改訂版 倉本聰 原作&脚本「海の沈黙」(2024.11.22公開)感想

改訂版 倉本聰 原作&脚本 「海の沈黙」(2024.11.22公開)
               
        2024.11.27 石野夏実
         ※ 昨夜の続きではなく加筆改訂版にしました。助詞の間違いや文脈、重複語句など推敲しました。(あっちゃーでした)


 3か月ぶり?にシネコンに行って公開初日の「海の沈黙」を観てきた。
とにかく題名がカッコ良いし、ストーリーも面白かったが。。4日過ぎたら心に残るものがあまりなかった。
テーマは「贋作とは?本物とは?美とは?」であり、原作及び脚本は倉本聰である。
氏は60年来、「永仁の壺事件」(陶芸の国宝級名人の加藤唐九郎が鎌倉時代の壺と偽って作った贋作事件で1960年に発覚。私は当時10歳ころで、この大騒動を少し覚えている)で贋作に興味を持ち、いつか作品として残したいと思っていたそうだ。
それと神奈川の真鶴半島に中川一政美術館があり、私は2度ほど訪れ彼の絵画を観てファンになったのであるが(※中川の絵はセザンヌの絵とタッチが似ている。特に「駒ヶ岳」と「サント・ビクトワール山」はそっくり)その中川一政が師匠の岡本一平(岡本太郎の父)からもらった絵を塗り潰しその上に自分の絵を描いたというエピソードがあって、この話もいつか作品にしたいと思っていたそうである。
贋作と絵の上に絵を描くというふたつの実話のイメージを、今回やっと映画にすることができたとのことだった。
『贋作でもお墨付きの本物でも、無名の画家の絵でも人を感動させる「美」があれば、それで十分ではないか』
私はその結論でいいと思う。
権力や権威主義の象徴のようになっている有名画家たちのバブリーな値段の絵画は、投資や投機の対象でしかないが、絵画は印象派以後ずっとその歴史を歩んできた。お金になるから贋作も作られるし利用もされる。
 
さて本題。主演は画家の津山竜二役の本木雅弘。竜二はヨーロッパで贋作と刺青師で生計を立ててきたが、贋作でインターポールに追われているため小樽に隠れ住んでいる。共演は30年も昔の恋人=安奈役の小泉今日子。
竜二のマネージャーというか自称番頭、ヤクザの親分っぽいスイケンという名の助演で中井貴一。
その他も豪華キャストである。
安奈の夫でかっては若き時代、ライバルの竜二を罠にかけ追い出した今は世界的な著名画家、川村修三に石坂浩二。川村は安奈の夫でもある。
二人を知る美術評論家の清家に仲村トオル。
この映画のテーマ「贋作とは?本物とは?美とは?」を投げかけ、贋作出品の責任を取って自死する地方の公立美術館の館長村岡に萩原聖人。
あとは竜二の刺青絡みの女優ふたり。
刺青のカタログとして色々な刺青を竜二に彫ってもらい、これ以上もう彫る隙間がないほど全身刺青の中年女、牡丹に清水美沙。
刺青をこれから彫ってもらいたくて竜二に近づくバーテンダーの若い女あざみ=新人でおそらく倉本聰の秘蔵っ子の菅野恵。
 
テーマもキャストもロケ地も3拍子揃っていたが、倉本さんが大の刺青好きらしく竜二もまた刺青好きに設定されていた。
 
竜二は、下北半島の漁村の出身で両親はマグロ?を追って海で亡くなった。父親は漁師の傍ら刺青師をしていた。
その影響もあり、仕事ぶりを見様見真似で覚えていたので、画壇を追われて逃避行中に刺青を彫って暮らしを立てていた。
 
 監督は倉本を尊敬している若松節朗。
油絵が中心の話であるので使われている絵画も見ごたえがあり迫力があった。
若松が監督インタビューで劇中の絵に触れていて、岩手在住の画家高田啓介氏の絵と紹介。
竜二のアトリエとして廃校の体育館を使用したが、高田氏に注文した100号の絵画「迎え火」(竜二の遭難した両親に、陸地への目印になるよう焚いている「迎え火」の絵)が100号では体育館のアトリエを圧倒しなかったので130号を改めて頼んだ。
2日後に見事な荒々しい「迎え火」がアトリエの空間に輝いたとのこと。
※検索で読んだところ、高田氏の経歴がユニークで興味深い。
私はこのようなエピソードが大好きなのでインタビューを読むのが楽しみなのである。
エンディングの音楽も出しゃばらず映画に合っていたので最後まで久しぶりに映画らしい映画としてじっくり見届けることができた骨太な作品だった。
 
ということで、2時間足らずの映画であったため、全くだれる時間もなく画面も必要な時はスピード感があった。
ただ、個人的には刺青が嫌いなので、これ必要ですか?とも思った。
刺青の話を入れなくても、十分ストーリーの展開ができるのでは、と思った。
 
逆に刺青をもっと前面に押し出したかったら。。。
若い時、竜二は恋人の安奈に躊躇して彫れなかった刺青を、30年ぶりの再会で彫ることにしても面白かったし。。。
番頭のスイケンは、イタリアのシェフ上がりではなく、実は日本一の元彫り師で、自分で自分の背中には彫れないから、竜二に彫ってもらったとか。。
逆に、竜二の背中にスイケンが見事な刺青を彫ったとか。。。
 
何れにしろ、2時間弱の映画の中では若い女のコのバーテンダーの登場は不要だったと思う。
 
竜二が末期の肺がんで余命ほぼなし。悪寒でぶるぶる震えていた時、肌のぬくもりで竜二を温め抱くのは、あざみだったが。。。
ラブストーリーを入れるなら安奈でなけれダメだと思う。でないと安奈との30年ぶりの再会は不要だったことになる。
竜二はそのぬくもりを母の肌のようだと話すが。。このセリフは不要かな。
 
「贋作、本物、美とは」は、今さら問うべきテーマなのかとも思った。
多くの人は、自分が感じる「美」を「本物」と思って生きていると思うので。
 
 
***********
 
余談:
久しぶりに本木雅弘主演の新作映画を観て、やっぱり彼は整った顔と悲しい目を持った俳優だなと思ったし、共演の小泉今日子の映画は観たことがなかったので新鮮であった。
モッくんとキョンキョンはほぼ同い年でアイドル時代が重なっていると思われたが、プログラムを読んでいたら二人ともそのようなことを書いていた。
 今回この映画で小泉今日子は顔のUPも多く、長澤まさみが年を重ねたらこんな感じになるのかなと、短めの髪型からもよく良く似ていることを発見した。
 ************

二人が30年ぶりに小樽でほんのひと時再会するのであるが、キャンドル作家になっている安奈が作った人の顔をした蠟燭は、竜二の顔とそっくりだった。
それが入った小さな手提げ袋を竜二に手渡すとき、互いに手指は触れなかったのに袋を離して添えていた安奈の手先をほんの一瞬、竜二は触れた。
安奈が感触を確かめる間もないほどの瞬間だった。
 
30年ぶりの再会は、おそらく互いにかなり離れた距離からのつかの間の接近だったはずであるが、会えばやはり距離は歳月を飛び越えた。

その後もう一度の無言の2、3分の再会。

夫主催のパーティーを放り出し、羽田から千歳の空港へと。
そのまま小樽の病院までタクシーを飛ばす安奈。
病院で危篤の竜二の枕元。
手も握らず、立ったままの安奈の別れの意味するものは。
安奈のプレゼントの竜二の顔をした蝋燭の目から、涙が流れ落ちた。
今度こそは再会がない永遠の別れだった。
待たせてあったタクシーに乗り空港へ引き返す安奈。
「もう飛行機の便はないですよ」と運転手が言う。
窓の外の夜景を黙って見続ける安奈。
小樽の倉庫や運河など街並みが流れる。
ここで映画は終わりにして欲しかった。
余韻を残すために。。

いいなと思ったら応援しよう!