夢はおあずけ
封を切られて届いた来信
附箋がついて戻った私信
今日の思いが遠く出かけたあとで
鳴っている鳴っている正午のサイレン
夢はそうして今日もかたこと
色合のずれた絵本のように
映っている夢のちぐはぐ
撒かれるのは気のぬけたカレーのバラス
Where's my darling ?
Where's my dream ?
夢にすべりこむレザア
夢に入れられる鋏
夢は一昨日のスタンプを押されて
夢は おあずけ!
あんまりわびしいから
ひとりの不幸と思いたくないから
泳ぎに出る雑沓の町
を 吹いている風は ドモリ
ききききみの
わわわわびしい
きききもち
わわわわかる
嘘!
襟元にしのびこむ風の
あわてている あのドモリ
あのびんぼうゆるぎ
その風を
追い越してゆくトランペット
流れこむカスタネット
狂いながら舞う
真昼の太陽シンバル
男 男 男 女 男 女 男 男
女 女 男 女 女 男 女 女
追い越してゆくトランペット
流れてくるカスタネット
胸もとに 耳もとに
食いつくのだ
ベル!
そうだ たとえばその町で
声をかけるのはいつも代診
おどおどと人の前で
あたふたといのちのまわりで
打って逃げる ペニシリン ストマイ
どの顔にもどの首にも
ぶら下がっている 赤札 質札
はびこるはびこる
勝手つんぼ
たとえばその背中に書いてないか
「あるじ るす」 と
そうして今日も夢はかたこと
満員バスは竹のように割れて
花火の音だけしきりにやたらに
夢は
どこまでも夢
夢は
いつまでも夢
夢は
届かない
夢は
かえらない
夢は
夢は
夢は
おあずけ!
長周新聞(1956年3月28日)
詩集『別れの時』(1958年*書肆ユリイカ)