時には昔の話でも ~ゲーム屋編~
ゲーム屋で働いていた時の話です。
それは2005年春。
とあるゲームソフトの発売を翌週に控えた週末のこと。
問屋から「来週発売の○○、ちょっとお安く出せますんで追加しませんか?」という電話が入りました。
私を含め、その場にいた従業員全員が「始まったな」と覚悟を決めた瞬間です。
「とりあえず検討します」と電話を切ります。
少し間をあけて鳴り響く電話の音。
違う問屋からの同様の営業でした。
しばらくするとFAXが届きます。
先ほどの電話で言っていた価格よりもちょっとお安くなったというご案内です。
およそ1時間おきにかかってくる電話とFAX。
そのたびに少しずつ下がっていく卸値。
週が明け、発売日が近づくにつれ問屋からの営業は懇願へと変わり、下降する度合いも最初は1%ずつだったのが数百円単位になっていました。
「お願いだから追加発注してください」
「よその問屋さんより安くしますんで」
当時ゲームソフトの卸値は定価の75%~80%が基本でした。
しかしそのとあるゲームソフトは発売日前日には卸値が定価の50%を下回っていた記憶があります。
発売日当日も鳴りやまない電話とFAX。
「売れ行きはどうですか?」
「さらに下げましたんでマジでお願いします」
もはやどこの問屋も投げ売り状態です。
卸値がここまでドンドン下がっていく異常事態は後にも先にもこの時だけでした。
そのとあるゲームソフトとはPS2『機動戦士ガンダム 一年戦争』。
おそらく当時ゲーム関連、特に小売店や問屋で働いていた人にとってはトラウマ級のゲームだと思います。
合併前のバンダイとナムコが共同制作した”売上100万本”というビッグな目標をかかげた意欲作。
……だったのですが、発売前から、いや発表当初からガンダムファンを中心に微妙な空気が流れていました。
「また一年戦争かよ」
ガンダムのゲームは数えられないほど発売されており、なかでも最初のガンダム、いわゆる一年戦争が舞台のファーストガンダムはトップクラスにゲーム化されています。
いくら名作とはいえ、そう何度も出されてはいい加減飽きてしまう。
そのようなユーザーの気持ちとは裏腹に、稀代のビックプロジェクトとして大量生産してしまったメーカー。
需要と供給が完全に釣り合っていない見本といえるでしょう。
ちなみに私が勤めていたお店はガンダムファン(ガノタ)が大半だったので大した数を注文せず被害を最小限におさえられました。
このゲームのせいで閉店に追い込まれた小売店や問屋があったという噂が流れていましたが、少なくとも私の知る範囲では実際に閉店したという話は聞いていません。
2005年はまだまだTVゲーム全盛の時代だったので、他でいくらでもカバーできたはずなんですよね。
発売日ともなれば大忙しだったあの頃……。
ちょっとしんみりした気持ちになってしまったので、今回はこの辺で。