エヴァンゲリオンと二次創作
「エヴァが好き」とはどういう事だろう?
皆さんはエヴァンゲリオンが好きだろうか。私は大好きである。魅力的なキャラクター、精神的な世界、現実の生きづらさの反映、哲学…。魅力を挙げるときりがない。
しかし、前回の記事で「第三世代オタクはデータそのものには固執するものの、意図などに対しては無関心であり、イラストや設定などで感情移入を強め、消費するいわゆるキャラ萌えが主流」と言われていた。実はエヴァも例外がないどころかかなり狙っていたようである。
そのため、この記事ではエヴァと二次創作の関係について触れ、エヴァ名作同人誌が示した二次創作を記述する。またここではTV版やEOEなどの旧作とその映画を主に取り扱う。
エヴァと二次創作
原作以外のエヴァ
エヴァは公式から二次創作的な作品を普及している。思いつく限りでも下記である。すべては書ききれていないことはご了承ください。
・新劇場版(旧エヴァとリンクはしているが一応入れた)
・漫画版エヴァ(キャラデザ担当の貞本氏によるが設定やキャラの性格が異なる)
・鋼鉄のガールフレンド(恋愛ゲーム・コミック)
・碇シンジ育成計画(〃)
・ぷちえう゛ぁ(デフォルメ化されたキャラの平和な日常)
・エヴァンゲリオン2(若干ギャルゲーチックなゲーム)
・バトルオーケストラ(格ゲー)
・ANIMA(メカニックデザイン担当が記述した小説)
・名探偵エヴァンゲリオン(訳が分からないよ…)
・終局の続き(庵野監督監修のドラマCD)
・かるた(テニミュでもありましたね)
・ラジオエヴァ(アパレル?)
・パチンコ
・舞台
人気作品であればよくある方向性のものや、本当に意味が分からないものまでさまざまである。ただしテニプリも全然人のことを言えないとは話しておこう。
二次創作の普及を計算していたエヴァ
上記より、エヴァンゲリオンは生産者側ですらオリジナルと二次創作の境界が消えていると思われる。動物化するポストモダンでは庵野監督は二次創作が作成されることを見込んでいたとも記述があった。
さらに同本では「エヴァンゲリオンのファンはブームの絶頂期でさえ、世界観全体にはあまり関心がなく、二次創作的な過剰な読み込みやキャラ萌えの対象として、キャラクターデザインや設定ばかり関心を向けていた」とのことだった。それもあってか、カヲル君に至ってはオープニングで一瞬だけ映る映像だけで同人誌を作成した人もいるらしい。全ては監督の手の上で踊らされていたのだろうか。
エヴァの影響はそのコンテンツだけでとどまらなかった。共通の萌え要素として綾波レイが深層として食い込んだのである(私はアスカ派)。
エヴァ終了後もレイに酷似されたキャラがたくさん出現した。世間の萌え要素に新たに綾波レイの属性(無口、青い紙、白い肌、神秘的な能力など)がインプットされたからである。そのためエヴァ自体を意識しない作家たちも、似たようなキャラが出回ったのである。
こうやってエヴァは二次創作をコントロールしながら着実に世間の萌え基盤として確立したのである。
RE-TAKEと二次創作
上記のように二次創作の普及に成功したエヴァであるからこそ、超有名かつ名作同人誌が存在する。「RE-TAKE」だ。LAS(シンアス)が苦手じゃなければ絶対見るべき作品である。作者は現役漫画家であり、アニメにもなった作品も執筆していた。因みにLRS派の方には小説だが2nd RINGが良いと思う。ただ、個人サイトが閉鎖されていた…………。
元々は成人向けであるが、全年齢版もある。私は露骨なのが苦手なため、後者を読んだ。ただ、軽くネタバレするとストーリーは同じのため相手はシンジ君で中学生のアスカが妊娠する。だめな人は要注意である。私は何とかぎりぎり耐えた。LAS派でも結構厳しい。後EOE後のシンジ君はもう少しましになっている気もする。
一応電子版がとらのあなで売られていたが、それは同人誌としてかなり黒なのではないか?と考えたためこちらでは貼らない。代わりに完結記念PVがあったのでそちらをどうぞ。後駿河屋にあったのでそちらも…。
なぜこの作品を取り扱っているかというと、二次創作の視点に関して重要な記述と思われる箇所があったからである。
もし読みたいという方がいればこの記事より先に読んでいただけると嬉しい。思い切りネタバレが入る。更に言うとエヴァ公式のネタバレも全て入る。
因みに前回取り扱った本の著者である、東浩紀氏もこの同人誌を読んでいる。
ざっくりとしたあらすじ
完全なネタバレを避けるため、結末と後日談(100ページ超え)は除きます。ちなみに全部で500ページ強あります。
赤い海のほとりから、バルディエル戦直前の世界へと移動してしまったシンジ。 彼は自らの置かれた状況を理解するにつれ、一度経験した 悲劇を繰り返さないよう生き方を変化させていき、 アスカと強い絆で結ばれるのだった。 しかしシンジはもう一人の、彼にしか見えないアスカの幻に悩まされる。
その後の使徒との戦いでアスカはシンジの身代わりとなり、自爆してしまった。 にもかかわらず、生存していたアスカ。 彼女は「心」を使徒に喰われていた。さらに二人の子供が使徒だったのである。 それは、この世界でシンジが、使徒という存在である証だった。 自分が生きれば、この世界を滅ぼす事になる。 それでもシンジは初号機に乗った。戦いの果てに自分の未来が 無いことを知りつつ、闘う事を選んだのだ。 しかしS2機関のない初号機は量産型エヴァシリーズに圧倒される。 絶望的な戦いが繰り広げられる中、 「もう一人のアスカ」の前に、神様と名乗る少女が現れる。
もう一人のアスカは語る。この世界は赤い海でシンジが絶望した無数の世界の一つであり、この世界を助けたところで本来いた世界は何も変わらないと。シンジはアスカでなくても誰でもよかったと。それに対し少女は「シンジはただ好きなだけだよ」と話す。この世界のアスカを通して気持ちを誰に伝えたかったかを投げかける。その後赤い海のアスカは戦うことを決意し、エヴァに乗るシンジの元へと向かう。
無事エヴァシリーズを倒したシンジとアスカ。しかし最後の使徒である自分が残っている。生きることが許されないとシンジは自決を試みる。そんなシンジに「あんたが護ったこの世界なら幸せになる資格がある」と許す。その後シンジは意識と赤い海の記憶を失うのだった。
その後数年が過ぎアスカと幸せな家庭を築く。しかし、ずっと一緒だと指切りをする際にシンジは赤い海の記憶を思い出す。今のアスカに幸せを知ることができたとお礼を言い、赤い海の世界に戻ることを決意する。赤い海のアスカはそれを止めるが「そうしたら君はずっと一人だ」と元の世界へ戻るのだった。
個人的感想
本当にすごい(語彙力)。言い切れないが、個人的に凄いと思った点を記述する。
・エヴァで戦い、その世界を壊していない(同人誌でエヴァに乗るものは相当少ない)
・怒涛の伏線回収(かなり初期の頃に描かれたものが終盤になって回収されたものが多い)
・アスカとシンジを救済できている(レイとカヲルの扱いは考える所あり)
・構図やばい
・同人誌だがエロ抜きでもストーリーが成り立ち、名作漫画のように読める(男性向けでは本当に珍しい)
RE-TAKEからみる二次創作の意味
本題に入る。RE-TAKEは二次創作を「絶望が創り出したパラレルワールド」と表現していると考えた。 下記がそう考えたセリフである。
はっきりとは書かれていないが、無数に生み出された世界は二次創作を指していると考えられる。EOE放映後の二次創作はすべてこの時に生まれた世界としても差し支えないからである(ただし、シンジ君が赤い海の記憶を持っているかは別であるが)。
もちろん、EOE前にもいろいろな二次創作が出ていた。しかし、二次創作は絶望から生まれることも多いと考える。「自分は推しにこうなってほしい/ほしかった」という自分勝手な願いが二次創作を作成する原動力になっていることも多いと感じる。
つまり、我々は推しを通して希望をかなえ、幸せになりたいのかもしれない。RE-TAKEのシンジがそう願ったように。
おわりに
中学生の時に初めてエヴァを見て、アスカの過去を知ってから。私はずっとアスカに幸せになってもらいたかった。それは偽りのない気持ちだった。
しかし、シンエヴァで式波アスカはケンスケと、シンジ君はマリと親しくしているように見えるシーンを見て、絶望した。
その後シンアスや考察noteを漁ることによって、式波と惣流は違う人物であり、私の中のエヴァは旧作のみであるということに決めた。
まさにこのときの心境はRE-TAKEでのシンジ君と彼が創り出した世界そのものである。
私は「彼女たちの幸せ」ではなく、「私が望んだ彼女たちの幸せ」を切望していて、それ以外は許せなかった。何とも自分勝手な気持ちなのだろうか。私はそれぞれの二次創作ストーリーをパラレルワールドとして捉えているため、NLでもBLでも百合でも夢でも読むことができる。しかし、公式で自分の望んだ世界と異なるということは絶望を意味していた。
私も赤い海のアスカと心から向き合わなければいけない。