降る星の歌
愛は 夜のように迫る
ひとつのやすらぎからめざめへと
愛は 闇のように 迫る
いのちはただおののきながら
それを受けるばかりだ
風もないのに動いている茂みの中の木の葉
その一枚の木の葉のように
いのちは 黙して たしかな愛のおとずれを待つ
受けたものだけがすべて愛ではなかったか
見よ
わたしの与えた愛は
あたたかい水のように花々を枯らし
わたしの奪った愛は
塵のような悔恨で心につもった
受けたものだけがすべて愛である
わたしの右手のいたわりも 左手のねぎらいも
愛とよぶにはあまりにか弱く
乱れた髪 落ちた肩 まるい背を
どれだけいとおしんだというのであろう
受けたものだけが愛である
すべての傷 ──── そしりも 妨げも 裏切りも
受けたわたしを包んで
ついにあやめることはなかったではないか
わたしはその鞭音の中にさえ
あの流れる水の音 しみ入ってくる風の音を
聞きえたではないか
もだえながら あえぎながら
朝のめざめに備えられた
底なしの闇の底 また火の海のうねりの中で
死からの救いにはたらくものだけが愛である
それのみにはたらきつづける力が愛である
花びらのような愛をいくつ寄せ集めても及ばない
重たい やさしいその力だけが愛である
愛は夜のように迫る また闇のように
愛はいのちのふしどの奥にささやき
受ける者にだけ 星屑のように降る
心の冬木立をゆすってはらはらと落ちてくるのは
あながち冷たい夜露ばかりではない
詩誌『駱駝』89号(1963年9月)
詩集『降る星の歌』(1964年*扉の会)
詩集『海がわたしをつつむ時』(1971年*鳳鳴出版)
上記は詩集『海がわたしをつつむ時』から引いています。
初出から文字の用法など若干の改訂がなされていました。