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元気にしてるといいな




※別に性描写はないけど、風俗嬢してた頃の現場の会話などが含まれます。
苦手な方は読まないでください。
(こう書くと拍子抜けするかも)



プレイが終わって、つまり発射してスッキリした後に、そのお客さんは言った。

「少しこのままで、シャワー浴びる前に、タイマー鳴る時間まで2人でここで寝てたいんだけど…ダメ?」

「うん? 別にいいよ」

と私は答えた。
お客さんはホッとした顔をして言った。

「…良かった。ありがとう。ごめんね、すぐにシャワー浴びたいだろうに、ワガママ言って」

「…そんなの、別にワガママじゃないよ?」

私は小さく笑いながらベットに寝るお客さんの隣に寝そべった。

さらにお客さんは言う。

「…あのね、手、握ってもいい?」

私はいよいよ微笑ましい気持ちになってきて、そっと自分から恋人繋ぎをしながら

「いいよー♪」
と答えた。

「優しいね…。思い出すなあ、カミさんと昔、まだセックスしてた頃、した後、こんな風に一緒に手を繋いでたんだよね」

「……そっかあ」

お客さんのこういう話を聞くのは嫌いじゃない。ていうか、この仕事で一番好きな時間だったかも知れない。

「今は向こうが年齢的にエッチは無理って言われたんだけどさ、子どもも大きくなったし、子育て大変そうだし。でも、寝る前にはね、今でもこんな風に手を繋いで色んな話はするんだ」

「…そういうのってなんか素敵だね」

「うん…この状態だとね、お互い本音しか言えなくなるんだよ」

「うん…そうだろうね」

「新婚の頃は手を繋いだまま、気がついたらずっと朝まで喋ってたことがある…」

「…素敵な夫婦だね。奥様、あなたと結婚して良かったと思ってると思う」

「ありがとう…なんてね。ちゃっかりこんな所来てる俺が何言ってんだって話だけど…あ、ごめん。ゆかちゃんはここで一生懸命に頑張って働いてるのに、『こんなところ』とか言ってごめんね」

本当にこの人、優しい人なんだなぁ。

「あはは…笑 全然大丈夫!『こんなところ』に来てる時ですら、私にすら、奥さんが大切なのが伝わってるって、むしろ、なんかすごいよ。素敵。いつも頑張って家族の為に働いてるんだから、たまには、こんな風に息抜きに来てもいいんだよ」

この人の来店頻度は、数ヶ月に一回。
いい夫で、いい父親でいる為の息抜きに私を選んでくれるのが純粋に嬉しいと思った。

「うわぁ、ありがとう…なんかさ、女の子にこういう話するの失礼かなと思ってなかなか今までの子には言えなかったんだよね。でも何でだろう、ゆかちゃんには言えるんだ」

「え、なんかそれ、すごく嬉しい」

「向き合って抱きしめてもいい?」

「…うん、いいよ」

「ほら、こうするとお互いの心臓の音聞こえない?」

「うん…聞こえる」


その人とはそれ以外にも色んな会話をしたな。
…元気かなぁ?
そろそろ現役引退してるかな?

いくら借金があっても、事情があっても、普通の女の子は風俗なんかやらない。
私が風俗の仕事に躊躇なく踏み込めたのは、根本的に男の人に絶望していたからだ。
私は男の人をただの化け物だと思っていたからだ。

祖父から性的虐待を受けた後からの、怒涛の男運の悪さで、初めての彼氏にボランティア売春婦のような扱いをされた。
ただの性欲の塊で、若くて抱ければ自分さえスッキリすれば誰でも良くて、こっちの気持ちなんかお構いなしで、いつもいつも自分だけ。
痛いと言うと、「濡れてるのに何で?」
(いや、だから下手なんだってば…)

セックス恐怖症になるくらいに男もセックスも嫌いになっていた私は、やさぐれて、「それならお金貰った方が余程いい」と思った。

そんな気持ちもあって始めた仕事だった。
男に復讐する為に男で稼いでやると思った。

でも不思議なことに。
この仕事で男をますます嫌いになると思っていたのに、世の中には意外とマシな男も存在してるんだと知ったのも風俗だった。

決して自慢できる仕事じゃ無かったけど、多分私には必要な仕事だったと思う。
勿論、数々の酷い目にも、おぞましい目にも遭ったけれど。
人は渦中を過ぎると思い出補正で辛いことや悲しいことは忘れるように出来てるのかな?

足を洗って10年以上経ってるのに、決まって思い出すのは、こんな風に、素敵な時間を過ごさせてくれたお客さんのこと。
この出来事からはもう20年も経ってるというのに。

「奥さんのことはちゃんと名前で呼んであげてる?」

「…うん、2人だけの時は呼んでる」

「私のまえで間違って奥さんの名前言うのは大丈夫けど、奥さんの名前は間違ったらダメだからね?」

「…はい、気をつけます!」

流石に20年経つと、今書きながら当時の自分のキャラと今の自分のキャラのズレを感じてしまって微妙な気分になる。
ちゃんと再現出来てるかすら怪しい。
うーん、コレ系の文章の量産は無理かな。


でも、私が「自然体」を思い出すのには、この仕事をしてた頃の自分を思いだすのが鍵になる気もしている。

旦那さんや彼氏さんに風俗に行かれて悩んでる人に、奥さんがいるのに風俗に行く人全員が、家族のことを省みない酷い人じゃないよって、教えてあげたいと思った。

風俗ですらちゃんと奥さんに義理立てして「キスパス」(キスは情が移るからしない)とか、弁えながらちゃんと遊べる人もいるし、友達や会社の上司の付き合い、顔を立てる為に一緒に部屋に入ったものの、お茶だけ飲んで帰る人もいるんですのよ。
まあ、割合は本当に少ないし、本命を大事にする分行きずりの女に乱暴なプレイをする人も居たけれど。
本命にも、行きずりのどうでもいい女にも、ちゃんと優しく出来るのが本当のいい男。
数は少なくてもちゃんといるんだ。

例外中の例外をわざわざ取り上げて免罪符として挙げてるるように思うかも知れないけれど…。

まあ、実際、半数がクソ客ですわ。
でも、3割4割くらいはまあまあいい人で、1割くらいは癒しの人でした。
まあ、店と土地柄と職種によるかな。
あと、時代は変わっているからね。業界の今がどうなってるかなんて、知らない。
ハッキリ言って、人間全体の質が昔より今は落ちてる気がするからなぁ。
景気も悪いしねぇ。

少なくともあのころの私は、

働いてた私自身が救われてたんですよ。
風俗の仕事でたまに逢える素敵な人に。
そして素敵な仲間に。


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