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投資対象としての楽曲

 昨今、楽曲を始めとする著作権の取引所、ファンドなどが急速に立ち上がり、著作物(著作権)投資が活発になってきている。例えば、アメリカの Mills Music Trust、イギリスの Hipgnosis Songs Fund、EUの ANote Music などがそれに当たる。

 この動きの背景には、先進国、発展途上国問わず、ほとんどの国において著作権に関する法規が整備され、著作権が保護されるようになったことがある。また、著作権は財産権であり、著作権所有者には独占的利用が認められ、他の財産同様、売買・貸与・譲渡の対象にできるからである。

 楽曲への投資に話を限れば、Spoftify、Apple Music などの世界的な音楽配信(ストリーミング)プラットフォーマーの出現が上記背景に加わる。音楽がオンライン配信で聴かれる現在、音楽配信プラットフォーマーに楽曲をリリースしておけば、世界のどこかで誰かが聴いてくれる可能性がある。また、定額制・聴き放題なので、リスナーもお金を気にせず、様々な曲を検索し、聴くことができる。これらの意味で、CDや楽曲のダウンロード販売に比べれば、著作権収入を得やすくなったと言える(配信になって著作権料は少なくなったが)。

 さて、かく言う私も音楽アーティストで、音楽配信プラットフォーマーで楽曲をリリースしている。2019年にリリースした ♪Bring Me Back to the Night♪  という曲は、未だに少なくと一日一回は世界のどこかで聴かれている。一回のオンライン再生で私の手元に入っている金額は約1円である。一日一回聴かれれば、年間365日で、著作権収入は365円となる。これは楽曲をプラットフォーマーに置いておくことによる利回りと考えることができる(ここでは単純化のためにその他の費用は考えない)。

 本記事執筆時点の大手銀行の普通預金の金利は 0.001% である。年間365円の利回り(利息)を得るためには、365,000円 預ければよい。すなわち、投資の視点で考えれば、一日一回再生される曲の著作権は 現金365,000円と等価になる。銀行にお金を置いておくのも、プラットフォーマーに楽曲を置いておくのも、利回りを生み出している限り、投資上変わらない。

 こう考えれば、一日一回再生される曲の著作権を365,000円未満で買い取れば、銀行の普通預金にお金を預けるよりも効率の良い投資となる。もちろん、著作権を買い取った楽曲が、これからも一日一回再生されるかどうかは分からない。著作権を売却する際に、売却額が購入額を上回ったり下回ったりすることもあるだろう。この点を考慮すれば、投資上、楽曲は価格の変動がある株や不動産と多くの特徴を共有しているといえる。

 本記事では、楽曲を中心に話したが、Netflix や Primeビデオに置かれる映画やドラマの著作物も同様である。

 今後、著作物(著作権)の取引市場、著作物に投資しその運用益(著作権料)を配当とするファンド、著作物を担保にした貸付などが盛んになり、よりエンタメ市場と金融市場は融合していくであろう。

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石松 宏和/エンタメビジネス研究者
最後までお読み頂きありがとうございました!読んでみて何か参考になる部分があれば、「スキ」を押していただけると大変嬉しいし、執筆継続の励みになります。