べろの唄
手招けば手招くほど沖へ引く潮
穴だらけの海の土が俺を笑う
蟹のように横に這う奴が
すいと俺のそばに寄って
V字の肱で俺の脇腹をつつく
──── 海に会いたけりゃ な 俺についてこい
奴は潜水服を着ている
いつどこで俺は殺ったのか
体じゅう返り血をあびてつっ立っている
まばたきすればべったりあたりは暗くなる
チーズの海に桜んぼの灯がつく
──── のたうつあの鮫の舟に乗れってえのか
──── 来な
奴は潜水服のまま俺を草原に導く
草原では乾いた声で虫が鳴いている
──── ミルク ミルク ミルク ミルク ・・・・・・
いやあな晩だ
海が草原のまん中にひろがりはじめる
奴はもう沈んでいる
──── 来な
パイプの奥で声がする
俺は酸素を送るかわりに
げえええっとパイプの中に吐血する
月の利鎌がばっさり俺の後首にかかる
腐った水が死んだ俺を運ぶために
ぺたぺた遠くから押し寄せてくる
──── あい あい あい あい ・・・・・・
俺の首が足もとで海を呼んで泣いている
いやあな晩だ
詩誌『駱駝』68号(1959年11月)