鳥の歌
いつのまにか熟れた青い麦
いつのまにか刈り取られた茶色い麦
すたすたと闇に消えた半歳の誠実
そつぽを向いてわたるのだ太陽
富士は美しい足もとから痩せ
夜毎蹴はずされる人々の枕
あげひばりの声はいまだあんなに天の深みを探っているのに
いつのまにか毀されたねぐら
いつのまにか荒らされたふるさと
一日 叫びつかれて落ちてくるひばりに
たといどんなやさしい花のしとねが編まれていようと
巣を奪われたひばりの心が なんで慰もう
ひばりはだから舞い立つのだ憩いを捨てて
のぼる煙のよれよれて青さに溶けるあたり
天の深みへ その声が父に届くと思われる一つの頂へ
歌い残した祈りをなおも続けるために
流れ去った時間を見守るために
間違わない明日を迎えるために・・・・・・・・・
歌いつづけ 叫びつづけ
ひばりはやがてこときれるだろう つぶてよりも早く
しかし・・・・・・
誰が言おう ひばりは死んでしまったと
誰が忘れよう ひばりの切ないさえずりを
重たい春がやがて夏の日に蘇るとき・・・・・・
詩誌『駱駝』40号(1955年9月)初出時のタイトルは『ひばりの声に』
詩集『別れの時』(書肆ユリイカ*1959年)