瀬々敬久監督「糸」(2020年8月公開)
「糸」を観ての感想
2020.8.27 石野夏実
※コロナ時代の4年以上も前の感想です。
先週封切されたばかりで、週初もまだ凄まじい頻度で予告編のCMが流れていた、大当たりが大前提の大衆娯楽映画。
菅田将暉と小松菜奈のW主演「糸」である。
ジャンルで分けるとしたら、ヒット曲映画化作品であろうか。ナレーターも語っている。中島みゆきの名曲が織りなす壮大なドラマ「糸」と。
これは、かって観た「涙そうそう」「ハナミズキ」などと同じジャンルの映画であった。
コロナだから観客は少ないだろうと予想して、娘と近所のシネコンに出掛けこの話題作「糸」を観てきた。平日の朝一番、9時半開演のお客は10人ほどだった。
しかも、皆、ネットで座席を取ったらしく考えることは同じで、ほとんどが最後方3列に集中していた。
照明が暗くなるのを待って、入り口には「座席を移動しないで下さい」と書いてあったのだが、半分くらいの人が前方に移動した。
外気取入れの換気の改善工事がなされ、空気の還流図が画面に流れた。
主演の二人は、今どき最もお似合いの二人である。
3度目の共演と言われているが、以前観た不条理暴力映画「ディストラクション・ベイビーズ」は、柳楽優弥がほぼ無言の主人公で、菅田と小松は共演者であった。
この映画は恋愛なんて甘いものはひとつもなく、あるのはただただひたすら相手かまわずの暴力だけだった。終盤に入ると何人も殺された。
同じ年に(2016年)公開された2本目の共演作は、二人がW主演の青春実写映画「溺れるナイフ」だ。
これは、主人公が中~高校生の恋愛映画であったので、菅田はほぼ変わらずだったが、小松は若返っていた。
今回の舞台は、北海道の美瑛と函館、東京、沖縄、そしてシンガポール等であったため、行ったことがあるロケ地も数か所あり、旅行もままならないコロナ渦の今、懐かしい気持ちになった。
平成元年に生まれたひと組の男女が、中学時代に駆け落ち事件を起こすほどの初恋をした。
二人は何回かの再会と別れを繰り返しながら最後にもう一度お互いを求めあい探しあって、やっとフェリーの桟橋で別れがない再会をした。
その後は結婚するというハッピーエンドの物語である。助演の俳優陣も豪華であるし多数出演、ベテランも健在だ。
話の筋は分かりやすく、今回の菅田将暉はそれほど強烈個性の過激な役ではなく、二人の中学生駆け落ち以外は穏やかである。
一方の小松菜奈は、25歳前後という実年齢の華もあって輝いている。
主役は小松が主かと思うほどである。
菅田将暉は、そろそろ青春物は卒業の年だろう。
映画では榮倉奈々扮する年上女性と結婚し、女の子が生まれ父になり、榮倉はがんの再発で亡くなってしまうのであるが、若いお父さん役も違和感なく、これも演技であろうが、それが出来るほどに落ち着きが出てきて、年を重ねてきたと思わせた。
山崎賢人の「劇場」と比較しようと思ったが、ジャンルも違うので今回はやめておくことにした。二人の成長が日本映画を観る楽しみなのだ。
ハッピーエンドの映画は、最高のエンターテイメントだ。菅田の中学生時代の子役が、まるで向井理とそっくりの顔立ちで好演していた。
強烈に印象的だったのは、中島みゆきの「ファイト」という歌の歌詞。
この歌を榮倉も成田凌もカラオケで歌う別々の場面があるのだが、フルで聴いたことがなかったから、今回初めて二度も聴いて、その内容に驚いたのは、私だけではないだろう。