京から旅へ/インド仏跡巡礼(23) 長い夜②
「長い夜」と云えば1970年に流行った、シカゴの曲を思い出す。
ビルボード誌で、全米第四位を記録したヒットソングである。
dan・dan・dan・dan・dan♪ dan・dan・dan・dan・dan♪と力強く
クールなエレキギターとドラム、続いてpa~ra・pa・pa・pa~♪と
管弦楽器が襲う、イントロが衝撃的なブラス・ロックバンドの名曲だ。
当時は中ニ。勉強もせず、ラジオの深夜放送ばかり聴いていた。
オールナイト・ニッポンだ、セイヤングだ、走れ歌謡曲^^だ、
そうだ、1970年と云えば、大阪万博。修学旅行で京都にも来たな。
などとボンヤリ、バスのシートでうたた寝しながら、考えていた。
ヤレヤレ、それにしても「長い夜」である。
既に、午前0時を回った。バスはずうっと、渋滞で止まったままだ。
狭い道幅を進行方向だけで無く、反対車線も皆、停止している。
ガンジス河に架かる、幅5,575Mのマハトマ・ガンジー橋を渡る
手前の道で、バスの前後、ズラーっと数珠繋ぎに‥
大型バスやトラックが、完全にエンジンを切って止まった。
さっきまで、喧しく警笛を鳴らし、競い疾走していたのに‥
ヘッドライトも室内燈も、全部消えて、闇の中に沈んでいる。
「えー?、まさか此処で、みんな、寝るんじゃないよね?」
「でも、前のトラックの運転手とか寝だしたら、どうすんの?」
印度人の想定外の展開に、日本人の乗客たちは慌てる。
とり急ぎ、皆、不可解な状況の把握と、トイレ休憩の為、外へ。
ガンジス河へ続く土手沿いに、つくられた道路のようだ。
眼下に、家の灯りがぽつん、ぽつんと見えている。
普通の黄色い外灯なのに、周りが暗過ぎて、やけに眩しい。
本当に此処で、車中泊なんだろうか? 不安がつのる‥
と、思った瞬間、前方が明るくなり、まるで鳥の群れが一斉に
飛び立つように、キュルキュル、キュルキュル、ギュルウウ~。
全車のエンジンが唸りをあげ、バッと、ヘッドライトがついた。
あのドッグレースのような走りと云い、闇夜の道を走る目と云い、
予告なく一斉に停止し、突然一斉にスイッチが入る連動性と云い。
この国の人には日本人に無い、特別の能力があるのだろうか?
まぁ、良い。とりあえず、バスが動いてさえくれたら。
と、安堵したのも束の間、バスは牛歩の如く、ゆっくり走っては、
止まる、を続け、1時間以上かけて、なんとか長い橋を渡りきった。
さらに其処から、昨日、宿泊予定の、ラージギルのホテルをめざす。
久しぶりの徹夜に、頭の芯が白く成り始めた、午前4 時 10分。
無事に? 昨日、泊るはずだったホテルに、バスは到着した。
ヤレヤレ、ホントに、「長い夜」だった。 シカゴでなく、インドの。
そして、本日の予定は、霊鷲山。 出発は、午前5 時 30分なり。
インド仏跡巡礼(24)へ、続く
(2014年6月5日 記)