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情報社会を生き抜くための本54「よみがえる脳」(生田 晢)

冒頭のエピソードはバーンスタインという眼科医が脳卒中で左半身不随になったにもかかわらず、エクササイズ(運動)によるリハビリによって機能回復し、テニスやピアノリサイタルを行えるまで回復したというものである。エクササイズは、脳を回復する例としてあげられている。うつ病の回復にもエクササイズによる効果が認められているという。脳の損傷は不可逆的と思われているがそうではない。脳は環境の変化に対応し、何歳になっても、絶えず変化し続けているという。特にエクササイズの効果が大きい。という、「脳科学の常識」が大きく変わったことについての書である。

筆者は、薬学博士でアメリカでの研究員を経て、帰国後はライフサイエンスに関する執筆活動を行なっている。

「はじめに」のところにひっかかる文章があって、この本を読みだした。「戦後の日本人はひたすら便利さを求め続けた。自動車、エレベーター、エスカレーター、電気掃除機、電気洗濯機、パソコンなどきりがない。自動車や家電製品の発達のおかふげで体を動かさなくなった。オートクルーズのおかげで、あまり関心を向けなくても自動車の運転ができるようになった。パソコンのおかげで文章の作成が楽になった。その代わり、文字は書けなくなった。体を動かさなくとも、関心を向けなくとも機械が自動的にやってくれる。この落とし穴は、便利さに浸かってばかりいると、脳を変えることができないということである。」
情報社会において便利さを甘受することの危うさについて意を同じくしている。

脳科学の最前線にいる科学者たちのエピソードも書かれているが、特に惹かれたのはロックフェラー大学のエリザベス・グールドとソーク研究所のフレッド・ゲイジの話だ。脳神経学の研究は神経再生をテーマに急速に進化していることがうかがえた。脳内にも神経幹細胞があり、1日に500〜1000個の神経細胞を生み出しているという。死ぬまで脳は成長し続けているのだ。ノーベル賞もこの分野で受賞することだろう。