危ない場面になる前に行動しよう『ISO通信』第92号
仕事柄、模擬面接の面接官役をやらせてもらうことがあります。
「これまで仕事をしてきた中で一番うれしかったことはなんですか」
との質問に対しては「お客様から『ありがとう』と言ってもらったときが一番嬉しいです」といった答えが一般的です。どんな場面で「ありがとう」と言われたのか、なぜ「ありがとう」と言ってもらえたのか、などの具体的な説明があると、その質問に対する納得感は高まります。
同じ質問に対してある人が
「かなり昔のことですが、上司から『お前のおかげでリスクがいつの間にか消えている』と言ってもらったときは嬉しかったです」
と答えてくれました。以下、この発言の主をAさんとします。
Aさんは中堅メーカーの製造部門で部下を管理する立場にありますが、若い頃に上司から言われた言葉がとても嬉しかったそうです。担当者として工場の操業を管理していた頃のAさんは、現場にゴミが落ちていれば自ら拾い、部品の置き場所が間違っていれば正しい位置に戻してから現場の担当者を注意したそうです。立場上、部品を正しい位置に戻しておくようにと作業員に命じることもできたAさんですが、製造過程でのミスが発生する前に処理をして、後から置き場所が間違っていたことを注意しました。
なんで自分がゴミ拾いまでしなければならないのか、と思うこともあったそうですが、上司である工場長から「危ないな、と俺が感じているとき、先回りして処理してくれるのは、だいたいお前だよ。事故が起きてからじゃ遅いからな。いつもありがとう」と言われて報われた気がしたそうです。
工場などの現場に限らず、整理整頓ができていなかったり、情報が錯そうしている状態を放置したりすると、なんらかのトラブルにつながることがあります。飲み会の当日に、幹事から「インフルエンザになってしまったので欠席します」と連絡があったとき、友人の一人が「店への人数変更の連絡は私からしておきます」と全員に返信する形で連絡してくれました。その友人も職場では、トラブルを未然に防いでいる人なのだろうと思います。
大きな事故が発生したとき、ある事象(原因Y)と別の事象(原因Z)が偶然に重なることさえなければ、事故は起こらなかったのにと後悔することがあります。原因Yと原因Zが、違和感はあるけど危ないとまでは感じないような事であったりすると、正しい状態に戻す行動をとる人は意外と少ないかもしれません。原因Yと原因Zを俯瞰して見ることができない場合、ある人が原因Zを取り除いても、それが大きなトラブルを防いだと評価することは困難です。
Aさんは「ちゃんと見てくれている人がいると分かってからは『自分がゴミを拾ったから、足を滑らせる人がいなくなったはずだ。だから自分の行動を評価してくれ』なんてセコい考えはなくなりました」と言っていました。そしてAさんは、部下の小さな行動にも気をくばり、あなたのおかげでリスクを回避できている、と伝えるようにしているそうです。
危ない場面の到来を未然に防いでいる人のことを、きっと誰かが見てくれています。
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