水中の陣
ゆすれどゆすれど 実は 落ちず
ゆすぶるたびに 落ちる 頬
生えるは 苔か 身の錆び か
骨身に重いよ 傷のかさ
人生万里 夢 茫乎
寄せるは娑婆の濁流とうとう
待った と やおら棒桟に
われと わがはらわたで身をゆわえ
腕に泣く子ら 肩に 父母
──── 大丈夫?
──── なんの これしき!
水中の陣の搦手には 妻
おう 降るわ降るわ雨 白い刃の雨
雨 したたかに 横なぐりに
胃の腑の壁にしみわたって
描きゆく地図は どこの帝国?
詩誌『駱駝』30号(1954年2月)
(注)桟=さん、短く切った木
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?