君は帰ってくる
──── 戦没した学友の霊に
君は帰ってくる
蝉しぐれの真昼 けだるい夏のひととき
僕を午睡から揺り起こすために
海の遠くから帰ってくる
──── おい！
君は僕の耳許で 含んだ太い声で
僕の肩をたたいてゆっくりと言う
──── 生きて おったか！ と
君はなつかしげに僕の薄い掌をとり
握手をかわそうとしては後退りして
悲しげに僕を眺めてつぶやく
──── きみでは ない！ と
切先が僕の額を掠める
眼の前でひまわりががくりと首を折る
沖に向ってぐんぐんと引いてゆく潮
津波の前のようにあたりは急に森閑となる
君はそうして消える ゆらめきながら
海の彼方へ 午睡の奥へ 安らえない君の墓場へ
黒い渦巻に吸い取られながら
君は しだいに 小さく なる
ああ 生きておったか！
それは僕が君を呼びとめるためにあった言葉
今は死んだ君が僕を呼びさますためにかえした言葉
ああ 生きて おったか！
蝉しぐれがはげしい
僕の鼓動がはげしい
遠くから白浪が押し寄せてくる
その浪を胸に受けて僕は倒れる僕は立ち上がる
戦後詩人全集第４巻（1954年＊書肆ユリイカ）
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