「FOVEON × Teal & Orange」の誘惑
写真というのは、目の前にあるものをただそのまま写し取れればいいのだろうか。
否。
写真を含む「絵」というものは、現実よりも美しいから面白いのだ。私はそう思う。
そもそも「Photograph」を「写真」という日本語に訳したのが間違いだったのではないか。そんな話を、以前にもここで書いた。
原義をたどるならば「Photo=光」「Graph=絵(描かれたもの)」ということらしいから、直訳するなら「Photograph=光で描かれた絵」ということになる。つまるところPhotographは、現実をそのまま写し取っただけではなく、光によって表現されたものであるべきなのだ。
そして「色」というのも、光の波長によるものだそうだ。目に見える色は、物体が光を反射したものが目に映っているのであり、実際の物そのものが、その色をしているわけではないとも言われている。
にわかには信じがたい話だが、それが真実ならば仕方がない。つまりは、色というのは厳密に定められた不変のものではなく、ちょっとした加減で大きく変わるということだ。前向きに捉えるならば、だからこそ面白いとも言える。
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世に「Teal & Orange」と呼ばれるトーンがある。
主にハリウッド映画などのグレーディングでもてはやされたトーンのことで、青をTeal(「鴨の羽」のようなやや緑がかった青色)方向に、赤や黄色をOrange方向に振った色合いのことである。
これがSIGMA fpのカラーモードに標準搭載されて人気を博しているのは、カメラ好きの間では周知の事実だ。そのTeal & Orangeがこの度、SIGMAのsd Quattro シリーズ、dp Quattroシリーズにもファームウェアのアップデートという形で楽しめるようになるというのだ。
過去に販売されたカメラについても、このようなアップデートが成されるというあたりが、SIGMAというメーカーの素晴らしいところだ。これによって、元々持っていたカメラをまた新鮮な気持ちで使いたくなるというものだ。
私はそもそもfpを使う前からdp2 Quattroを愛用しており、撮った写真をこのnoteにもアップしてきた。dpシリーズ、sdシリーズに代表されるSIGMAのカメラの最大の魅力は、何と言ってもFOVEONセンサーだ。
これも以前に記事で触れたが、一般的なベイヤー式センサーとはそもそもの構造が全くの別物である。FOVEONセンサーはその特徴として、非常に高精細な解像感と、なめらかで豊かな色調が得られることが挙げられる。
その凄さは、とにかく一度写真を撮ってみれば一目瞭然である。そんなFOVEONセンサーでTeal & Orangeが楽しめるとなれば、誰だって試してみたくなるはずだ。
今回ありがたいことに、SIGMAさんのご厚意で、このファームウェアをいち早く体験させてもらえる機会を得た。ちょうど緊急事態宣言が出されるより前のタイミングからだったので、かろうじて色々な写真を撮って検証することができた。
こうして並べてみると、FOVEONセンサーの凄さがよく分かる。動物のフワフワとした毛やゴツゴツとした木の表皮。車のなめらかな表面のツヤ感。モノそのものが持つ質感を、あたかも目の前に実在するかのように再現してくれる。
そして、Teal & Orange の哀愁感漂う独特な色味によって、まさに映画のような世界観を表現することができる。ちなみに、このページでアップしている写真はすべて「jpeg撮って出し」だ。
そして、Teal & Orange と同様に、fpユーザーの間で愛用されているのが「21:9」というアスペクト比。いわゆるシネスコ(シネマスコープ)と呼ばれる画角だ。実はdp2でも元々、シネスコの画角は標準装備されていた。
これはCMでもよく使われる画角だ。極端にワイドな画面が映画のワンシーンを彷彿とさせ、ある種の緊張感とワイド方向の広がりが感じられる。
実際に撮ってみると、シネスコだと余計な情報を削ぎ落とすことができるのが、よくわかる。これは町中の雑多な風景でも、シンプルな絵として切り取りやすくなるということだ。はっきり言って、撮りやすい画角だと思う。
また、これを Teal & Orange と掛け合わせることで、まさにシネマライクな写真を簡単に表現することが可能になる。しかも、FOVEONの解像感である。
これらの写真の多くが、自宅やその近所で撮影したものだ。慣れてくると、カメラを持って散歩しているだけで、いわゆる「T&O映え」するものが目に飛び込んでくるようになって、楽しい。
dp2 Quattroはfpよりもさらに軽く、レンズ固定の単焦点なので、あまり考えずにシャッターを切ることができるのも、大きな利点だ。
ただし、FOVEONセンサーにも弱点はある。高感度に弱いということ、書き込みに時間がかかること、電池の消耗が激しいことなどが、主な点だ。
しかしながらこれらの点は、かつてのフィルムカメラの特徴に似ている。だからこそ、一枚一枚を丁寧に撮りたくなる。これが、何とも言えず愛着が湧くのだ。
また、写真を撮ったその場では分からないが、あとでPC上で大きく開いてみると、その解像力に毎回驚かされる。これもまた、フィルム撮影のようなワクワク感を思い起こさせる体験だ。
今回のFWアップデートによって、FOVEON × Teal & Orange × シネスコという、全く新しい魅力に出会うことができる。これは、開発中と言われている「FOVEON × フルサイズのカメラ」を待ち焦がれる人にとっても、いいニュースに違いないだろう。
目の前にあるものを本物以上に美しく表現してくれるTeal & Orange。FOVEONセンサーを搭載するカメラでの選択肢が増えることで、写真を撮ることがより楽しくなるはずだ。
最後に、ここで紹介したもの以外も含めた作例をFlickrのアルバムにアップしたので、ご参考までに。
※このページの写真はすべて、SIGMAさんからdp版「T&O」のテストFWを提供してもらって試しています。
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プラプラとよそ見しながら散歩をすると、面白いアイデアを思いついたりするものです。遠くに出かけられない今、そんなことが書いてあるこの本は、いかがでしょうか。よかったらぜひ。