アメリカ映画「裏窓」(1954)感想
2023年11月例会旧作ヒッチコック監督「裏窓」〈1954年作品)感想
11月3日記 石野夏実
この映画を観て最初に思ったことは「アメリカでもエアコン以前のクーラーがまだ一般家庭に普及していないであろう1954年公開頃の真夏ならば、窓を開けっぱなしにして暮らすしか方法がないのだろうか」であった。
これほど他人様の生活が丸見えというアパートの部屋の造りと、あけっぴろげな住人たちの暮らしぶりに大きな違和感を持った。
せめてレースのカーテンをつければいいのにと思ったがそれでは映画にならない。
あれほど見られているのだから視線を感じないのだろうか。
四六時中覗いている方も異常な変態である。
わざとらしさは、虚構の世界が前提の映画であっても、鼻についたらその映画の魅力は半減すると思う。
ヒッチコックは覗き見は隠れた欲望というかもしれないが、21世紀では他者のプライバシーに興味がない人も多い。
この映画はすべて中庭を中心としたアパートのセットであったとのことであるが、すごく大掛かりだ。住民たちの様子は身振り手振りがオーバーな演劇形式を試みたのであろうが…ミス・グラマー?ミス・ダンサーのわざとらしさは、ヒッチコックのサービス精神と個人趣向であろうか。
夜間にバルコニーで寝る夫婦も、蚊に刺されないのだろうか。これもわざとらしいコメディ―設定だ。
ひとりディナーのミス・ロンリーの孤独さえも平坦にみえる。バックに流れるビング・クロスビー(エルヴィス・プレスリーは、まだ54年には聴かれない)の甘い歌声は懐かしかった。
主人公ジェフ(ジェームズ・スチュアート)と恋人リザ(グレース・ケリー)の関係と恋愛の説得力がイマイチ弱い。
サスペンスはエンタメだからそれを求めてはいけない、とヒッチコックには叱られそうだ。
ハリウッド映画自体が、娯楽映画専門世界なのだ。
何十年も前にTVで観たことがあった「裏窓」が、これほどコメディ要素のある映画だとは、今回プライムで観直して初めて気が付いた。
ヒッチコックは「レベッカ」〈1940年※アカデミー賞作品賞)も作れば「サイコ」(1960年)や「鳥」(1963年)も作り、生涯監督作品50本以上を残し、今なお世界一のサスペンス映画監督といわれているだけではなく、斬新な撮影方法をいち早く取り入れた巨匠でもあった。
例えば、今回参考にしたくて観直した「めまい」のオープニングクレジットは、1958年製作なのに大写しのキム・ノバックの瞳から幾何学模様が流れコンピューターグラフィックのようであった。
これは驚きである。ヒッチコックは新しいモノ好きで、どんどん取り入れる人だったそうだ。
私がリアルタイムで映画館で観たのは「鳥」だけであるが、TVでは中学生の頃にサスペンス単発ドラマシリーズの「ヒッチコック劇場」を観ている。
TVの観客に向かって監督自身が案内人になり独特のテーマソングと共に登場し前ふりでサービスしていた。最後の頃は子ども心にもマンネリ気味と感じ、面白くなくなっていた記憶。
「鳥」の上映の頃とTVの「ヒッチコック劇場」は同時期だったと思う。
映画「鳥」のCMもTVで頻繁に流していた記憶がある。それで映画館に観に行ったのだ。
この「裏窓」の内容に対する感想は、ありえないほどのあけすけなアパート長屋の住人たちの上っ面な暮らしぶりの深みのなさと、それをのぞき見する悪趣味なカメラマンの2流コメディーにしか思えなかった。
題名「裏窓」の漢字が意味深で寄与した部分もあるのだろう。タイトルは大事である。
グレース・ケリーは文句のつけようがない美人女優であるが、それ以外の魅せられる個性があるのだろうかと映画を観ながら思っていた。
万人受けする美しさは女優にとって一番のチャームポイントであることも当時のハリウッドなら当然であろう。しかも、ヒッチコックはエンタメ専門であるので盛るところは盛る。代表作は綺麗な女優の登場ばかりだ。
ところでヴィヴィアン・リーにしてもエリザベス・テイラーにしても美しさに加えそれ以上に特別な個性を伴っている。天性もあると思うが備わっているものが違うのであろう。
「めまい」のキム・ノバックはとてもいい。あの役は他の女優にはできない彼女の代表作であると思う。「裏窓」と「めまい」を比較すると「めまい」のほうが私は好きである。心理の推測が色々できるからである。
両作品の主役のジェームズ・スチュアートは、おそらく有名大学卒のホワイトカラーの典型的な容姿で、当時のエリートアメリカ人像そのものだと思った。イメージ的に戦場に赴くカメラマンではないだろうし、刑事役にしては泥臭くない。
ハリウッド映画で2枚目でなくもっと個性的な役ができる俳優が登場してくるのはもう少し後なのかもしれない。(オーソン・ウェルズやマーロン・ブランドは除く)
ヒッチコック映画と言えば私にはケーリー・グランド(1904~1986)とジェームズ・スチュアート(1908~1997)であるが、ふたりは似ているような気もするし演技レベルも同様で、決定的な違いは顔の形と長さが違う。瞳の好みでいれば、私はケーリー・グラントの方がいいし男女ともに髪の毛の色はブロンドよりも濃い色の方が好きである。
1959年の「北北西に進路を取れ」では監督はイメージとして「裏窓」のジェームズではなく「断崖」のケーリー・グラントを配役したそうだ。
ケーリーの方がジェームズより4歳ほど年上で「北北西~」の公開時は驚くことに55歳である。「裏窓」のジェームズは公開時46歳である。こちらも驚く。
54年の「裏窓」、58年の「めまい」、59年の「北北西に進路を取れ」、60年の「サイコ」、63年の「鳥」、この10年間がヒッチコックの最盛期であろう。
ヒッチコックがいなかったら、今のハリウッド映画も違ったものになっていたかもしれない。「人が怖がることが一番面白い」というヒッチコックはあんなに太っていたのに80歳まで生きたので、それに関してもすごいなと思う。
今回の旧作「裏窓」のテーマ
☆あなたの好きなヒッチコック映画があれば教えてください。
今回ゆっくり観直した「めまい」が一番気に入りました。
一番怖いと思ったのは初めてみた時の「サイコ」です。
あれは怖かったです。
「鳥」は、TVCMが流れすぎていたので逆に怖くなかったです。
一番印象深いのは「レベッカ」です。高校のサイドリーダーで原作を読んで
いたので映画(ビデオテープ)を観た時は興味深かったです。
大掛かりなサスペンスとしては「北北西に進路を取れ」です。
ヒッチコックのサスペンスは「勘違い」がキーワードかな?とも思いました。