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Europe Divided 紹介・レビュー 75/100

記事構成は以下の通りです。

1、ゲーム紹介<テーマ><ルール><何をするのか>

2、ゲーム評価<4項目><総括><評価点>


1、ゲーム紹介

2人 90分 14歳以上 作者:David Thompson & Chris Marling

カードドリブン、デッキ構築、エリアマジョリティ、ウォーゲーム

<テーマ>

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両プレイヤーは第二次世界大戦後の冷戦時代と冷戦後の現代における西ヨーロッパ(NATOとEU)とロシアのいずれかを担当し、中央・東ヨーロッパとコーカサスの紛争地域の支配をめぐって争います。なんか歴史用語多くて複雑そう…と敬遠してしまいそうですが、ゲームプレイをする上ではそういった知識は不要(もちろんあればより楽しめます)で、「ヨーロッパとロシアの間に挟まれている微妙な立ち位置の国たちを相手よりも多く支配するゲーム」くらいでプレイできます。

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ゲーム終了時の図。2ラウンドごとに決済されるイベントカードや黒海・バルト海の支配を目指しますが、1ラウンドで打てる手はたった2手。ジリジリとした戦いが繰り広げられます。ウォーゲームですがお互いの領土(緑と赤の地域)は不可侵領域であくまでも黒の紛争地域をめぐって争います。


<ルール>

プレイヤーはイベントカード(ヘッドライン)の条件達成によって勝利点を獲得したり、時代ごとで得られる支配地域からの勝利点を獲得したりすることを目指して紛争地域の支配を進めていきます。

1ゲーム20ラウンド(10ラウンド×2時代)、1ラウンド3フェイズ(イニシアチブ、アクション、ヘッドライン)

①イニシアチブ

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先攻と後攻を決めるフェイズです。各勢力には専用のデッキが用意されています。プレイヤーは自分のデッキからカードを4枚引いてこのラウンドで使用する2枚を決定し、左下にある白地の丸に書かれた数字の合計値をお互いに宣言してこのラウンドの先攻・後攻が決定します。

②アクション

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イニシアチブで決定した2枚のカードをプレイします。イニシアチブで使う数字が大きいほどアイコンの数が多い、つまりアクションの選択肢が多くなっています。ただ、あくまでも1枚のカードで行えるアクションは1つだけなので、実際に1ラウンドで行うのは2枚のカードをプレイする2アクションだけ。アクションの内容は画像の上から順に「紛争地域への影響力ダイスの配置」「配置した影響力ダイスの強化」「資金調達」「軍隊の配置」「軍隊の移動」「特殊アクション」です。基本的には6の目のダイスを配置できれば支配完了、その6の目を5の目に下げる軍隊を送って奪還をする。そのために隙を見て資金調達をするというようなプレイが繰り広げられます。

③ヘッドライン

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2ラウンドに1回のペースで各勢力の目標カードの達成状況を確認します。目標カード自体は4ラウンド前から公開されているので、基本的にはこれらの達成のためにプレイヤーはアクションを行っていくことになります。

基本的にはこの3フェイズ(2ラウンドに1回は2フェイズ)を20回繰り返していくだけです。プレイ感は見た目に反して軽いです。


<何をするのか>

ゲームは全部で20ラウンド。各ラウンドで両プレイヤーは2アクションを行うのでゲームを通して40アクションという計算になります。ではプレイヤーは何を目的にアクションを重ねるのかといえば大きく分けて3つです。

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1つ目は紛争地域の支配です。6の目の影響力ダイスが配置されている地域はその勢力によって支配され、10ラウンドごとの時代が終了したときに支配した地域1つにつき1勝利点を得られます。1度支配された地域を相手プレイヤーが奪還するためには軍隊を送り相手の影響力ダイスを5の目に減らし、その上で自勢力の影響力ダイスを6まで増加させなければなりません。この熾烈な争いが本作を楽しむ醍醐味です。

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そしてその支配地域の中間目標にもなり、本作における勝利点獲得の大部分を占めるのが2つ目の目的となるイベントカード(ヘッドライン)です。これらは約4ラウンド先の目標を示しており、どこの地域から支配していくかを決める指標になっています。達成すると勝利点や一部のカードが強化される報奨が得られるのですが、お互いの目標地点が被っている(上図ではPoland)と達成が不可能と見た側のプレイヤーが相手プレイヤーの達成を妨害するなんていう戦略も生まれます。

このヘッドラインカードは史実をもとに構成されており、フレーバーテキストも書かれています。冷戦後の1990~2019年のまさに現代の歴史なので、それらを学んでこのゲームをプレイするとより楽しめるでしょう。数寄ゲームズさんhttps://sukigames.thebase.in/から販売されているの和訳付き英語版にはフレーバー訳もついています。

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3つ目の目的は勝利点には直接影響しないもののゲームを有利に進める効果が得られるバルト海・黒海の支配です。周辺国への影響力によって海の支配も変化するのですが、得られる恩恵の大きさからシーパワーの支配の重大さを学ぶことができます。


ゲームはジリジリと牽制し合う形で進行していくのですが、その均衡を突如破る「優位カード」というものが本作には存在します。

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各勢力には7枚の優位カードがあります。前後半の10ラウンドそれぞれの初めにこのデッキから3枚を引いて2枚を手札とします。この2枚の優位カードは各10ラウンド中の自分の手番であればいつでもプレイすることができます。本来は手番に2アクションだけなのですが優位カードは追加でプレイすることができます。奇襲的なプレイによって逆境を切り抜けたりリードを広げたりすることができる強力な効果をもっていますが、使えるのは1度だけですしタイミングを誤らないことが重要です。そしてそんな強力な優位カードが相手の手札にあるだけでいつ有利な盤面がひっくり返されるかわからないというプレッシャーを感じながらの緊張感のあるプレイを楽しめます。


2、ゲーム評価

〇ルールが簡単でコンパクト

本作の紛争地域の支配に関するルールは「6の目のダイスが配置されている」ことのみが条件となっていてトワイライトストラグルなどのウォーゲームと比べると処理が簡略化されています。カードプレイに関してもアクションカードであればあくまで最大6つの選択肢から1つを選ぶだけ、ヘッドラインカードも目標と報奨がアイコン化されていて理解しやすいので文章を読む必要がほとんどありません。これらはゲームの理解のしやすさやプレイの敷居を下げることに大きく貢献している点だと感じます。

〇見通し&戦略が立てやすい

2アクション×20ラウンドをやってください——はいどうぞ!と紛争地域にほっぽり出されるのではなく、2ラウンドごとに目標となるヘッドラインが示されているのである程度ゲームプレイの方針が立てやすくなっています。しかしだからと言って「ゲームをさせられている」という感覚はありません。なぜなら「今回のヘッドライン達成は難しそうだ→相手の達成を妨害しようor自分の次のヘッドラインの布石を用意していこう」といった思考を巡らせることが可能だからです。ヘッドラインカードは公開情報として4枚場に出ていますが、それ以降に出てくるものは両プレイヤーが3枚ずつ手札に持っています。場のヘッドラインを捨ててでも、つまり今後4ラウンドに待ち受けるヘッドラインの目標を達成できずとも、自分の手札の中にある強力なヘッドラインの目標を達成するための布石を準備していくことさえもできるのです。

〇セオリーはあるが常に正しい手はない

海を支配した方が有利盤面を作れる、まずは目標達成のための地域から支配していく。そういったセオリーこそあるものの、それらの優先順位が常に高いかといえば状況によって考えなければならない構造になっています。イニシアチブに関しても同様で、先攻を取ってリードを確実にしたいときもあれば後攻を取って先手の動きを見てから動きたいときもあります。手探り状態の中で最善手に導いていくのはまさに司令官になったかのような体験を味わえます。

〇成長要素や拡大再生産のような要素はない

紛争地域を支配するとその地域のアクションカードが手に入りますが、これはデッキを強化するどころか場合によっては弱体化させることさえあります。このことから能力開放システムや資源供給基盤の形成は一切ない仕上がりとなっていて、ゲームを通してジリジリとした戦いを楽しみます。


<総括>

2人戦のゲームにしては120分というプレイ時間は長く見えますが、実際プレイしてみると常に頭を使いっぱなしというわけではないので軽く感じます。ワカプレやリソースマネジメント系のゲームを多く所持する筆者にとっては全く異なるベクトルのゲームですがとても気に入りました。ルールが複雑ではないのでプレイの敷居がとにかく低いですし、それでいて新たな経験ができるゲームとなっているので強くお勧めできます。ウォーゲームの新たな切り口となっている作品だと思います。

<評価点> 75/100

ポジティブ

ウォーゲームにしてはとっつきやすい、ルールが複雑でない、歴史に興味を持てる、アートワーク・デザインがおしゃれ、プレイの見通しが立てやすい、リプレイ性が高い

ネガティブ

驚くほどの新システムは搭載されていない、あっという間に2時間が溶ける(半分誉め言葉)

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