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石好きの人と三重の海で石拾い、モノクロの石 |思い出その百二十六の一|
2023年4月8日。
名古屋駅にいる。今日はある人を待っている。
福井のTADAではない。チャリズムANDOでもない。384でもサラブレッドKでもない。石悪マシューなわけがない。
SNSでお互いに認知、度々DMでやりとりをしていた、石好きであり、石のSNS初期メンバーの(勝手にそう呼んでいる)「石好きだ」さんだ。
いままで数々の石好きの方と情報交換をしてきたが実際に会って石を拾うのはこれが初めてだ。大丈夫か。大丈夫なのか。石の争いが起きなければいいが。
思えば、先述の石仲間は皆私が石の世界に引き入れたものたち。自然な流れで石拾いへ半強制的に参加させることにより石の心を開眼したものたちである。
石好きださんもどうやら私の石日記を初期の頃から読んでくださっていたらしいが、とてつもない石への愛で日本各地を石のためだけに飛び回り、私も知らない石スポットの数々を見つけ出し、非常に味わい深い石を拾い上げ集められている。
石好きださんの選ぶ石はどれも趣深く、渋い。私の石は分かりやすく綺麗で時には奇抜なものが多いのだが、石好きださんの石は少し玄人向けというか、静かで、素朴な石ころ感が強い。その中に不思議さやかわいさがある。
周りの石仲間と比較するとサラブレッドKの趣味趣向に一番近い。過去に説明しているがKの両親は学校の美術の先生(違ったかも)であり、祖父は旅人。(違ったかも)両親と祖父からものを見るセンスのDNAが余すことなく受け継がれている。その証拠に、一度の青森の石拾いで、とても趣深い石を拾ってみせた。
石好きださんもそれに近いものがあるが、さすが石好きだけあって、石好きださんの拾った石からはさらに不思議な世界観が醸し出される。そして荒々しくかっこいいサラブレッドKの石よりも、少しやわらかい印象もある。
もにゃもにゃわけのわからないことを書いていても進まないので、名古屋から出ようと思うのだが、初めての石の待ち合わせにそわそわしずぎて早く駅付近についてしまった。
石好きださんはいつも車で石拾いの旅に出るので、私をのせて今回の目的地である三重の海岸まで連れて行ってくれるというのだ。ありがたや。ありがたやと同時に不安だ。初対面でお会いして、名古屋駅から三重の海岸までの車中で気まずくならないだろうか。石好きださんも謎の石の人を乗せて三重までよく行くつもりになれたものだ。
早く着きすぎてそわそわで頭がおかしくなりなぜかギリギリのタイミングで普段したこともない店内での朝マックをすませ、待ち合わせ場所に向かう。外は早朝によりまだ暗い。辺りを見渡すとDMで事前に教えてもらった服装の人物が一人佇んでいる。あの方…か?あの方なのか?ぜんぜんわからない。勇気を出して聞いてみる。
石の人「石好きださんですか?」
石好きだ「そうです。石の人さんですね。」
よかった…。
それにしてもなんだこの石の人と石好きだ。早朝の名古屋駅で互いに石と呼び合う怪しい二人。石神様を崇めるあたらしい石宗教の地方支部の会合。警察に見つかる前に、早く車に乗り込み三重に向かったほうが良さそうだ。
車に乗り込む。
バンバン。
ブンブンブン。
…。
石好きだ「石の人さん、そんな感じなんですね。」
石の人「石好きださんは想像に近いというかなんというか。」
どんな感じだ。
しかしよく考えてみればそれもそのはず。石好きださんはXで度々日常も発信されており、ご本人の雰囲気はなんとなく感じられるが、私は石と海のこと以外の、普段の生活などプライベートな部分は一切発信していない。
石好きださんの石の旅は、車で何泊もして石スポットを何箇所も巡るらしい。私もTADAと石のための旅を何度もしてきたが話を聞く限り、ここまでストイックに石を求めた石目線の石のための石に全てを捧げた旅をしている人に初めて会った。すごい。すごすぎる。私は石の人を名乗っていいのだろうか。
力尽きるまで石を拾い、つぎなる石の浜に思いを馳せながら眠りにつきそしてまた石を拾う。
心身ともに強くそしてそれを全て石に注ぎ込んでおられる。
今日の石拾いは荒れそうだ…。
車中が気まずくならないか、長時間話すことがないのではないか、そんな不安はまったく不要であった。石の話が止まらない。石そのものの話から、石好きとしての生活、そして石に向けられた思いや石の思想。(そんなものはない)話が全くつきない。すごい勢いで話しすぎて逆に覚えていないのと、全部書いていると一向に三重につかないので、気づけばあっという間に三重についていた。
石好きだ「もう少しで石の海岸ですよ。」
はい。
石拾いの旅|三重県の海岸
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バンバン。
着いた。三重の海岸。とても天気がよろしい。
この海岸、私の小学校の同級生、石悪マシューと一度訪れたことがある。
マシューは石を拾っては投げ拾っては投げを繰り返し、その後も石を冒涜する行為を続けたため、石悪として語られている。
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三重県の海といえば北部はそこまで綺麗ではないのだが南部に差し掛かると美しい海が広がる。この辺りの海は実に美しい。
同行者が石悪から石好きの人へと変わることで、私の石拾いにどのような変化をもたらすのだろうか。
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無数に転がるグレーな石。福井や青森のような色とりどりの石が転がる海岸とは対照的に、白、灰色、黒の石といったモノクロの海岸である。
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いつもの私なら駐車場と呼んでいるが、ここの石は一味違う。
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まず石の質がいい。とても硬く、さらさらすべすべとして、石ころらしい石がある。
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そしてよく見ると多様な模様があり、モノクロの中でも十分に楽しめる。残念ながらこの写真からはそれが全く伝わってこない。
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波が結構激しいので、波打ち際で拾うことはあまりない。
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ざざざん、ざん。
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ざざざざざざん。
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中にはベーシュの石もあったりして、落ち着いた印象のおしゃれな石を拾うにはいいかもしれないが、わかりやすく綺麗だったり派手ではないので初心者には少し物足りないかもしれない。
マシューが投げてしまったのも今ではわからなくもない。
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瑪瑙もなければ、カラフルな石もない。
何かの形に見立てることができる石もそう多くはない。
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無数に転がる何の変哲もないただの石ころの中から、自分の好きな石を探すのは難しい。
そんなことをもやもや考える病気になりつつある私。
石好きださんはどうなのだろうか。
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集中。石の呼吸。
没頭。
意識を100%石に向けておられる。
私はせいぜい50%。
そしてあることに気づいた。石好きださんはしゃがんで石を探すタイプだ。私は歩きながら石を探すタイプだ。なんだか雑だ。短時間でいい石を見つけたいという邪なおもいが先立ちこのようなスタイルとなる。
石好きださんも同じくいい石をできるだけ多く探したいはずだが、おそらく今までかなり丁寧に探石をしてこられたのだろう。その分時間がかかるはず。私やTADAは一時間が限界だが石好きださんは連続して三時間ほど石を拾い続けられるに違いない。いや、もっと、限りなく永遠に拾い続けられるのだろう。体力の限界ギリギリまで。どうか無理はしないでください。
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サラブレッドKもそこまで長くは拾えないが、集中力においては同レベルだ。石拾いの時間が濃いために、私よりも石の目が養われる速度がかなりはやい。
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またなにを考えているのかわからなくなってきたし、余計なことを考えずに石を拾い解説してほしいという声が聞こえてきそうでそんな声すらないのだが、石好きださんの動向はきになるところ。
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石好きださんはこの後も、もくもくと石を拾い続ける。
ここで昼休憩をとることになった。一度拾った石を並べてみよう。
海で拾った石|三重県の海岸
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私の並べた十二石。ということはこれがベスト12ということか。全く記憶にないし、今ではそうは思えない。
ただ、この写真で石の模様の面白さが、少しは伝わるのかもしれない。水玉や大きめの斑、グラデーションやストライプ。多様な表情があり興味深い。
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他の石も含めて並べた。いいじゃないか。石の成り立ちはそれほど違わないものも多いはずだが、なぜこんなにも模様が違うのだろうか。不思議だ。
そのあたりの地質学的な石の修行はしないのかと問われると何度も言っているとおり全くその気はない。ないが気になりはする。どないやねん。
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これはおそらく二軍の石だろうか。模様や形状を見るかぎりそうだろう。
それにしてもとりあえず拾っただけにしても石の量が多い。やはり石拾いスポットとしてはなかなかいい場所なのだろう。
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一軍を綺麗に並べただけ。いい。
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二軍を綺麗に並べただけ。二軍はさよなら。
石好きださんは、どんな石を拾ったのだろうか。
なにやら、
う〜ん、う〜ん、と唸り声が聞こえてくる。
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多い。石の数が多い。そして引きで撮ってしまったのが悔やまれるが、この中にめちゃくちゃいい模様の石がたくさんある。
う〜ん。う〜ん。
石好きださん、どうされましたか。
「私は選抜の時、石の人さんみたいになかなか絞りきれません。これもあれも欲しいとなってしまって…。」
なるほど。
いや、私も選抜しきれない方だと思っていた。たとえばTADAは、平均して私の石の数の1/5程度しか拾わない。石を入れる袋の中にはいつも、二つ三つの石しか入っていないのだ。
これはもちろん福井でまたいつでも拾えるわ、という心理もはたらいているのだが、それにしてもTADAの石の数は極端に少ない。新潟や静岡で拾った際もそうだった気がする。
石好きださん、頑張って絞ってみましょうか。
正直、私が持ち帰るわけではないので人の自由なのだが、ここからどう絞っていくかに興味があった。(実験するな)
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どん。
よくわからない。
これがおそらく選ばれた石。だった気がする。なんかもっとあった気がするが、この後の石拾いかもしれない。
ここでまた一つ気づいてしまった。石好きださんは、本当に何の模様もないただの石ころも好んで拾われるのだ…!
この感覚が私にはほぼない。模様のある石を散々探した後、気まぐれで一つ二つ模様のないシンプルな石を拾うことはあるが、かなり色が変わっているか、綺麗な表面、完全な球体や三角四角など、整ったものでないとなかなか拾うことはない。
本当に、ただの石。石ころらしい石。そんな石を石好きださんは愛でている。
ここから思い出すのは渡辺一夫先生。全ての石が美しいとおっしゃっていた。
石聖…!(いしひじり 石を極め石を悟った者。だんだん説明するのが恥ずかしくなってきた。)
私の脳裏をよぎった。石好きださんは石聖に限りなく近い存在…。
ああ、わかっていた。開眼したTADA、サラブレッドのK、ナチュラル384。私の目指す石の高みを軽々と超えていきそうな危機感と焦りを感じていたが、この石好きださん、もちろん石拾いも石の数も尋常じゃない。比べ物にならない。おそらく私の数倍の頻度で石拾いに行っている。
今最も私が意識すべき石好きの人が、こうして石を並べている…。
今までの石拾いの戦いは地区予選レベルだったのだ。
ここで繰り広げられているのは、日本一を決める全国大会の一戦じゃないか。
石の戦いは突然に。
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これが石好きださんのさよならした石だと思う。
日本代表の…残された石たちはどうだ…!
選んだはずがほとんど減っていない…!
なぜだ…
そしてこの後も石拾いの戦いは続く…!
「石の人さん、ひとまず昼休憩に行きましょう」
…へいです。
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