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情報社会を生き抜くための本37「不便益から生まれるデザイン」工学に活かす常識を超えた発想(川上浩司)
この10年・・・以上、学校から頼まれて「情報メディアと生活習慣」についての講演を頼まれる。多い年で40回近く講演をした。そのときに話すのは、便利な世の中になると本来もっていた人間の能力を失うことがあるよ、という文脈だ。society5.0の時代を内閣府は「超スマート社会」と名付けている。私に言わせれば、超便利社会だ。もちろん便利に越したことはないが、基本的な人間の能力を身に付ける前に便利になると失うものは大きい。超便利社会だからこそ、非認知能力が重要であり、めんどくさいけれど自分でやることの意義は大きい。運動能力を上げるには体幹を鍛えろとよく言われるが、運動能力だけではない。体幹ともいうべき人間の根源的な能力をしっかりと身に付けておくことが情報社会では重要だ。そんな思いで、子どもたちへの講演では便利な時代だからこそ、「失ってはならないものがある」、「不便から学ぶことは大きい」と話してきた。数年前、こんな考えは自分だけかなとアマゾンで検索したら川上浩司さん(京都大学大学院教授)のこの本が引っかかってきた。
この本の書き出しで川上さんは次のように書いている。「便利と豊かを同一視してはいけないというのが、本書の根底にある前提である。心のもちように強く関連する「豊か」という状態と、本書で使う用語としての「益」から導かれる状態は、必ずしも同一ではないが、ここではあえて簡単のために「豊か」を「益」に読み替えてみる。そうすると、本書の前提から「便利/不便」と「益/害」とが独立していることになり、表の4つの場合が考えられる。」私は単に「便利ー不便」の対立構造で考えていたので、なるほどと思った次第である。
たくさんの情報がこの本には書かれていて、それぞれに納得をするのであるが、引っかかったのは視覚障害者の方のエピソードである。カード社会になってからカードの位置を特定するのに切れ込みを入れたり、携帯電話の5のボタンに突起がないときはテープを貼ったりと工夫をしていた。視覚障害者にとっては、世の中が便利になって逆に困る場面も多いのだ。スマホやタブレットPCの時代になり液晶画面を操作しなければならない時代に超不便な環境になってしまうのだ。私の知人で三重県の特別支援学校に努めている北村先生は、盲の子どもたちにタブレットPCでの操作を感覚的に認知させる自作教材をもちいて授業を行っている。ユーザビリティやインクルーシブデザインは一筋縄ではいかない。
川上さんは、ジュニア向けなどつぎつぎと不便益に関する実践的なエピソードの入った本を出版しているが、理論編としてこの本は貴重だ。少しむずかしいが・・・
私は中学校国語の教科書編集に携わっている。次期の国語教科書に川上さんの不便益の話が教材として載る。ぜひ、中学生に不便益の哲学を考えてほしい。情報社会だからこそ、超重要だ。