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No,180.鋼の心「折れない心!」レジリエンスについて
はじめに
メンタルヘルスの不調(心理的ストレス)は、人的要因や環境的要因などさまざまである。それらがもたらす要因は、その人の原動力(resources)に負担をかけたり、資源を越えたり、幸福を脅かしたりすると評価されるもの(lazarus,1994)とされている。
Lazarus&Folkman(1984本明・春木・織田監訳1991)のトランスアクション理論は、ストレス研究の代表的な理論としてあげられる。加藤(2000)はLazarusのコーピング(対処方法)をもとに、大学生用対人ストレス尺度を抽出し、どのようなコーピングが心理的に影響を及ぼすのかを明らかにした。また、影山ら(2004)も、労働者用のストレス・コーピング尺度(BSCP)を開発し、信頼性・妥当性を検討している。しかし、このようなストレッサーを受け、ストレス状態がすべての人が抑うつ状態になるわけではない。
小塩ら(2002)は、それらを乗り越えるプロセスには、レジリエンスという概念が有効であるとし、レジリエンス状態にある者に特徴的な心理特性である精神回復力尺度を作成した。
精神的回復力(レジリエンス)とは
レジリエンス(resilience)とは、困難で脅威的な状態にさらされることで一時的に心理的不健康の状態に陥っても、それを乗り越え、心理的病理を示さず、よく適応している状態のことを指す概念である(小塩ら、2002)。
精神的回復力は、さまざまな心理的脅威にたいして、重要な役割を担うだろう。平野(2010)はレジリエンスを資質的要因と獲得的要因の7因子に抽出し、遺伝的要素が強い資質的要因と後天的に身につけやすい獲得的要因を明らかにした。
資質的要因(遺伝的要素が強い)
➤ 楽観性・・「困難な出来事が起きても、どうにか切り抜けることができると思う」
➤ 統御力・・「つらいことでも我慢できる方だ」
➤ 社交性・・「交友関係が広く、社交的である」
➤ 行動力・・「自分は粘り強い人間だと思う」
獲得的要因(後天的要素が強い)
➤ 問題解決志向・・「人と誤解が生じたときには積極的に話をしようとする」
➤ 自己理解・・「自分の性格についてよく理解している」
➤ 他者心理の理解・・「他人の考え方を理解するのが比較的得意だ」
以上の資質的・獲得的要因が高い者は、ストレス症状に陥った場合、精神的回復力(立ち直る力)が高いだろう。
おわりに
精神的回復力(レジリエンス)は、ストレスや傷つきをもたらす状況下で感情的に振り回されず、ポジティブに、そのストレスを打破するような新たな目標に気持ちを切り替え、周囲のサポートを得ながらそれを達成できるような回復力である。
また、自分の気持ちや考えを把握することによって、ストレス状況をどう改善したいのかという意志をもち、自分と他者の双方の心理への理解を深めながら、その理解を解決につなげ、立ち直っていく力であると示唆される。
参考文献
平野真理(2010)「レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み-二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成-」『パーソナリティ研究』第19巻、第2号、pp94-106
影山隆之・小林敏生,・河島美枝子・金丸由希子 (2004)「 勤労者のためのコーピング特性簡易尺度 (BSCP) の開発・信頼性・妥当性についての基礎的検討」『産業衛生学雑誌』 第46巻、第4号、pp 103-114
Lazarus,R.S.,&Folkman S.(1984)Stress,appraisal,and coping Springer
(本明寛・春木豊・織田正美(訳)(1994)実務教育出版)
小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治 (2002)「ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性-精神的回復力尺度の作成-」『 カウンセリング研究』第35巻、第1号、pp57-65