『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』

内田舞
文藝春秋 2023年

題名が気になり、手に取った本。
妊娠してお腹の大きな女性がポーズを決めている表紙を見て、読むのをやめようかと思った。表現はよくないが、いきった女性が社会のあら捜しをするような内容かと感じたからだ。
しかし、『小児精神科医』という専門にも興味を持ったし、経歴を見るとなんとも優秀な方らしい。どんなことが書いてあるのかと思って読んでみた。

結果的に、かなりまともな内容だった。日本国内の女性の地位・扱われ方に学生時代から違和感を感じた著者は、海外で暮らすことを選ぶ。そもそも自分はそんな時期に女性の立場とか考えたこともなかったので、考える人は考えるんだなあという思い。世代や社会の様子も影響するのだろうけれども。

著者のことを「勝ち組」と言う人がいたことに違和感を持ったように書いてあったが、著者の両親の職業(優秀)や、著者自身がその才能を受け継いで発揮できていることは、勝ち組だなあと私としても思ってしまう。もちろん、アジア人女性がアメリカの有名大学で医師として働くにはかなりの努力が必要だっただろうということは分かっているけれど。

まあそれは置いておいて、著者がいる環境は「かなりまとも」に見える。差別的対応を許さない制度、心ある上司と同僚。妊娠出産もデメリットにならない。結果を出しさえすれば、ともちろん書いてあったが。私が持つアメリカのイメージはもう悲惨という感じだが、そうでない分野ももちろんあるんだなあ。

さて内容に関して。

2歳からの【同意教育】、2歳できちんと自分の意思を伝えられてコミュニケーションとして成り立つやり取りができる子が集まっているんだというのも驚きだが、年齢はともかく日本にもほしいものだと思う。意見に反対されただけで人格否定をされたかのような反応をするのは、人付き合いとしてもメンタルヘルスとしても本人にとってプラスにならないと感じているので。

起きた物事に良い悪いの判断を付け加えないラジカル・アクセプタンスというのも、メンタルヘルスのためには必要だろう。人の言動に対する姿勢としても効果的ではないかと思う。「空気を読む」「忖度」は、人間関係を円滑にすることもあるけれども、それで苦しくなるなら読まなければいい。発された言葉の裏を考えないのも、ラジカル・アクセプタンスに入るのではないか。

女性の地位が低いことが当たり前になってしまっている現状は、だんだんと日の目を見ているが、それでもアンコンシャスバイアスというものは根深くある(アンコンシャスだから当然だが)。それが社会の基準となってしまっているのがまた改善しづらい原因でもある。
著者はこれが原因で海外での暮らしを選ぶわけだが、ただし本にも書いてある通り人の性質によってどんな環境を心地よく感じるかは異なる。何を優先するかは人によるだろうし、それには自分をよく知る必要があるだろうと思う。


ちなみに表紙の写真は、新型コロナウイルスが世界的に流行し出した時に妊娠し、ワクチンを受けた時のものらしい。確かに、肩にばんそうこうをしている。
私は全く知らなかったのだけれども、著者はパンデミックが始まった頃からアメリカからワクチン接種などについても専門的知見を発信していたらしい。そして、叩かれることもあったらしい、ありそうなことだ。
この本の表紙のこの写真を選んだのは、主張したいことがあったからだと思うのだが、それでもやはり写真無しの表紙にしたほうが読む人は増えるのじゃないかと思うのだけど…それが私の偏見からきているだろうというのは受け入れるとして。

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