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確認社会

 博士は近くのコンビニに、たのしみであるタバコを買いに行った。腹に何かを入れたくなったため適当な食べ物もついでに買った。

「こちら二十歳以上である方のみ購入できる商品になりますが、よろしいでしょうか?喫煙は肺がんにつながり、健康に害のあるものになりますがよろしいでしょうか?こちらの食品には着色料、香料等が含まれておりまして、添加物は人体への影響がある可能性が…」

 長々とテンプレートのようなものを読み上げる店員に博士はイライラしていた。ようやく言い終えたところで確認の意思を示し、金を払った。

 家に帰る途中、喉が乾いたため自動販売機の前に立ち、飲みたいものを選んだ。缶コーヒーでも、と金を入れると自動音声が流れてくる。

「こちらの飲み物にはカフェインが含まれていまして、摂取のしすぎは…」

 いらつきながらも販売機にある確認ボタンを押し、缶コーヒーを購入した。

 この面倒な確認の作業は誰しもが行う義務であり、常識だった。省きたい気持ちはあるが、子供から立派な大人まできちんと行うのが当たり前なため、ルールを守った。法律化もされているのだから、文句のつけようもない。この「確認作業」はすっかり世に溶け込んでいた。

 こんな出来事もあった。ある町で銀行強盗が起きたのだ。犯人は銃で脅しながら叫ぶ。

「さっさとこのカバンに金を詰めろ!ありったけだ」

 するとスイッチが入ったように銀行員は喋り出す。

「このお金を受け取れば貴方は犯罪者になってしまいますが、よろしいでしょうか?」

 本能のまま確認をする銀行員に犯人も続ける。

「今すぐに指示に従わないとお前を撃つがいいのか?」

 二人がやりとりをしているすきに、後ろで別の銀行員が緊急通報ボタンを押そうとしていた。

「今から貴方のことを通報します。すぐに警察がきて、捕まると思いますがよろしいでしょうか?」

 その声に反応した犯人は、咄嗟に発砲し、銀行員は命を落としてしまった。


 実にまぬけな話である。何かに備えての「確認」であるのに、確認で命を落としてしまっては元も子もない。こんな社会に博士はうんざりしていた。

 博士は研究所に帰り、ロボットの開発に戻った。このロボットさえ完成すれば世の中を大きく変えれるはずだ、と確信していた。それは確認を自動でおこなってくれるロボットだ。仕組みはこう。一人一台、自分専用のロボを持ち、それにデータを入力していく。すると、タバコの人体への影響は確認しました、添加物の危険性は十分確認しました、カフェインの致死量を確認しました、といったふうに情報がリスト化されていくわけ。そして、ロボット同士がこの情報を共有し、確認の手間を省くといった具合だ。
 この大発明を終え、博士は期待を膨らませていた。

「こいつが普及すれば今よりもっと生きやすい世の中になるはず。そして私も今よりうんと金が増え、生活が楽に…」

 早速、博士はロボットのスイッチを入れ、起動させた。するとロボットは甲高い声で喋り出した。

「私のようなロボットが普及すればより良い社会になるでしょう。しかし、ロボットも意志を持ち始め、情報が操作され暴走し出すでしょう。そうなると、人間社会はあっという間に崩壊し、私達が支配することになりますがよろしいでしょうか?」

 博士はすぐにロボットを解体し始めた。


          終

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