エンタメのグローバル化に対する考え方(2)
エンタメのグローバル化を語るとき、2つの側面から語られることが多い。一つはアメリカのエンタメがグローバルに浸透していく側面、すなわちエンタメのアメリカナイゼーションであり、もう一つはアメリカ以外のエンタメがグローバルに浸透していく側面である。
2000年頃までは、エンタメのグローバル化とは、アメリカのエンタメが世界に普及していくことを意味することがほとんどであった。そしてこれは文化帝国主義(Cultural Imperialism)、あるいはメディア帝国主義(Media Imperialism)としてさまざまな議論を引き起こしてきた(トムリンソン[1997])。
これに対して2000年代に入ると、日本のマンガ・アニメ・ゲーム、韓国のドラマ・映画・音楽、インドの映画・音楽(いわゆるボリウッド)などの非アメリカのエンタメが世界的に注目されるようになった。
エンタメのグローバル化の議論において、上記の「エンタメのアメリカナイゼーション」と「アメリカ以外のエンタメのグローバル化」が相対する2つの極のように議論されることが多いが、実際は絶え間なくお互いに影響しあっている。記事「エンタメのグローバル化を考える(1)」でも少し言及したが、この2つはお互いに再帰性(Reflexivity)を有している。
韓国のK-POPは、アメリカのダンスミュージック、ラップ、ヒップホップなどに多大な影響を受けている。この視点に立てば、K-POPの出現は韓国のポピュラー音楽のアメリカナイゼーションといえる。しかし、Shim[2006]が指摘するように、K-POPはアメリカ的要素に韓国的要素を加えたもの、すなわち双方のハイブリッドである。
昨今、アメリカの音楽ヒットチャートに恒常的に韓国のアーティストが入っているが、これはアメリカの音楽に多大な影響を受けたK-POPがアメリカのポピュラー音楽に再帰したと考えられる。
一例を挙げよう。BTSはK-POPを代表するグループである。2020年にリリースした "Dynamaite" は、韓国アーティストとして初の全米シングルチャート1位を獲得し、K-POPのグローバル化を揺るぎのないものにした。エンタメビジネスとしては大成功である。
しかし、"Dynamaite" の歌は全編英語で典型的な欧米のディスコサウンド。あまり知られていないが、作詞・作曲は、David Alexander Stewart と Jessica Agombar というイギリス人のソングライター・コンビである。
アメリカ音楽に影響を受けたK-POPはグローバル化の結果としてアメリカに再帰した。しかしそれと同時にアメリカ(欧米)型の音楽に巻き取られたともいえる。
参考文献
ジョン・トムリンソン『文化帝国主義』 [1997] 青土社
Shim, D., "Hybridity and the rise of Korean popular culture in Asia",
Media, Culture & Society, Vol. 28(1), pp.25-44, 2006.