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羊のひげ
少し前の話ですが、4年ほど都内に住んでいたことがあります。引っ越しした最初の日の夜は私一人でした。最低限の荷物を整理していたらもう8時近く。お腹が空きました。
といってもこのあたりの土地勘はまったくなく、あてもなく歩き始めます。少し歩くと向こうの方に何やらいい感じの明かりが見えました。このあたりは完全に住宅地なので、路地を入ると店の明かりな殆どないのです。
砂漠でオアシス、住宅地にめし屋です。明かりに引き寄せられる蛾のように店に吸い込まれます。
それがこのお店「バルバダニェッロ 羊のひげ」さんです。トップのイラストはお店オリジナルのもの。
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手前にカウンターに囲まれた厨房があり、テーブルは店の奥というちょっと変わったレイアウト。キャパはカウンターも含めて10人ほど。大人数の場合は2階もあります。
時間は8時を過ぎていましたので、先客は2人くらいだったかな。どんな料理のお店かもわからず入って、メニューを見たらイタリアンであることが判明。何を注文したのかは覚えていませんが、とにかく美味しかった。
状況的にはこんな時間に見知らぬおっさんが一人でいきなり入ってくるのはなかなか怪しい。あとからシェフの渡邉さんに聞いたら「覆面の記者かなんかだろうと思っていた」そうです。まあわかる。
それ以来、もう10年を超えていると思いますが、引っ越ししたあとも、2時間くらいかけて年に2、3回は食事にきています。近くにいたときはランチもきていました。
というわけで、この日の晩ごはんです。
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立地が立地なので、通りすがりの人はまず来ません。この日も他に4組、みなさん徒歩客です。だからいいんでしょうね。
シェフは脱サラ組で、元々料理人を目指していたわけではないそうで、確か営業マンだったはずです。ですがとにかくセンスがいいんです。食はセンスが重要だと思うんですよね。正直高級食材をテクニックて仕上げる料理ではないです。どこにでもある素材をベースに、素晴らしい感覚で再現されるのです。全く肩肘張らない、ウンチクを語る客も来ない、近所の人が月に2、3回ご飯を食べに来る食堂みたいなお店。
面白いのはこの10年で味が進化していると言うか、徐々に日本ぽくなくなってきていること。そんな話をしたら「時々言われます」と。
もともと同じ名前のお店があったのを、そのまま引き継いだような話を聞いた気がします。
色んな方にオススメしていますが、なかなかわざわざは行かない場所。でもぜひ行ってみてください。絶対満足いただけると思います。