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うつぼかずら

苦しいことが多すぎる
川はきれいなせせらぎだけれど
藻屑もくずよくに朽ち果ててゆく
陽も 浮雲も そっぽ向いて過ぎゆく

苦しいことが多すぎる
時折 赤茶けたゲルトの流れが
藻屑を下流へ押しやってはくれるが
いびつなさばきで飽きたりない

    おふだやゴマがききすぎるわい
    空は 曇天 地は 涸れた河
    河原に舞うのは 時の コマ
    風は --- 鮫肌 ---

苦しいことが多すぎる
砂のうなりの風の中で
時は とまり 時は流れ
涸れた河原に 杙は枯れ 石 涸れ

からからの喉 からの井戸
強いられた石のふしどの上で
眠れぬ夜をつむぎながら
人の子は またして 盲いようとする

    (注)「よく」とは「くい」のことです。
       「ゲルト」はGeld(独語)「お金」のこと?または
       「ゲートル」の俗語があるならそのことでしょうか?
     初出不明
     詩集『浮き燈台』(1951年11月*ユリイカ)

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「うつぼかづら」とは東南アジアに自生している食虫植物です。葉先から伸びた蔓に捕虫袋があります。乾燥した状態では捕虫袋ができないこともあるそうです。この珍しい植物を作者はいつどこで見たのでしょうか?おそらく昭和18年の学徒臨時徴収で南の島においやられた時かと思われます。

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