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9【円相の酒杯】
五条坂の陶器祭りに行った。
全国的に見ても有名な陶器市なんじゃないだろうか。
出店者のラインナップもバラエティに富んでいるというか、
やや混沌の様相を呈していると言っていいほど懐が大きい。
昨今の、微に入り細に入り作り込まれたクラフトフェアなんかとはだいぶ違う。
酷暑の京都、庇も街路樹もない五条通にずらりと並ぶテント。
昨年も訪れたけれど、歩くだけでサバイバルだ。
ひとつひとつ見ている余裕はない。
早足で歩きながら見定めていく。
とある店舗の前の仮設商品ケースの中の器が目に止まった。
酒杯。
何個か積まれておいてあった。
鉢のようなものや碗のようなものもあったと思う。
覗き込んで惚れてしまった。
この、円相。
バランス感覚、迷いの無さ。
高台裏の始末の潔さ、余分な手数の無さ。
清楚な色。
生地の色もいい。
形ももちろんいい。
そして、価格が・・・。
頭の上に疑問符が立ちのぼる。
やす、、、すぎる・・・。
何かの間違いなんじゃないだろうか。
どれもこれも感じがいい。
気を緩めると大人買いしてしまいそうだった。
自分の判断すら疑った。
暑すぎて目がおかしくなってるのかな・・・?
とりあえず気を引き締めて、この酒杯ひとつを購入した。
会場を一周回って、他の器もみて、戻ってこようと思った。
考えが甘かった。
会場を一周回ったら、軽い熱中症のようになってとてもじゃないけど戻る元気がな
かった。
おそるべし、夏の京都。
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家に戻って涼しい部屋でゴソゴソと新聞紙をひらく。
手にとって眺める。
うん、とてもいい。
作った人の名前も聞けなかったし、
前情報もなく見かけたお店でこんなにいいものに出会えた。
クラフトフェアに行っても、骨董屋に行っても、正直いつもこう言う出会いがあるわけじゃない。
自分の運を褒め称える。
やっぱり熱中症を押してでも頑張って戻るべきだったな、なんて考える。
まあいっか。
また出会いたい、大変良い出会いだった。
来年も出店してくれているといいのだけど。
それまでこの、名もなき酒杯を愛でようと思う。
2019.8.7@五条坂陶器祭り 壺屋いかい前