室 積(むろづみ)
── 郷土詩篇より ──
おしなべて空はくらく
ほむらが海山の恋をむすんだころに
川もまた海ぞこにきよい慕情を横たえて流れていた
星たちのいくまん万年の恋におとらず
川はたゆみなく岩をあらい石をあらいそれを小粒の砂に砕いて
まろまろと厚い玉模様のいのちを海ぞこに這わせていった
川は海ふところをひがし寄りにみなみのかたへながれながら
あふれちるまさごの爪でおかのうえにしろい虹をえがきながら
やがてあおくふかい影をやどしてたたずむ小島へと身をよせた
海のあなたや山むこうのみやまおくでは
時折たかいほづつのひびきがいんいんと空をゆすって
野山や島や流れる水は ためにさかえたりおとろえたりした
川のいのりはしかも絶えず
みずからえがいた三里にあまる虹の橋下を
いく世をかけてあおい島かげへとかよいつづけた
わかい白象のかおかたちをしたその島は
こばむでもなく 容れるでもなく
ながれよせる川のまさごたちをつぎつぎと遠く抱いた
しかし川の寄せる慕情もむなしく
かえって島をいつしかまなかいのおかにむすんでいったが
川は島のあたらしいさいわいのためにいちずのいのちをおしまなかった
それからまたいくせん万年の時はながれ 川の想いも絶え
島はあおい岬となって光と風とをまねいているが
そのほそいまなこの底にはいまなお川へのきよい涙をわすれずにいるという
初出不明
戦後詩人全集(書肆ユリイカ、1954年)
詩集『海がわたしをつつむ時』(鳳鳴出版、1971年)
礒永秀雄選集(長周新聞社、1977年)