続 うまくいえない ースガシカオにまつわる思い出話ー
P.S.
スガシカオが好きな恋人だった。
別れて四年が経ったある日、youtubeに「黄金の月」のMVが流れて来た。
ずっとスガシカオを避けてきたけれど、この日はなぜだか聴きたくなった。
イヤホンから流れて来たそれは、まるで知らない曲のようだった。
聴きなじみのあるメロディーライン。しかし、耳を突く歌詞はとても新鮮に聴こえた。あの頃、歌詞を聴いて想像した世界とは、まるで違う世界が立ち上がってきた。
私はその時、スガシカオとあの人を切り離すことができたのだと思う。
いや、自分の思い出とあの人を切り離すことができたのだ。
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現実を生きる君はとても健康だろう。
幻想を生きる私はナンセンスなのかもしれない。
ただ、私たちは正と負の一次関数みたいなもので、
重なり合うべき時に、重なった、
そうなるべきであったひとつの点であったのだろう。
そして君も私も、あの日の駅前の交差点から
ぐんぐんと離れてゆくのだろう。
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私はスガシカオを聴くけれど、
君に触れた感覚はもう思い出せない。
私の心には、
別の音楽が鳴り響いては過ぎ去り、
私の頬には、
別の人の体温が近づいては消えていった。
でも、スガシカオの曲だけは、
いまだにプレイリストに残っている。
スガシカオがすごいのかな。
いや、それをみつけた君がすごいのか。
きっと私以外の全てがすごいのであって、
同じ場所にしか帰ってこれない私がナンセンスなのかも。
今日も、スガシカオを聴いている。
「前人未到のハイジャンプ」を聴いている。
どんなにまわり道をしても、
自分はまた、ここに帰って来るような気がする。
たぶん明日もまた、スガシカオを聴くのだと思う。
fin.