ニューウェーブ彫師(これからの時代にあった彫り師のカタチ)
彫師(タトゥーアーティスト)ってどうやったらなれるのか。
おそらく、ほとんどの人が知らないだろうし、別に知りたいとも思っていないかもしれない。
タトゥーの技術と知識を修得するための専門学校があるわけでもないし、ハウツー本が出版されているわけでもない。ネットで探しても有益な情報なんて見つからない。
では、世の中の彫師と呼ばれる人たちはどのようにして「彫師」になったのだろうか。
見習い(弟子入り)からスタート
まず、彫師になるためには、どこかのタトゥースタジオに見習い(弟子)として入るしかない。そこで知識と技術を教えてもらうしか道が無い。
じゃあ、適当に良さげなスタジオを探して見習いとして応募すれば簡単に雇ってもらえるかと思うと大間違いだ。
まあ、ほとんどの場合は断られるだろう。
理由は様々だと思うが、そもそも弟子なんて雇ってる余裕がないのかもしれない。それに、なぜか彫師になりたい人にはいい加減な輩が多いので(あくまでも経験上多いというだけで全員ではない)、真剣に教えても途中でケツを割ったり、ちょっと厳しくすると飛んでしまったり、というようなことも関係していると思う。
中でも最悪なのは、時間をかけて育てあげ、やっとの事で彫師としてデビューし、これから稼いでスタジオに利益を還元してもらわないといけない時に、独立するからと言ってスタジオを辞めることだ。
ある意味仕方のないことかもしれないが、育てた方からしたらたまったもんじゃない。裏切りにも似た行為だ。(いや、もう裏切りだね。)
というようなこともあって、ほとんどのスタジオでは見習いを雇う時には、あるルールが存在する。弟子入りを受け入れる際のリスクマネジメントだ。
保証金を払う
金額はスタジオによって様々だが、一般的には50万〜100万円程度をスタジオに払わなければならない。もちろん全てのスタジオではなく、保証金が要らないスタジオもあると思う。
この保証金は返金されるのか?というとそれも、そのスタジオによる。例えば彫師としてデビューし、3年間や5年間そのスタジオで勤務したら返すということもあるし、全く返金されない場合もあるだろう。
一見すると、高いように思えるが、専門学校の入学金と思えば妥当な金額ではないだろうか。専門学校では入学金が返還されないことを考えると、ある一定期間働けば返還してくれるスタジオはむしろ良心的とも言える。
月謝を払う
これもスタジオによってまちまちだが、毎月授業料的なものを払わないといけない場合がある。(無い場合もある)
だいたい、数万円程度が一般的だろう。
同じく専門学校の授業料を毎月払うのと同じ仕組みだ。
彫師からすれば、自分の仕事の手を止めて弟子に教えるのだから、まあ納得できないわけでもない。
このように、保証金と月謝という制度があるが、スタジオによっては規則や契約が変わる。いわゆる「縛り」みたいなものも、ほとんどの場合存在すると思っていて間違いはない。
そしてもう一つ、重要な問題がある。
弟子をしている期間は賃金は発生するのかどうか?
ということ。
結論から言うと、ほとんどの場合は何年も無給で働くことになる。
弟子や見習いという言葉を使う職業においては、わずかでも賃金が発生する場合が多いと思うが、タトゥーの世界では発生しない。
これも、先ほどから再三述べているように「専門学校」に通っていると思ってもらえれば納得できるだろう。自分の意思で好きこのんで専門学校に通って専門的な知識と技術を教えてもらいながら賃金が発生する。そんなわけがない。
なので、タトゥースタジオでは見習いは、ほぼほぼ無給で勤務?(というと語弊があるかもしれないが)まあ、修行しているわけだ。
お昼はスタジオに通い雑用を押し付けられ、夜はどこかでアルバイトをして生活費を稼ぎながら、暗くて辛い長〜い期間を経て、ようやく一人前の彫師になれるのだ。
ただ、このように過酷な環境を強いられるのだが、いざタトゥーの技術や知識をどんどん教えてくれるのか?というとそうでは無い場合が多い。(もちろんちゃんと教えてくれるところもありますよー!)
職人の世界特有のアレだ。「技は見て盗め」的な感じの教えかた。弟子というよりもはやパシリに近い感じで扱われることもあると思う。なかなか彫師が育たないのだ。
-----余談だが、ちゃんと教えてくれないので、見よう見まねで中途半端に技術を覚え、未熟な半人前の状態でスタジオを辞めて独立して「彫師」を名乗っているスタジオもある。言わずもがな、クオリティは酷い。こういうのが一番危険だ。。。
話を戻すと、これが基本的な彫師になる方法だが、僕はこんな事を言いたかったのではない。この旧態依然とした、非効率的な弟子入り制度は、これからの時代には向いていない。今すぐ廃止すべきだと思う。
この古い制度が今も尚続いているのが、彫師の世界だということをわかって欲しかったのだ。
タトゥーを、今の日本社会においてもっと広く浸透させ、タトゥーに対する偏見を無くすためには、しっかりとビジネスとして捉える必要があると考えている。ビジネスとして捉える以上、人材の育成は不可欠で、この弟子入り制度では人材が育つスピードと数に限界がある。
ニューウェーブ彫師
何年もの厳しい下積みを経て、やっと1人の彫師(タトゥーアーティスト)が生まれる。そんな非効率的で生産性に欠けた人材育成はこれからの時代には適していない。
では、どうすればいいのかというと、答えは明白。
ちゃんと教えればいいだけ。
「技は見て盗め」という言葉の意味もわかるし、もちろん大事なことではあると思うが、教えた方が早いのであれば教えたらいい。
最近では、寿司の専門学校を卒業して寿司屋を開業し、わずか数年?でミシュランの星を獲得した寿司職人がいるのだそうで、寿司業界も変わったということ。立派な寿司職人になるために、どこぞの有名な寿司店で調理見習いから始める必要がなくなったという何よりの証だ。
タトゥーだってそう。残念ながらタトゥーの専門学校は日本には無いので、スタジオに弟子入りするしかないのだが、スタジオ側がきちんと教えればいい。ちゃんと教えて、少しでも早く彫師としてデビューさせた方が、スタジオとしても収益が増えるはずなのだ。
弟子側からしても、早くデビューして自分の手で売り上げを上げ、スタジオから給与として賃金をもらって生活できる方が良いに決まってる。
そんなスタジオや、そんな環境でデビューした彫師が増えれば、日本のタトゥー業界も少しは変わるんじゃないだろうか。
彫師といえば、どことなしかアングラな世界の住人というイメージを抱く人がまだまだ多い。アングラな世界にコネクションが無い人にとっては、一般的に彫師との接点が無いから余計にそう思うのかもしれない。
もっと門戸が開かれれば、最短ルートで彫師になることができたら、長くて無駄な下積みを経験しなくても彫師になることができるのなら、今まで彫師になりたいけど諦めてきたような人たちにもチャンスが生まれる。
彫師の人口が増えればスタジオの数も増え、みんなが切磋琢磨し、タトゥーはサービス業としてスタジオ同士の競争が今より激しくなる。
そうなると、技術の無いスタジオ、非衛生的なスタジオ、いかつくて愛想のない彫師は淘汰されていき、結果として優良なスタジオが生き残る。
おわりに
現在、タトゥーは医療行為かどうかを求めて裁判が続いている。今後のタトゥー業界を変える、人々のタトゥーに対する悪いイメージを変える、その方法は色々あると思うし、様々な考え方が存在するとは思う。
でも、「教育」は未来を変える一つの方法ではないだろうか。
良き伝統は守りつつも、古くて時代にそぐわないものは捨てて、進化しなければ衰退しかない。
近い将来、ニューウェーブ彫師が活躍する日本であって欲しい。
※本記事の内容はあくまでも僕個人の独断と偏見で、世間のタトゥースタジオは必ずしもこの通りではありません。