渡りに 舟だ 早駕籠だ
野原も 山も もえている
車だ 馬だ 自動車だ
田舎も 町も もえている
逃げだせ モンブラン 逃げだせ 天外
オートジャイロの愛嬌で
狸は 尻尾で 火を噴いて
いのしし風情の 天馬か 韋駄天
もえている もえている
四辺 近在
ぎっしりつまったぜろのあぶくが
血の池地獄ともえておるわい
あんな むこうに やすらぎが ?
あんな むこうにゃ なんにもあるまい
───ではここいらで おみくじ鉢巻
五右衛門 そろそろ 釜ゆで と まいるか
詩集『浮燈台』(1951年*書肆ユリイカ)
「ぎっしりつまったぜろのあぶく」というのは敗戦直後の暗喩でしょうか。
価値観のひっくり返ったころを風刺をこめて書いているように思えます。