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夏便り

こどもは 背中に またがって
とうちゃん 泳げ と めいれいする
やっては みるが 浮かん のである
腰から がぼがぼと 沈むのである
  つまらんのう と六つの子
  ツマランノウ と三つの子
かめでも 浦島 乗せたではないか
にんげん 何でも やれる といったのは
とうちゃんではないか ゼッタイ 泳げる!
泳がんかったら 泣いちゃるぞ 泣イチャルゾ
  泳げ泳げ と あにきが言えば
  オヨゲオヨゲ と おとうともいう
ああ 泳ぐわい 泳ぎますとも

さあ乗れ 二人とも こうなればもう 意地
砂浜ゆくは 熊であるぞ
少々やせては いるが 白熊
  いやいや かめじゃ
  カメニナレ カメニナレ
そのとき おやじは 日を仰ぎ
波打ちぎわで 吠えてみる ウォオオ と
かめの なきごえを 知らんのである
かめはなんとなく? なんとなく? どなたか!
  行くんじゃ かめは 龍宮まで
  ソウジャ 行クンジャ 龍宮マデ
おやじは がば と 海に入り
ぶるんと水をふるってから思う
丸太になるべし めんかぶりで行くべし
重い頭を 塩水に つけて オヨゲ!

  一かき 浮くのだ 二かき 沈まぬ
  フィルターかかった海の中を
  蛙およぎの めんかぶり
  龍宮はどこ? 龍宮はどこ?
    みごとです あおあお
    みごとです あおあお
    くらげも つづけ
    さよりも つづけ
      みごとです あおあお
      かなしいほど あおあお
      まだまだ行きます まだ泳げます
        おとひめさま
      おとひめさま
        おとひめさま
          せなかに乗っているのは
        わたしのこどもたちです
      浦島は
    このわたしです
  せなかにいるのは私の子
浦島太郎は
  この私です
この私です

     
     詩誌『駱駝』46号(1956年8月)
     詩集『海がわたしをつつむ時』(1971年*鳳鳴出版)


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