1. 「輪」を描き、相手を味方として捉える
まず大切なのは、「自分 対 相手」の構図から抜け出すことだと、ゾーは言います。「私が正しい、あなたは間違っている」という対立軸は、チームを分断し、前進を阻むからです。
代わりに、全員をひとつの「輪」の中に入れて考えてみます。すると、「私とあなた」ではなく、「私たちと問題」という図式に切り替えることができます。
同じ会社で働く私たちは、共通のゴール(顧客価値の創出、収益目標の達成、さらには次の投資ラウンドへの準備など)を共有していますよね。そこに焦点を当て、「私たちが達成すべき目標」を最初に明確化することで、意見の相違があっても、「同じ方向を向いた仲間」同士の議論に変えることができます。
「この会社を成功に導きたいからこそ、最良の判断をしたい」という前提を共有すれば、「誰が正しいか」ではなく「どの選択が会社の成長に最も寄与するか」を軸に議論ができます。
2. 「6人の盲人と象」のように、皆「部分的な真実」を見ていることを認識する
次に大事なのは、皆が「部分的な真実」を見ていることを理解することです。インドの寓話に、盲目の男たちが象に触れ、それぞれ異なる感触を「象のすべて」だと信じる話があります。実際には、象の足は木の幹のよう、耳は革のよう、尻尾はロープのよう、と各人は象の一部しか感じ取れていません。
組織内の議論も似ています。デザイナーは使いやすさから世界を見て、エンジニアはコードの品質やパフォーマンスを重視します。営業は収益性や顧客獲得効率を考え、CEOは市場トレンドに敏感です。全員が「部分的な真実」を把握しているに過ぎません。
これを認め、その違いを言葉にすることで、対立する相手も「間違っている」のではなく「別の面を見ている」ことがわかります。そうすれば「この人はなぜそんなに頑固なのか」ではなく、「それは象の別の部位なのだな」と理解し、真実を組み合わせる建設的な土台を築けます。
3. 探偵になり、仮説と極端なシナリオから「何が正しいか」を探る
輪を描き、全員が真実の一部を見ていることを認めたら、次は「探偵モード」で議論を進めます。
先ほどの例で、「インフラの再構築」「オンボーディングの改善」「新しい生成AI機能の搭載」のどれが最優先か悩んでいたとします。ここで使える質問は、「何が事実ならば、その選択肢が最適だと納得できるか?」という「条件提示型」の問いです。
「性能低下で顧客が大量離脱するぐらい深刻なら、インフラの再構築が最優先」
「新規顧客流入が大量に見込まれ、かつ現行のオンボーディングがそれを阻害するぐらい悪い体験なら、オンボーディングの改善が急務」
「生成AI機能でプロダクトの価値が2~3倍に跳ね上がり、競合優位性を築けるならAI導入が正解」
こうした「極端な状況」を仮定すると、誰もが「その条件ならそれが正しい」と合意しやすくなります。この合意は、議論を「私対あなた」から「条件が揃えばこの結論に至る」という科学的な態度へと導きます。
4. データと証拠でシナリオを検証する
次に、そのシナリオに合う兆候があるかを確認するため、データや証拠を探します。
「顧客の離脱が性能低下により起きている証拠はあるか?」
「新規ユーザーが実際に大量流入する見込みはあるか?オンボーディングの改善で活用率は上がるか?」
「AI機能で差別化可能か?顧客は本当にそれを求めているか?」
ここで言う「データ」は数値に限りません。顧客インタビュー、CS(カスタマーサクセス)チームやセールスへのヒアリング、試作品のテスト、他社事例、アナリストレポートなど、さまざまな情報源が役立ちます。
完璧な確証は得られなませんが、少しでも証拠があれば、意思決定の精度は上がります。時間がなければ、最小限の検証で「よりマシな判断」を狙いましょう。
5. 決定権を「正しい人」に委ねる
それでも意見が割れることはあります。全てのデータを集めても、100%の確信は得られないことが多いからです。
その場合、重要なのは「誰が決めるか」を明確にすることです。常に同じ人物が判断する必要はありません。その決断には、最も適切な「経験」と「文脈理解」を備えた人物が最適です。技術的な判断ならエンジニアリングリーダー、顧客体験重視ならデザインリーダー、全社的な戦略ならCEO、などです。
我々がリーダーとしてできるのは、「この決定は誰が最も的確に下せるか」を提案し、合意を得ることです。これが組織の「意思決定の質」を高め、メンバー全員に納得感を与えます。
学びを蓄積するカルチャー
決定を下したら終わりではありません。1ヶ月後、3ヶ月後、半年後に振り返りましょう。その判断は正しかったのか、何が想定と違ったのか。これは単なる後悔ではなく、「顧客に関する理解」「プロダクト戦略」「測定指標の選定方法」「意思決定プロセスそのもの」さらには「個々人の判断精度」について学ぶ機会です。
自分や他人が下した過去の判断を定期的に振り返り、その結果を可視化すれば、チーム全体の思考力が進化します。特定の分野で何度も予見できる人がいれば、その人の意見をより重視するべきかもしれません。逆に、繰り返し外れる人がいれば、判断基準や領域を見直す契機になります。こうして組織は徐々に「賢く」なっていくのです。
問題は移ろい、学びは残る
今日の課題は明日には消え、また新たな課題が生まれます。意思決定は流動的で不確実です。しかし、「チームが協力して意思決定の質を高める能力」や「共通の目標を軸に建設的な議論を行うカルチャー」、そして「振り返りから得られる学びや信頼関係」は、長期的な価値を生む財産です。
最初に想定した「問い」よりもはるかに大きな真実や可能性があることもあります。初めはAかBかという選択肢があっても、後の学びで「全く別のCやD」という選択肢が見つかるかもしれません。継続的に考え続けることで、チームはより賢明な方法で問題に取り組み、豊富な選択肢と洗練された意思決定プロセスを持つようになります。
おわりに
目の前の課題は次々と変わる一方、意思決定の流れを改善すれば、全員が部分的な真実を持ち寄り、証拠に基づき、最適な決定者を選び、結果を振り返って学習できる。この一連の流れを身につければ、チームがヒットを生み続けられる可能性が着実に上がります。年末年始というこのタイミングは、今年の意思決定を振り返る良い機会かもしれないですね。