
フケに白くよごれた空気の底で
があがあ呼吸しておるのは
鳥でもない 魚でもない
いつか 脇腹にエラのついた
日本人である
胸十年の営みも
背は一枚の弊履と朽ち
それはだんだん甲羅となるのだ
その日本人に
すえた菊の匂いのする秋が
また のしかかる
天は いかさまに青く
トンボは 叩いても落ちぬ高みを飛ぶ
こんな時だ
おう やがて君にもあの守札が渡されるのではないか
真ッ昼間から
終列車の切符を握らされるのではないか
一等切符をな 白い一等切符をよ
思い知れ したたかの十年
詩誌『駱駝』34号(1954年8月)
戦後詩人全集Ⅳ(1954年*書肆ユリイカ)
【注】「弊履」とは「やぶれたくつ」「やぶれた草履」です。
----------
『戦後詩人全集』へ掲載にあたって若干の改訂がなされています。上記はその改訂版です。