ひきこもり・サブカルちゅあ番外編 ある若者の創造した緻密な“異世界”
今回は、僕(石川清)の作品ではありません。僕の会っている若者が生活や仕事の合間に創造した“異世界”のアウトラインです。
アウトラインと言っても、極めて緻密で精巧で、自然体系や魔法の現象、宇宙の相互関係、絶滅動物を交えた多様な生態系、多様で個性的な国々などを細かく練り上げているのが特徴です。
と、僕が説明してもしょうがないので、まずはご覧ください。
作者は仮にYくん、としましょう。今のところは。
(以下が彼の構想メモというか、作品というか、そういうものです。本人の了解を得て、発表させていただきます。仮にこの舞台で作品化したいという方がいたら連絡くださいということですby 作者)
大作です。
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Ⅰ 漂流画の世界
世界・現実世界で忘れ去られた存在が流れつく世界
役割・現実世界の受け皿であり、神々や妖異の生息域
天体名・オルフェウス
太陽系・地球がオルフェウスに置き換わった鏡写しの世界
軌道要素・地球と同じくする
物理的性質・陸地が存在せず、海域と空中に存在する浮島によって成る
大気の性質・地球と同じくする
科学技術水準・現実世界の18世紀ごろの水準
地球と異なる点・「魔素」というエネルギー物質の存在
・漂流画の世界「オルフェウス」
現実世界で忘れ去られた物、絶滅した種族、魔法、神、幻獣などが行き着く世界。そして彼らが生活をする場所でもある。現実世界での生命体も成育する。これらはレッドリストに載る絶滅危惧種ほど、こちらでの数を増す。また、経済・文化・技術・思想の担い手として人間も同様に存在する。
現実世界からこぼれたり、溢れたりしたときにこちらの世界へと流れ着く。具体的には絶滅、破損、喪失、忘却、そしてその存在が否定されたときなどに受け皿となる。そしてその時に、顕現や誕生、進化などの形でこちら側に生まれる。現実世界の裏面に存在し、自由な行き来は不可能。
これらは現実世界、表面の支配者である人間に深く関係がある。絶滅や破損などは人類の繁栄と盛衰の過程で発生する。また神話や魔法は人類の文化として創造されたが、科学の発展などにより忘れ去られたり、否定されることが発生。これにより表面からこぼれた存在の受け皿となるのが裏面の世界「漂流画の世界」に当たる。こちらの世界が創造された経緯などは詳しくは分かっていない。異世界や別次元、死後の世界などではなく、現実世界の世界線の表裏というのがこの世界とされている。
なお「オルフェウス」というのはジャイアント・インパクト説において、およそ46億年前に原始地球に衝突し、そこから現在の地球と月が誕生したと考えられている太陽系の仮説上の原始惑星名である。地球とは異なる性質を持つため、表から派生した裏という意味で「オルフェウス」と呼ばれるようになった。純粋にこちらの世界を意味する呼称としても用いられる。
・物理性質と「国」
この世界は陸地がほぼ存在せず、その上空に漂う浮島に生物が営巣している。これはこの世界の大気と土壌には「魔素」というエネルギーが混在しており、その影響で揚力、斥力、磁力などの影響で浮島が生成されている。位置は海抜50mほどに位置する物が多い。元々は不便な環境であった。
そのため、神や高等妖異などはこの地盤を自らの力で海から引き揚げ、周囲の浮島と合併させることで自身の領域を確保していた。それにより、動物が集まり、人が集まり、生活が営まれるようになった。これが現在における「国」の原型である。この国土を引き上げられる理力、知力、熱意などをもったものをこの世界では「統治者」と呼んでいる。神や妖異、人間など、種族は問わず高い能力を持つものならば国土を持てる。
単純に能力のある統治者ほど、大きな国土を形成することができるが、国土が広がるほど政治力が求められ、経済・文化の形成などが難しくなる。そのため文明的な生活を望む統治者の多くは、中規模程度の国土で執政をすることが主。またこの国土の土壌は統治者の影響を受けやすく、火神であれば乾燥帯~亜熱帯、虹蛇ならば湿潤な熱帯or温帯といった次第。これも土壌の中の「魔素」の影響である。
現在では数重の国が成立し、国家間でも貿易や戦争状態など関係性が出来ている。そのため国家間で関係性を持つ場合、公平性+協調性の維持が必要となったため「裁きの国」という国連のような機関が存在する。これにより、戦争では宣戦布告協定の基に行うこと、捕虜への拷問禁止、他国出身者への差別禁止といった均衡が保たれるようになった。
始原の頃は、それぞれの国で有翼騎獣を調教し、それを使用し交易を行っていた。当時は物々交換が主流で、飛行技術も騎獣を用いる場合が多かった。昨今では貨幣と飛空艇技術が発達し、より安定したものとなっている。
国は統治者にて立ち上げられるが、国力を維持するには国民の支持が必要である。現存するのは優れた政治体系が確立された国で、いかに強靭な神が統治者であっても、国民の理解を得られない国は軒並み滅びている。統治力と理解が失われると、国は崩壊に至る。国が崩壊する際は、徐々に勢力地遠方の国土が細かい浮島へと分離し始める。その後、地震や地殻変動にて国土に亀裂や地割れが生じ、そこから中規模の浮島へと分散する。最終的には国土の海没などを経て、分散化が進み遺跡の残る浮島になる。この際の難民対応も「裁きの国」の管轄である。
・魔素
この世界にのみ生成されている物質。現在、こちらの世界では物理化学などは未発達なためどのような物理構成を持つかは不明。神々曰く、神や妖異が超自然的な力を行使する際に用いる魔力のようなもので、原子・分子より細かい物質であるとのこと。これらの神々との対話により、ある程度その性質が判明し学問として体系化している。魔力、波動、マナ、エーテル、オーラ、チャクラなど様々な呼称が入り混じっていたが、体系化される過程でいずれでもない「魔素」に一本化された。現実世界における酸素のようなもので、薄い~濃いといった濃度のバラつきはあるが、常に循環するため成層圏以内であれば無くなることは発生しにくい。
魔素の源流は「生命」であり、命が散る際に自然へと還元されるエネルギーである。空気中と土壌へとそれが還ることで、循環する。この際に土壌には魔素の通る道が出来上がり、それを放出する泉を「龍脈」と呼んでいる。空気中では大気の流れとともに流れ、生命の誕生+進化や新たな生態の発現などを励起させる。この発散される魔素の量は名のある神など、高等な存在ほど亡くなった時の量が多い。これらが循環することで、大地で新しい芽吹きや命を育み、風に乗り今生きる妖異の力となったりする。あくまで生命の循環、生命力のエネルギーである。
現在では魔素は六属の指向性を持つことが判明している。猛り焼焦がす「炎」。流れを凍てつかせる「氷」。生命と流れを運ぶ「風」。不動たる泰然な「土」。光と音にて駆け巡る「雷」。そして、生命の源である「水」。この「炎・氷・風・土・雷・水」はそれぞれ円環に連携を成す。また、炎は氷を溶かし、氷は風により肥大化する。風は土を削り、土は雷を受け止める。雷は水中を駆け巡り、水は炎を煙に変える。つまりは六属性を時計回りに配置すると、それぞれの半時計に位置するものが弱点に当たる。
加えて六属性を炎・風・雷と氷・土・水で結ぶことで、六芒星の図で表すことができる。これは炎は揺らめき、風は吹きすさび、雷は物体の間を駆けることから所謂「動」の性質を持つ。これらをまとめて「動属性」とも呼び、物体を活性化させるのに適する。対し、氷は冷厳と、土は泰然と、水は悠然とそれぞれ不動たる様子から「静」の性質を持ち、「静属性」とまとめて呼称される。これらは物体を停滞化させるのに適する。
・魔素結晶体
魔素はそれぞれが持つ属性同士が引き合う性質を持つ。これが地表で結合し合うと魔素の結晶体が構成される。これが目に見えるまで凝結したものが魔素結晶体である。その見た目から「クリスタル」と呼称される。
これは地表上の魔素の集結に、大気中の同属性の魔素が引き寄せられ、結合が促進されることで結晶化する。具体的には、火山や鉱山にてファイアクリスタル、凍土や雪原にてアイスクリスタル、峡谷や浮島にてウィンドクリスタル、荒野や砂漠にてアースクリスタル、草原や山間部にてライトニングクリスタル、そして湖畔や湿地帯にてウォータークリスタルがそれぞれ生成しやすい。
これらは魔素の結晶体のため、そのままでもある程度の機能を持つ。クリスタルは生命力の塊のため、人などがつつけば機能したり、停止させたりできる。それぞれ温度管理や空調設備、水道浄水などに活用され、人々の暮らしを支える重要な鉱物である。極めて魔素密度が高い物は杖の材料になる。また、大きな樹状結晶などは魔法陣の核となるなど応用ができる。同じ属性の魔素が周囲に存在すれば、それから欠けた部分を補給する。ただし、基本的に寒冷地での暖房器具のような用途で使われるため、消耗品である。
ちなみに混在した魔素から成る結晶は「ピュアクリスタル」と呼ばれる。これは各属性がほぼ同じ量含まれていた場合に発生する魔素結晶体である。炎が水によって、氷が炎によって、…と内部で各属性が相互に相殺し合い、無属性の純粋な魔素によって構成される。見た目は美しいが、無属性魔法は活性・停滞どちらにも中途半端である。ただし、簡単な操作で簡易的な魔法が使用できる。移動や変装、光源の作製などに使用でき、強い魔法の触媒にはならないが、生活には便利な鉱物である。半面、発生は稀で取れやすい地域などが絞られず、希少性が高い。
また前述のとおり、国土の土壌は統治者の影響を受けやすいのは、地中に生成される魔素とクリスタルの影響によるものである。同様に、国土が浮くのも同じ理由である。それぞれ、炎・氷ならば揚力により、風・土ならば斥力により、雷・水ならば磁力により、それぞれが浮遊する。基本的にこの3種が複合し合い、浮遊力を発揮することで国や浮島は存在している。
なお、これは地表で魔素が結合した場合であり、空中で結合すると集中点が無いため災害の元になる。熱波や冷害、嵐や砂塵、積乱雲などに発達する。これを未然に防ぐ手段は現在研究中である。
・魔法
神々や妖異はこの空気中の魔素を体内に溜め、時によって放出することで超自然的な力を生み出す。この過程を自己完結できる存在をこの世界では「魔法生命体」と呼称している。対して、人間は溜める+放出機関が存在しないため非魔法生命体である。
これを呪文により特定属性の空気中の魔素を凝縮させ、集中力とともに放出する疑似的な行為を「魔法」「魔術」と呼んでいる。ちなみに魔術師が杖を用いるのは魔素の凝縮の目印+魔素の放出を補助するためである。これに対し、神が行使するものを「奇跡」、妖異が操るものを「妖術」と呼称している。これらを模倣した人間が用いるものが「魔法」に当たる。
しかし、完全な下位互換というわけではない。魔法生命体にとっては、これは当然使える能力として深堀があまりなされなかった。対し、人間はこれを「魔法学」として体系化し、観察や研究の過程で「魔法」を確立させていった。非魔法生命体であるからこそ、これを使いこなすために知恵を巡らせ、性質の研究や術式の発明に尽力していった。そのため当初こそ「妖術」の下位互換であったが、現在も研究と応用が成され、「魔法」そのものを進化させている。今では魔法の研究大学院が多数建造され、「裁きの国」には入学難易度の高い魔法大学院が多数存在することで有名である。
現在体系化されているのは、破壊魔法術、治癒魔法術、召喚魔法術、そして魔法生物学である。これらのベースは魔法生物学であり、魔法生命体の観察と魔素の利用法からそれぞれが見出され、体系化された。またこの過程で魔法を操るための道具「魔道具」の作製方法も確立された。現在はこの魔素の応用+蒸気機関を利用し、各国間を飛空艇で移動することができる。飛空艇も蒸気機関+炎と風による魔素応用機関が搭載された、移動用大型魔道具である。
・魔法生命体
魔素の補給と放出を自己完結できる生命体の総称。大まかな分類では、神、神獣、幻獣、妖魔、妖怪、霊的存在などがこれに当たる。彼らの中で理知的+人間に好意的な存在との意見交換の中で、「魔法」が編み出された。
具体的に現存する魔法生命体は下記などが挙げられる。三女神ノルン(裁)、知神トート(裁)、書神魁星(裁)、妖樹イルミンスール(裁)、月狼フェンリル(裁)、天馬ペガサス(玩)、一角獣ユニコーン(森)、半水馬ヒッポカムポス(森)、鷲獅子グリフォン(砂)、飛竜ワイバーン(聖)、鬼(森)、天狗(森)、思念体スピリット(玩)、三闘犬ケルベロス(裁)、妖犬ヘルハウンド(聖)、妖馬ナイトメア(聖)、死霊騎士団ワイルドハント(聖)など。生息状態や出現の経緯などの詳細は各国の記述を参照されたし。
魔素の補給+放出能力をそれぞれ持つが、これには種により差が存在する。補給方法・補給限界・放出方法・放出限界・保有する魔素の種類・魔素の利用方法などの差異が存在する。なお、この魔素の補給量+放出量が多い種族ほど、凶暴で生命体に対し攻撃的になる。これは空気中の魔素だけでは補給しきれず、周囲の生命体を殺し、そこから発生する魔素で不足分を無理やり補うためである。そして、その放出によってさらに多くの生命体を焼くという悪循環を生み出しかねない。
現在確認されているものは、最大で3種の魔素を同時に操る存在が確認されている。それぞれを別々に使役するものも存在するが、風神などは氷・風・土を同時に使役し、風を抑制する水分を氷で凍てつかせ、土によりその烈風を強化するといった一局集中的な使役をする。ちなみに「動属性のみ」or「静属性のみ」使役する個体は確認されていない。ただし、人間が魔法学を発展させたのと同様に、既存の種から進化して現れる可能性は存在する。
魔法生命体は下位のもの、浮遊霊ゴースト、思念体スピリット、属精スプライトなどは周囲の魔素の吸収のみで活動することが可能。中位クラスのものから魔素+栄養素+熱量を摂取することで活動を行う。上位の個体になると、魔素の吸収さえできれば、休眠状態で生存することが可能。ただし、生活をするには中位以上の魔素と栄養素、熱量を必要とする。これらの点からよりこの世界に適応したものが、「魔法生命体」と考えられる。
・魔素の限界
神々が根付く世界ではあるが、その能力の発現にも限界がある。あくまで「自然現象の極地」を使いこなせる神々が生きる。そのため、時間や空間、無から有を作り出す万物の創造といった能力を持つ所謂、原初の神「創造神」は確認されていない。
具体的にはエジプトの創造神アトゥム、日本の創造神イザナギ・イザナミ、インドの創造神ヴィシュヴァカルマン、オーストラリアの創造神エインガナ、アステカの創造神オメテオトル、ゾロアスターの創造神ズルワーン、ヒンドゥーの創造神トリムルティ、シュメールの創造神ナンム、オルペウスの創造神パネース、中国の創造神・盤古、インカの創造神ビラコチャ、イースター島の創造神マケマケなど、いずれも存在の確認はされていない。
これらの創造神たちが一体となりオルフェウスを創造した、という説も存在する。この世界の不可思議性を解決する中で最も説得力があるが、証明は出来ていないのが現状である。これらは世界の均衡のために「除かれた」とする説や、この世界の「核」となり海中で眠っている説なども存在する。
また魔素も酸素など同様重力の影響を受けており、原子・分子よりも細かいが電離層を抜けられない性質を持つ。そのため、熱圏を超える大気中には含まれず、宇宙空間にも存在しないものと考えられる。そのため「魔法生命体」はオルフェウス由来のもので、仮に「ヨグ=ソトース」のような存在が実在する場合、それは「魔法生命体」を超越する存在だと考えられる。
・神
この世界に存在する魔法生命体の頂点に存在する者達の総称。あくまで単体で存在し、極めて長命のため、種の増殖及び補完などを最終目的に掲げる者はあまり存在しない。場合にもよるが、「悪魔」などもこれらに分類される。また即身仏や現人神といった特殊な場合を除き、人がこれらの種に進化することはほぼ無い。
存在の否定や人々の信仰離れにより顕現する存在。彼らの多くは「自身の持つ知識を次代へ受け継ぐこと」を主目的としており、自身への信仰を重んじない個体が多い。これはこの世界には「神」という存在が無数に存在し、その維持が難しい事による。また、同系統の妖異がそれに似通った存在へと変化することはあるが、非魔法生命体である人間にはこれは発生しにくい。
個体差が大きく、性格なども非常に多様である。様々な知識や経験の集積体であり、その知恵を活かし世界を繁栄に導く個体が多い。彼らは人間の「信仰」「想像」「文化」から生まれた者達であるため、この世界の破滅を望む者は極めて少ない。それぞれの生活や活動は非常に多岐にわたる。俗世と距離を置き隠遁する者、統治者となり執政を行う者、知恵者となり執政を支える者、身分を隠し人間の中で生活を送る者など、「信仰」や「身分」から解き放たれ自由に生きる者達が多い。
・貨幣と経済
貨幣・紙幣は世界共通で同一のものが使用される。こちらも管理は「裁きの国」が技術管理を行う。統治力に優れた国に造幣局が存在し、そこの局長クラスに裁きの国の政務官により製作方法が伝えられ、造幣が成される。これにより貨幣及び紙幣の印刷+管理+廃棄が行われる。貨幣単位は「イオン」。ラテン語で「流動」を意味する。
貨幣は刻印、紙幣は印刷の際に、それぞれ魔素を配合した金属とインクが特殊な製作技術で刷り込まれる。これにより国の安定度・信頼から割り出された倍率が金額にかかる。仮に100イオン所持していた場合。信頼度の高い国では120イオンに、不安定な国では80イオンにとそれぞれ額が変動する。とはいえ、現状は各国ともに安定しており、数イオン程度の変動である。
これは内部の刻印や数字が金属とインクで自動的に書き換わることで変動が発生する。原理は高い秘匿された魔法技術が用いられ、国の国土からの魔素で書き換えが行われる。国が崩壊を起こした場合、魔素の不安定化に伴い、機能が停止し白紙になる。こうなったものは復元も不可能。また、外部からの非合法な魔法的干渉があった場合も不安定化し、偽造を防ぐ。
この技術は秘匿されながらも日々改良が重ねられ、より高い技術・コスト管理・偽造対策などが成される。ある程度の年数ごとに新しいデザインに刷新が成され、日々研究と利便性の向上を目指している。また、これには各国の統治者が国の安定化に勤めるための機能も内包している。これは国民の信頼の低下=経済力の低下であり、これにより各国はより良い統治を目指す。
・太陽系
太陽系は地球と全く同じものである。これは天体観測及び、地殻の地質年代測定などから明らかになった。また、裁きの国の占星術師曰く同一のものである報告がなされている。
これはこの世界が現実世界の受け皿として機能するために必要なため、このようになっているという説が根強い。現実世界の地球で「喪失」が発生するには、まず「創造」がその前提に必要となるためである。そして、その受け皿、生息する場所として機能するには地球と同じ惑星であることが提示されることになる。全く別の惑星であれば重力や質量の違いから、成立環境が満たされず過剰な重力などで原形を保てず喪失してしまい、この受け皿の機能を発揮することが出来ないためではないか、とされている。
ただし、これが地球と同じ場所に存在するのかは明らかになっていない。つまりは、太陽系は銀河系においてはオリオン腕に位置するが、オルフェウスが同じ位置に存在するかは確かめようがない。つまり、太陽系と全く同じ環境に成立する、別の銀河系に所属する可能性も否定はできないためである。しかしながら、この世界が地球に由来する存在で構成されるため、この可能性は低いとされている。あくまで惑星地球の裏面が惑星オルフェウスである、との説が強い。
しかしながら、この「受け皿となる機能」が地球に由来するものなのか、オルフェウスに由来するものなのかは不明確である。また、もっと別の事象の可能性も考えられ、現状では所謂「悪魔の証明」になってしまうため議論は停止している。オルフェウスには太陽神も悪魔も存在するが、それでも証明できないのは皮肉である。
・絶滅種
今までの歴史の中で数多くの絶滅種が発生してきたが、全ての絶滅種は一度、こちらの世界に流れ着く。しかしながら、全ての種が現在も生息している訳ではない。あくまで「再度繁殖する機会を得られる」世界である。
海棲節足動物・海棲爬虫類・恐竜・被食動物など多くの種がこちらの世界には流れ着くが、全てが現存しているわけではない。既存の種も含めると大量な種がここに当てはまるが、惑星オルフェウスに適応したもののみが現在は生息する。多様な生態系を持つ世界で、この世界の食物連鎖に適応した個体、進化した種が生き残る。また特殊な成育環境により弱肉強食に適さないドードー、フクロウオウム、チンチラ、ミオシーレンなどの動物などは人間により保護され手懐けられることが多い。
個体数は絶滅種が多くを占めるが、この世界でも絶滅は発生する。この世界の生存競争も熾烈であり、弱肉強食に適さない動物以外のこれに食い込めない種は絶滅する。ただし、この世界は人間が中間捕食者に位置し、文明が未発達な原生環境が多い。そのため、それぞれが環境に適応し、一方的に被食されたり、増殖しすぎて自滅するケースはほとんど存在しない。そのため、地球に比べれば、こちらでの絶滅種は極めて少ない。
・対流圏の生態系
この世界は海抜が低いため、対流圏が相対的に高くなり、国家や浮島はこの位置に存在する。この対流圏に生息するのは中型の中間捕食者が主体となる。これは節足動物や鳥類は安定した国家の環境に根付くものが多いためである。そのため対流圏に生息するのは空中を遊泳する飛魚類とこれを捕食する翼竜、及びそれらを捕食する有翼魔獣などで構成される。
飛魚類はトビウオを元とし、骨密度の低下、肺の発達、胸鰭の翼化などの進化をした、空中の水分に含まれる藻類・微生物を捕食する飛行魚である。主に雨雲や雲海に生息する。よく見られる種はツマリトビウオ、イダテントビウオ、クモチサヨリ、テンジクダツ、クモダツ、クモサバ、コロラビス、ハネナガサンマ、マトイダイ、カゼノコウオ、スカイグルーパ、フウライカジキなどが存在する。現在はこれらを狙う漁業飛空艇も運用されている。
そしてこれらの捕食者として、ランフォリンクス、プテラノドン、ケツァルコアトルス、ハツェゴプテリクス、ワイバーン、ワライフクロウ、ハバシトビ、ヒメハイタカ、テラトニルス、アルゲンダヴィス、マグニフィケンスが強靭な捕食者として存在する。頂点捕食者は浮島に営巣する鷲獅子グリフォン。これ以外の個体になると理性を持つ種が多く、それらはいずれかの国に帰属し、自らに適した環境で成育する場合が多い。
・海洋の生態系
この世界にはほぼ陸地の無い広大な海洋が存在する。主に中型~大型の魚類から構成され、イクチオサウルス、プレシオサウルス、モササウルスといった海棲爬虫類がその捕食者として存在する。非常に獰猛な個体が多く、熾烈な食物連鎖が形成されている。突出する陸地はほぼ活火山のため、噴火や地震も多く、危険で安定した陸地とは言い難い。
こちらの生態系ははっきりとは分かっていない。これは海洋が国から離れた位置に存在し、安定した大地がなく調査拠点が持てないなどが理由に挙がる。また水生有鱗目はいずれも肉食の凶暴な種で構成されるため、調査は進展していない。また、深海には畸形獣クラーケン、海渦龍リヴァイアサンなど巨大かつ極めて危険な魔法生命体が生息するため、調査は難航中。海溝などの海底の環境調査も到達できず、詳細は明らかになっていない。
現状分かっている範囲では海棲節足動物としてフキシャンフィア、アンプレクトベルア、アノマロカリス、ペイトイア、ライララパクス、フルディア、エーギロカシス、トライロバルト、ケガニ、ズワイガニが生息。これらは各国の河川から流れ落ちる藻類・微生物などを中心に捕食している模様。
魚類はカツオ、スマ、キハダ、ビンナガ、メバチ、コシナガ、マグロ、アンコウ、カンパチ、スズキ、イスクナカンテゥス、コッコステウス、オルカンサス、オステオレピス、ホオジロザメなど中型~大型魚類で構成される。
また軟体動物はウィワクシア、ヘルシオネラ、ハイオリータ、リベイリア、コノカーディウム、ディプロモセラス、ノストセラス、オルソセラス、バキュリテス、アンモナイト、ミズダコ、アオリイカ、ダイオウイカ、クラーケンなどが生息する。基本的に古代の絶滅種で構成されている。
これらの捕食者としてダンクルオステウス、イクチオサウルス、プラテプテリギウス、プレシオサウルス、エラスモサウルス、リオプレウドン、モササウルス、メガロドン、ケトテリウム、ユーリノデルフィス、マッコウクジラなどの生息が確認されている。暫定の頂点捕食者は海渦龍リヴァイアサン。
Ⅱ 裁きの国
統治者・7人の統治者の記憶
政治形態・現在の統治者達による合議+記憶達による元老院制
気候帯・寒帯
主要産業・魔法学、魔法生物学、占星術、錬金術
統治力・A 財政・A 治安・S 人口・B 外交・C 観光・C
この世界の管理、記録、司法を行う治安指導機構
行政機関に所属する政務官、諮問官、記録官、魔法大学院に所属する学者と研究院、そして学生と彼らの生活を支える商人で構成される。
上層には議事堂、諮問機関、記録保管庫があり、その周囲に居住区で構成される。中層には議事堂の地下に地下牢、外には都市の生活者向けの店舗が集まる。下層には魔法大学院が連なり、学生寮が立ち並ぶ。最下層には都市の半分以上の大きさの巨大図書館が存在する。
・「裁きの国」
正確にはこの世界の運営を円滑に行うための協議会であり、国が他の国に干渉する場合に所属することになる議会の議長のようなもの。正確には国ではない。あくまで俗称で「裁きの国」と呼ばれている。簡単に言うと、国連に行政指導権がくっついたようなもの。国々の調整役。逆に他国に干渉せず、独立を貫く国には歴史など記録こそされるが指導権はない。
北極と南極の上空に浮かび、球状の魔法陣で包まれた銀色の空中都市。いずれも本部で、北極側は北半球を、南極側は南半球の出来事を管理する。極地に存在するため、白夜などが存在するが魔法陣で昼夜が再現される。これは生活する者に不眠などの健康被害が及ばないようにする施策である。
気候性は寒帯。風こそ陣ではじいているが極地の上空に位置するため、とにかく寒い。生命体は野生種は存在せず、あくまで生物学用に飼育された魔法生物と送迎を行う騎獣が存在する。騎獣には寒冷地に強く、天を駆ける月狼フェンリルが用いられる。野生のフェンリルは極めて危険かつ獰猛だが、騎獣となるものは幼いころから育てられ、訓練を受けた強靭かつ忠誠心強いもので構成される。熱帯や乾燥帯の暑い地域へ出向いても、自身に氷を纏い温度に適応するため騎獣として重宝される。
建物は石造りが基本。これは一部の金属は凍り付くと伸縮し、耐久度が落ちるため。使われる素材は寒さの伸縮に強い二酸化ケイ素、クロム、タングステンなど。硝子も主にバイレックスガラスが用いられる。建物調は中世ヨーロッパ風。冷たい谷のイルシールがイメージとして近い。
新しい学生などを受け入れる際は飛空艇が用いられる。王達を招集するときは移動手段がない場合にフェンリルが放たれるが、自力で来訪できる者たちには各国に任される。その時は、迦楼羅ガルーダ、白鷲ヴェズルフェルニル、栗鼠ラタトスク、天馬ペガサス、鷲獅子グリフォン、翼獅子ドゥン、霊鳥ベンヌ、風蛇ケツァルコアトル、白龍ヴァーユなど多様かつ貴重な魔法生命体が一堂に会するため、それを見るため魔法生物の学徒で門がにぎわう。また所有主の許可が下りれば獣舎でそれらを間近で見ながら、魔法生物学の臨時講義が行われる。
・7人の統治者たちの記憶
この国の統治者である「7人の統治者の記憶」とは、かつて偉大な統治者とされ、各々の国の発展に非常に貢献した統治者達を模した霊的存在である。あくまで記録された歴史と政治の変遷から構成された統治者本人とは別のものである 「正しきは歴史が決める」とし、その集積された記録から答えを模索する。記憶の集積体の総称。
これは統治者の記録、国の歴史、その思考パターンなどを魔法により、霊体として顕現させたものである。簡単に言えば「魔法製疑似AI」である。しかしながら、AIほどの精度は持たないため、7体で合議を行うことで、精度・中立性・協調性・実現可能性といった部分を補完・担保している。これはこの国に「統治者」が存在してしまうと中立性や機能性に、欲や保身といった失策が生じるのを防ぐ施策である。
それに加え、現国王達の意見も交え、「裁きの国」は運営されるため運営方針を外部に依存しているともいえる。そのためこの国自体は規律あるものであるが、外交力は非常に低く、貿易に参加する程度である。国ではなく「中立性を持つべき国際機関」なので仕方がないとも言える。とはいえ、運営方針こそ依存するが、運営自体は優秀な政務官達によってなされている。
・上層/行政機関
建物は北と南いずれも同様もしくは似通った都市であるため、ここでは北極側の都市をベースに記述する。最上層北側には円形の離着陸用の岸壁が存在する。飛空艇、物資、騎獣の発着場。その先に門があり、入場許可証もしくは証明書の提示により都市に入る。ここからなだらかな斜面が南方面に広がる。この門を入って右手、都市西側に大議事堂とその他の行政機関の複合施設が存在する。
行政機関は円錐状の形状をしており、1階に基本的な形状の議事堂が存在する。国家間の議論、司法が行われる場合に用いられる。内部は基本的な議事堂の形状をしており、中央の席に国王、2階席に専門家や大学教授、その他の招待者が席を持つ。荘厳で威厳に満ちた空気で、合議が行われる。また議長が座る椅子の裏に3階へと続く階段があり、その先には統治者の記憶達の部屋が存在する。
3階には外部の招待客の宿舎ロビーが存在し、カフェ、レストランが併設される。ここは職員も利用する施設であり、やや値は張るがシェフの腕前は超一流のため、評判がいい。ロビーではそれぞれに鍵が渡され、4~6階までに王の迎賓用の部屋が用意されている。あくまで招いてる立場のため、部屋も華やかで快適に過ごせるスイートルームである。3階は記憶達の部屋が同じ階に存在するため、他の階より狭くなっている。
地下1・2階には政務官たちが務める事務所が存在する。部署は7つ存在し、議事部、総務部、法務部、造営部、財務部、護民部、監察部から成る。政務官は6つの階級が存在し、それぞれ長官、副長官、執政官、執政補助員、事務次官、事務官の6つである。経験の蓄積により、ほぼ年功序列で昇進する。執政補助員のみ特殊で、執政官が自分より下の階級より1人を選択し自分の補助員に任命することができる。この国の運営を行うのは議事部と総務部で、他の部署は他国の「法務」や「造営」を観るものである。
主に長官、副長官の許可により、執政官と執政補助員にて他国での活動や調査が行われる。長期的な情報集積のため、長く滞在する場合もある。これらを事務次官、事務官が記録・整合性のチェックを行う。長官、副長官は他部署との連携と部内の優先度など、部の方向性を決める。ちなみに部から様々な課に別れ、全部で108の課が存在する。〇〇部+○○課+階級+本名が正式な所属名称となる。例えば砂の国のキャンプに派遣されているのは、護民部安全対策課執政官と護民部安全対策課執政補助員である。
採用は一般教養+魔法知識の試験と面談により1~3次試験まで行われ、採用者が絞られる。なお、種族は問われず、今ではドワーフ族や魔族なども携わっている。それぞれ種族の有する能力を発揮できる課へと配属される。異動もあり、活動は世界規模と極めて多岐にわたる。
・上層/街並み
この行政機関で働く者たちの住居が上層の建物のほとんどを占める。斜面に建てられるため。東西に長い家が多く、外に出なくて済むよう連結した建物も多い。斜面のため階段が多く、凍結対策として摩擦力を上げる掘り込みが石材上面のなされる。また一部に大きな屋敷が存在するが、これらは複数の物を扱う店舗の集合体や、診療所、病院、郵便宅配といった住民へのサービス業の建物である。
寒さ対策として2重窓や床下に暖気を逃がしにくい層を作るなど、工夫が凝らされている。部屋のサイズは単身者向けのものでほぼ構成されているので暖炉ではなく、ファイアクリスタルを用いた簡易ストーブが用いられる。これは暖房器具の利きやすさの効率を重視したためである。結婚した職員は中層に家を建てることが多い。特に子供がいる家庭では騒音といったいざこざになりかねないので、これはほぼ通例となっている。
またカフェやバーといった静かながらのんびりとした時間を過ごせる店舗が多い。また単身者を対象としたレストランも少ないながら存在し、こちらは議事堂にあるものよりも安く、家庭的な料理が主。パン屋などもあり、来たばかりの職員は居住環境に不安を抱くことも多いが、散策すると割と便利に過ごせる区画でもある。「住めば都」といったところか。
この都市の治安の良さは行政府のお膝元といった影響も当然あるが、何よりもその寒さが理由である。特に深夜帯に出歩く人間はまずいない。また、万が一酔っ払いが道端で寝こくと、翌朝には凍死体になってしまうので、周囲の住民に建物内に引っ張り込まれる。
・中層/地下牢
行政府は地下1階・2階までであり、それより下には厚い層を挟んで、その下に地下牢が存在する。こちらには行政機関からは行くことが出来ず、外から閉じた門を通り地下牢へと行くことができる。「地下牢」と呼ばれているが、牢には人ではなく、危険性の高い妖異・生物が収容されている。また禁書の保管庫も併設されている。内部に人はおらず、氷、土、水の魔法陣で対象が封じられている。現在は3種の魔法生命体が封印されている。
入口から階段を降りて、中心に三闘犬ケルベロスが眠っている。これは封印と同時に、門番を務めている。これは眠りながら空中の魔素を吸収しながら生きている。これはもともと野生の個体であったが様々な魔素を食らい、その貪欲さで統治者のいない浮島で様々な生物、魔法生物を食害し、食物連鎖に悪影響を及ぼし始めたためここに幽閉されるの至った。ケルベロスは炎・雷・氷の魔素を溜め、口から放出したり体に纏ったりする。現在は土・水の魔法陣により封印状態。
2体目は妖樹イルミンスール。これは世界樹ユグドラシルの近縁種の神樹である。ただしキリスト教では邪悪な樹木であるとされ、切り倒された世界樹である。切り倒されたことをきっかけにこちらの世界の顕現した。こちらの世界では「神」という存在が無数に存在するため信仰というものが曖昧なのだが、再度同じ過ちを繰り返さないために「保護された」というのが経緯である。これは神樹自身も同意のうえであり、氷の魔法陣により睡眠状態となっている。時々知恵を借りる際に陣が解かれる。
3体目は「森の国」に住む妖魔絵師が生み出してしまった妖異。当時この妖魔絵師への監視体制が厳しく、そのストレスの爆発により描かれ、勝手に顕現してしまった「怒りの妖異」。負の感情を沸き立たせる存在で、不活性化状態で顕現したのが不幸中の幸いである。絵師本人からの謝罪と同意のもと、ここへ幽閉されるに至った。3種の中では最も悪意に満ち、この世界の根幹を揺るがすものになりうる。現在は氷と水の魔法陣によって封印状態。
なお、これにより絵師への監視が緩められたが、条件として裁きの国に定期的に顔を出すことを提示された。これに対し、条件を飲み、彼の家族から長男ユスティアとその妹アハトが裁きの国・立法機関に所属している。なお、ユスティアは現在、監察部妖異対策課の執政官に就き、妹のアハトを執政官補助員に指名しこの妖異の監視に務めている。魔法全般に強い兄と剣術に優れた妹のバランスのいいペアであり、周りからの評判も悪くない。
・封印魔法
魔素の原則として、炎・風・雷は流れゆく物の活性化「動」に優れ、氷・土・水は揺るぎない物の停滞化「静」に優れる。これが「封印魔法」に「停滞」の属性が使われる由来である。これは魔法で言えば古い魔法で、現在は動属性の封印魔法も存在する。また静属性の吹雪・地震・激流といった活性の利用も確立されている。しかしながら古いとはいえ、大原則でもあるためこの封印魔法の効果は実証されている。そのため未だこれらの術式が採用されている。
基本的には氷・土・水から有効なものを選び、封印魔法を施す。封印術の種類数はあまり重要ではない。3重に縛ってもその分帯は細くなり、1重の分縛る帯は太くなる。今までにこのパターンに当てはまらない魔法生命体は確認されていない。人が魔法を発展させたのと同様に、今の種から進化し現れる可能性はあるが、その場合は動属性の封印魔法が軸になると思われる。
・中層/街並み
中層は上層から斜面を降りきったあたりからの区域を指す。そのため安定した地面に建つ中型の建造物から構成される。主に家庭を持った執政官の居住区とマーケットで構成される。この都市の物流拠点。ここから上層は段々と整然として見え、綺麗な街並みが目を引く。
主に食品、魔法道具、錬金素材、書物、洋服、防寒用品などを扱う店舗で構成されている。学生が行き来する街でもあるため活気にあふれる。この国は魔法技術を輸出することが多いが、その技術のニーズにはムラがある。そのため、税金が高めに設定されており、古着や古本、古道具といった価格を抑えることができる店も存在する。機能性と品質を見極める必要がある。
苦学生などはここでアルバイトする者も多い。そのままこの街に居つく人間もおり、店員にも魔法と学生環境に精通している者が多い。そのため、学生のニーズに合わせた商業展開が成され、流行などにも敏感な町である。そのため、財布の薄い学生たちを洒落た服や流行品など、魅了する商品も多い。高い税も相まって商魂逞しい商人の多い街でもある。
また「占星術師」が住み、特に女性から高い人気がある。元々は北にしか存在しなかったが、学術的側面も持つことから、行政によって南側にも建設されるに至った。ただし、その技術の会得は難しいことで知られる。
・占星術
主に中国で発展した風と水の流れから方位を見るものが「風水術」、それに対し北欧で発展した「星と太陽と月」から方位を見出すものが「占星術」とされる。星は寒い地域ほどよく見えるため、北欧で発展した。これは寒い地域ほど空気中の水分が砂や埃と一緒に凍り付き、空気中の異物が無くなるためである。そのため、その星々の流れなどから吉凶を見出す術が確立された。大まかな源流は同じものである。
これに加え、タロットカードによる選択者の現在の運気、今後の流れを先読みし、悪い流れを絶つアドバイスを行うのが「占星術師」である。この点が予言や占いに見え、神秘的に見えるため、女性から人気がある。
ただし、風水術同様これを見切るため膨大な量の知識と経験を必要とし、風や水より遠い月や星を見ることから、正確に見切るには長期的な修行が必要とされる。なお、占星術師は「天球儀」という道具を使用することで、日中でも現在の星々の明滅などを見ることができる。また近年では、風水術とともに修行を行い、互いの利点を生かし合う術が研究されている。
気候性と「あくまで長い年月をかけて見出された歴史の集積」という部分が、この都市の「正しきは歴史が決める」根幹と交差したため、この国へ流れ着いたものと思われる。
・下層
下層は中層から少し下った位置にあり、外部から見える一番広い平面の層がこれに当たる。主に教会、さまざまな種類の魔法大学院とそのラボ、研究用の温室などが存在する。わずかだが植栽が施され、色合いに緑が加わる。
行政機関、そして地下牢が続いた大柱の建物は下層では鐘楼を備えた教会になっている。この教会は祈りの場というよりも、街の集会や大学院の行事を行うための施設。祝い事があるときに鐘楼の鐘が鳴らされ、綺麗な大気のため都市全域へと届く。教会前には小さいながら広場が存在し、風の流れを感じられる場所である。その横には最下層の図書館へと繋がるアーチが存在する。簡素な造りだが、下層にはこれらに目印の彫りがつけられたアーチが6つほど点在している。
そこからは学生寮が効率よく建てられ少ない面積に、長屋の住宅が効率よく建てられている。そして外縁部部には歴史ある魔法大学院が多数建てられている。いずれも城のような特徴的な建物であり、威厳を感じられる造り。
有名な魔法大学院では、妖異に立ち向かうための破壊魔法を扱う黒法院、再生と自然を守るための治癒魔法を扱う白法院、精霊を召喚し使役する召喚魔法を操る紅法院、そして魔法生命体の究明を行う緑法院がそれぞれ歴史深く、そして入学難易度が高いことで有名。それぞれ命を塗りつぶす黒、生命を育み魔を払う白、血の契約を示す紅、生命の吹きすさぶ緑がイメージカラーとして選ばれている。略して黒学、白学、紅学、緑学とも呼ばれる。近年ではこれに対し「仙術」が青のカラーでイメージされることが多い。
・召喚魔法
召喚魔法はこの中で特に毛色が異なる。それぞれが動性、静性、そしてこれの放出方法で大まかに分かれるのに対し、その制御・放出に癖がある。そのため杖ではなく、「魔本」が用いられる 召喚魔法は魔法生命体を使役する術であるが、「魔法陣」と「算術」がそのルーツである。
「魔法陣」は「魔法生物学」が見出した術である。魔法生命体は体内に魔力を溜める。そしてこの放出する際に魔力を体の各所に移動させ、「放出」を行う。この流れを図で構成した物が「魔法陣」である。この陣の上では対象の魔法生命体は活性化する。
対してこの魔力の放出に無駄ができるように描かれたものが「封印魔法陣」である。この陣の上では対象は衰弱する。これを個体ごとの差などを埋め、もっとも有効に機能するものを見つけるものが魔法生物学の命題の一つである。これらの適正化の過程で「算術」の図形計算が用いられる。
この魔本に構成する魔素を集め、具現+使役化の魔法陣を描き疑似魔法生命体を生み出すものが「召喚魔法」である。現在、安定して召喚ができる方法が確立されたものは2種類。炎・風・土いずれかを使役する宝石獣カーバンクル、水・雷・氷いずれかを使役する妖精犬クー・シー(クーシー)である。なお、2種類以上の属性を使役する疑似魔法生命体は人間の力ではまず安定せず、召喚できない。1つの属性を固め、それに適した方を選ぶことになる。ちなみにカーバンクルは額に赤い宝石を持つミニレッキスに似た魔法生命体、クーシーは水かきをもつノーフォーク・テリアに似た魔法生命体である。
この図形に魔力を固めながら、ムラが出来ないように描くために「魔本」が用いられる。呪文と図形生成を同時に行えるほど人間は器用な種ではないため、その魔素放出を本に描かれた図形をなぞることで両立させている。
・魔法生物学
「魔法生物学」とは、魔法生命体の研究により派生する様々な学問の総称のことを言う。あくまで1つの学問とされているが、その内容は多様でその過程で別分野の知識も必要とされるため、他3つよりも研究規模が大きい。そもそも破壊魔法、治癒魔法、召喚魔法は、魔法生命体の研究から見出され、派生したものである。これは魔法の放出形態で分けられる。
まず空気中の魔素の凝固に用いられる「呪文」の確立である。これには古代ルーン文字が用いられ、ゲルマン共通ルーン文字と北欧ルーン文字の混成である。これには歴史学の知識が必要とされる。具体的には、古代エジプトの神の奇跡の再現などには象形文字と、その解読と再翻訳などが必要。
次に魔力の放出に用いられる「魔道具」の生成方法の模索である。これは魔法を行使する魔法生命体の身体的特徴、その行動、放出行動などの観察からそれを見出す。これは生物学・算術の知識を必要とし、その試行錯誤の中から効率化を図るものである。錬金術などもこれに含まれる。
そして最後に「魔法形態の研究」である。ドラゴンの炎を放射状に放つといった放射の魔素利用の行動研究により「破壊魔法」が確立。自身の成長を促進させ、根や蔦を利用するイルミンスールの環境活性の魔素利用の知恵から「治癒魔法」が確立。そして周囲に自分の分身や眷属を呼び出すといった天狗の式神の妖術利用法から「召喚魔法」がそれぞれ確立された。現在ではほかの利用法の模索や、既存の分野の深堀が成されている。
ちなみに学舎では低級の魔法生命体しか扱えないことになっている。これは安全性と、事故防止のためである。観察する場合は野生個体の生息地へ赴き、その行動を見ることになっている。「百聞は一見に如かず」は緑学の学訓でもある。
そのため飼育されているものは小さく、かつ脱走の危険性が低いものが選ばれる。鬼火ウィスプ、精霊ラダ、妖樹マンドラゴラなど。そして理性を持ち人に協力的な妖異も時々非検体になる。具体的には幻獣キキーモラ、妖精シルキー、家精ブラウニーなど。彼らは職員として扱われ、非検体になる際は給料に特別支出として上乗せがされる。また有事の際はフェンリルが放たれ、対象の殲滅や治療施設への搬送に取り掛かる。
・巨大図書館
この都市最下層に存在する超巨大図書館。上+中+下層よりもこの層が広い。この層は上部に学生が利用する魔法学の文献、学習用の個室と合議用の個室などが存在する。中層は主に政務官が利用する。過去の出来事、歴史を集めた資料が集まる。このエリアは行政府から転送されることで入れる。そして下層に今まで確立してきた魔法全てを記録する石板が存在する。
図書館上層は学生向けの施設で占める。都市下層に存在する6カ所のアーチから入ることでこのエリアに出る。区画こそ広いが、騒音防止のため土の魔法陣が敷かれる。赤の刺繡がある柔らかい布地の床で構成され、中心に上に書棚を持つ長机が8列存在する。ここに座ることで、上の書棚に求める本が思考のパターンに似た順に自動で並ぶ。
そしてエリア両端には緑のバイレックスガラスを境にして、貴重な本の書棚が20列存在する。ここの本は最近話題の書籍や最近の政治動向といった現代を見る書籍が位置し、時間によって置き換わる。司書は知神・トートで、これらの書物の移動、管理は全て彼の力によるもの。なお貸し出しは付属する「貸出カード」に記入をすることで、自動で更新される。24時間営業。なお眠っているヒヒかトキがいる場合、それがトート神である。起きているときは、静かな場所で棚の上などに隠れて読書をしている。
図書館中層は政務官向けの施設が占める。この層は碧の模様が裁縫された布床で成る。ここは一番上に転送用魔法陣と司書である書神・魁星とその周囲に読書用の長机が円状に並ぶ。基本的に魁星に欲しい資料をお願いし、それを奇跡で取り寄せる形となる。この階より下は螺旋階段状に今までの歴史が記された書物が並び、下に行くほど古い。十年を一区切りに円形の層がある。そのため、自分で探すのは面倒なため、取り寄せてもらう方が効率的。ちなみに、この転送用魔法陣は魁星の奇跡「転送」によって成される。
そしてその下、図書館下層には今までに見出された魔法の術式が彫り込まれた石板と無地の石板が円環状に存在する。ここは「統治者たちの記憶」が許可した者のみ入れる。ここには編み出された魔法の記録の歴史の場所である。それぞれ、発見者名、由来、呪文、属性、効果、強化魔法陣、対抗魔法陣、関連項目が彫り込まれる。管理者は時間と知識の三女神・ノルン。普段は不活性状態で、新たな魔法が正式に確立すると目覚め、その奇跡により石板に彫り込みがされる。普段は暗く墓地のような場所だが、ノルンの目覚めにより白い光が瞬く、美しい場所となる。ノルンはこの世界の人間の歴史を見守り、その歩みを祝福する。この世界の歩みを見届けるのを楽しみにしている神である。
・その他
先にも記述したが、運営が他国の知識・意見依存のため外交力は低い。また魔法関係品も需要にムラがあるという点が痛い。そして、魔法以外の面ではほぼ産業が存在しないので、食品や工業品、それらは全て他国依存である。輸入面で言えば不安定。また厳しい環境で、観光資源にも乏しい。
ただし、新たな魔法術式の発見などが成された際は高い需要と、努力の結晶でもあるため高値がつけられる。また運営方針は他国依存だが、都市運営は優秀な人材によって行われるので、常に貿易黒字を確保している。また国家間のバランス維持のため必要不可欠なため国々との結びつきは強く、財政基盤は安定している。産業のバランスこそ悪いが、一都市として見れば総合力は高水準である。
Ⅲ 砂の国
統治者・合成者ポッド
政治形態・王政+高位付喪神からなる元老院制
気候帯・乾燥帯~サバナ気候
主要産業・博物学、歴史学、地質学、建築業、鉱業、金属加工
統治力・B 財政・S 治安・B 人口・C+ 外交・B 観光・S
忘れ去られた物、土地、建造物、鉱石などが流れ着く国
主に遺物や地質を研究する学者、鉱山労働者、それを加工する金属加工業者、遺物や鉱石を売買する古物商、そして牧畜を行う遊牧民で構成される。気候性から人口はやや少ないが、観光資源が豊富で外部からの一時滞在者が非常に多く、活気にあふれる。
大きく分け、強固な地盤と大河近くに立つ都市部・北部に様々な鉱物が出土する鉱山・牧畜が盛んな南部のサバナ・そして西に国の6割近くを占める砂の海「流砂丘」の4つの地域に分けられる。
・都市部
古代エジプトや平安京のような区画整理がはっきりしている都市景観。鉱山を源流に都市の西側から国南部にかけて大河が存在し、乾燥帯ながら街には緑も見られる。ナイル川のような存在。道路整理もなされた美しい街。
都市北部に行政府、及びその諮問機関などが存在。行政を担う付喪神はいずれも聖遺物や、希少鉱石の高純度結晶などに宿る。歴史を長く見つめてきた物たちであり、いずれも高い知性、判断力、統治力を持つ。
ちなみに付喪神とは物に宿った神や精霊である。「物」の国でもある砂の国ではその対応も決まっている。1つは物として生き、壊れるまで生を全うするか。もう1つは物から離れ、顕現し精霊などとしてこの世界で生きるか、である。ちなみに選択比率はほぼ5:5でそれぞれの生命観に依る。なお、区別のため「高位」といった表現が用いられる。宿っているものから顕現し、その後別の物に再度宿れる強い御霊を持つものを「高位付喪神」と呼ぶ。政治につくのはこの高位付喪神がそれにあたる。
北部からやや南、中央上あたりには発掘された物を調べる研究機関や大学、そして博物館といった機関が存在。学者、学生、観光客を受け持つ区画で、大学都市のようなデザイン。噴水など美しい景観美を持つ。また街路樹にはサワノキが植栽されている。これは剪定後に木工品の原材料として、国から職人に安価で提供され、木工品に加工される。
建物調はレンガ造りの物が多い。用いられるものは古代から現代まで伝わるアドベレンガを現代調に組みなおしたものが用いられる。耐久性、気候の変化に強く、筋交いにより耐震性の弱点も克服したものとなっている。古代~現代エジプト調。町に職人が多いため、日々研究が進められる。
中央南部は商業地区および飛空艇の発着区画。東側は観光客向け商業地区で宝石や結晶、彫金品などの見栄えのいいものが取引される。中央は市民向けマーケットとなっており、家具や遊牧民から仕入れた食品が卸売され、安価ながら上質な食堂が多数存在する。西側は金属加工業の本場。鍛冶師、甲冑師、板金工やデザイナーと、鉱山から出土した鉱石が納入される。場所柄、煙たくなりやすいため、街路樹に空気清浄を行うアロマティカスが採用され、汚れやすい環境になるのを防いでいる。
都市南部も商業地区ではあるが、非常にニッチなものを売る専門店が軒を連ねる。研磨剤や、火種用クリスタル、研究用エクトプラズムなど主に業者向け。ただ加工素材が近場で手に入るため「隠れた名店」も存在。美しい文様の衣装や絨毯、超高級加工用作業着を作る裁縫師や、加工用手袋から舞台役者の衣装下地を担う革細工師が集う。そうした洗練された品々があり、創作意欲を常に求めるデザイナーの居住区としても人気がある。
南部端にはサバナツアーを営む業者や、探索用騎獣の貸し出し場がある。騎獣には砂嵐に強く迷わないよう帰巣本能が強い、鷲獅子グリフォンが用いられる。これは貸し出しだけではなく、この街の治安維持や救急搬送の時も、訓練の行き届いた、強靭な個体が用いられる。
・高位付喪神
この国の政治についている聖遺物、レガリア、希少鉱石から顕現した神から成る合議体。現在では5体の高位付喪神で元老院が結成されている。この5人に序列はなく、全て同等として扱われる。
1体目は壇ノ浦の戦いで海中へと落ちた「草薙剣」。現在も依り代は変えず、生まれから神々、人々、戦いを長く見てきた。今も自身の生まれついた体を好む。長い歴史を知り、その中の愛憎を知る穏やかな男神が宿る。剣は加工を受け、この国の技術を集約され復元が成されている。
2体目は中国、周の時代に存在した王の証「九鼎」。周が秦に滅ぼされたとき泗水へと落ちて消えた。草薙剣同様、人々を長く見てきた存在であると同時に、闘いを多く見てきた。現在は器を変え、新たな鼎に宿る。詩と華を愛する嫋やかな女神が宿る。
3体目はアフリカの王国に存在した処刑用の「斧鉞」。これはアフリカ・ダホメ王国にかつて存在した物。5人の中で最も「人の死」を見てきた存在で、それ故惨劇を避ける愛情と悲愴を胸の中に抱える。現在は器を変え、巨大斧に宿る。武人然とした猛々しくも冷厳なる男神が宿る
4体目は中世フランスの美麗なる剣、「ジョワユーズ」。ナポレオンの蜂起の動乱の中で砕け散った。名前の由来「陽気」同様付喪神も陽気な性格である。音楽や舞踏と人々の作った芸術を愛する若き女神が宿る。元老院のムードメーカーでもある。自分の美しさに誇りを持ち、依り代は変えていない。ナルシストであり、そのことを過度に指摘されると怒る人間臭い一面も。
5体目はこの国で生まれた、この世で最も硬いとされる鉱石「アロンダイト」。強き意思を持つ青年の神が宿る。他の神々よりも経験は浅いが、若さゆえの柔軟性、そして成長力を秘める。依り代は変えていない。他の4人のことを尊敬しており、「ジョワユーズ」は彼にとって姉のような存在である。
彼らは常に物の中にはおらず、仕事の際に集合する。普段は物から離れ、御霊から顕現し人に紛れてこの国を見ている。各々自由気ままにこの国で生きながら、知識を集積している。人として、物としての両面を有する。
・地霊の鉱山
都市部から見て北北東に位置し、大河の源流でもある鉱山。鉱山での労働は所謂3Kであるが、国にとっても重要な場所のため労働者には「十分な休息、対価、安全」を与えるよう事業主には厳しい取締まりが行われる。違反者には罰金と被害者への補償、悪質な場合は都市にて禁錮に処される。
元来、炭鉱、金山のように鉱山は性質により出土が大体決まっている。しかしこの山には「忘れ去られた鉱物」が生成されるため鉛からダイヤモンド、果ては神話上の鉱物など収穫にはばらつきがある。特にアロンダイト、オリハルコン、ヒヒイロカネは重要視され、鉱脈が発見されたときは精密な調査、精選、採掘、審美が行われる。
山にはもともと小人ドワーフ、地霊ノームが住んでいたが、王であるポッドとの仲裁の元、人間が高位付喪神が宿るほどのアロンダイト結晶を採掘したことで、和解。それ以降3種族の結束は高まり、現在は協力・信頼関係にある。なおドワーフは人として「人間」としても扱われる。
労働時は3人3種族1人で1チームで基本的に行動する。魔素から地脈を見極めるノーム、採掘を得意とする人間、精選を得意とするドワーフで作業を行う。また採掘の方向性には2パターンある。1つは鉄やクロムといった普段から消費されるものを決め、採掘するパターン。こちらは新人~熟練者が回される。もう1つは宝石や聖石といった貴重な鉱物を探すパターン。こちらには経験豊富な熟練者が回される。割合だと7:3で後者はあまり多くない。
山のふもとには労働者の宿舎、そして審美を行う専門家たちの町がある。小規模ではあるが活気にあふれ、夜には酒で労働を癒やす者たちによって拍車がかかる。ただしこの町での喧嘩(特に別種族間)は厳禁で、破ったものは謹慎や減給、場合によっては投獄される。北は飲屋がひしめく不夜城。東西に鉱山労働者たちの居住区。中央広場にはマーケット。そして南には静かな生活を望む者の居住区と審美の専門機関、研究機関が存在する。
また町のすぐ東にはミネラルを多く含む河川の源流があり、この国では貴重な漁業資源の源。生息する魚介類はミティルス、レインボートラウト、ムーンアイ、ミスリルパーチ、プテラスピス、オレスティア、ヤマナマズ、ゴコウスッポン、ギリクスなど種類も多彩。また流域にはミクロブラキス、トリアドバトラクス、スナハナガエルやディプロカウルスなどの両生類も生息している。これらは薬用、加工用素材、一部食用としても用いられる。特に魚介には精のつく種が多く、鉱山労働者からの需要も高い。また魚を主食とするディモルフォドンのような翼竜も流域に生息する。
移動手段は大型飛空艇が主。町北西部の台地に発着場がある。これは様々な鉱物が出土するため、重量が毎回異なること、また場合によっては貴重な鉱物を運ぶことになるため、安定性のため大型が用いられるようになった。個人的に出かける場合は町で共有されているグリフォンが使われる。
・サバナ
首都から南方に広がるサバナ。首都近郊はステップ気候だが、20kmほどでサバナ気候に変わる。こちらも北部とは異なるが、泥岩や石灰石、金砂といった鉱物資源に恵まれている。いずれも建築資材や彫金用品として価値のある資源である。非常に広域で降雨量の違いと、都市から続く河が交差することで、草原、湿地、林、洞窟、砂海など様々な景色が存在する。
野生生物も多岐にわたる。植物群は雨量が多い地域ではバナナ、カカオ、コーヒー、サトウキビ、綿花、茶、カカオ、ソテツ、メタセコイヤ、カセキイチョウ、ゴムノキ、サポジラなど。雨量が少ない地域は背の低いイネ科主体の草原で構成される。また場所によってはヨモギ、大豆、アロエ、ブルーグラマ、スペアグラス、サボテンなどが成育する。肥沃な大地のため、成長は非常に早い。これらの影響で節足動物も多くの種が生息する。
節足動物はリニエラ、アースロプレウラ、ワレイソムシ、ヴェインベルギナ、プロトファスマ、ムカシアリ、ティタノミルマ、キメララクネ、ムカシアミバネムシ、シジミチョウ、コスリイムシ、アラリペスコルピウス、プルモノスコルピウス、トゥプス、メガネウラといった超小型から大型の種が生息する。分解者から捕食者までとその様態は多岐にわたる。
その上にカラウルス、カセラ、シュヴウイア、ドードー、アーケオプテリクス、ヘスペロルニス、フラオキオン、ノタルクタス、トアテリウム、グリプトドン、アルファドン、ステロポドン、アカガゼル、ブルーバック、オーロックス、モロプス、モスコプス、アカントフォリス、カルパティアバイソン、ヒッポグリフなどが位置する。加えてジバテリウム、メガテリウム、パラサウロロフス、アルピカメルス、マンモス、ディプロドクスなど巨大なものも多い。植物食、昆虫食や雑食の種で非常に種類が多い。
それらの捕食者としてソルデス、メガラニア、ディノニクス、フォルスラコス、グリズリー、ミアキス、ホワイトレオ、バリトラ、タカサゴヒョウ、アリゾネシス、スミロドン、オステオボルスなど獰猛かつ群れを成す種が多い。そして頂点捕食者として、鷲獅子グリフォンがいる。
これらが食物連鎖を形成し、循環しているのがこのサバナである。多様な弱肉強食で構築され、毒をもつもの、群れをなすもの、巣を作るもの、飛行をするものなどそれぞれ個性あふれる野生種が息づく。
・遊牧民
少数ではあるが遊牧民が生活している。数グループ存在し、それらが合流と分裂を繰り返しながら生活している。全体では約150人前後となる。1グループあたり、約3世帯前後で15人前後が一般的。ツェルトの住居に住み、オーロックスを遊牧し、狩猟を交えながら生活している。樹木や骨を加工する木工術、野草を活かし薬草や食用とする園芸の知識、節足動物の薬用成分、有毒成分の利用といった都市にはない独自の技術を持つ。またグリフォンとともに生きることで有名。
信仰はアニミズムであり、俗世に染まらず自らも自然の一部と考えながら生活している。またグリフォンの性質をいち早く見抜いたのも彼らである。グリフォンは気高く、獰猛であるが知性も併せ持つ。そのため自分の感情と協調し、敬意を払う者に対しては温厚に接する。そうして共に旅をしながら、代を重ねてきたのが彼らのルーツだとされている。
グリフォンも礼儀ある対応には自分の礼を尽くし、オーロックスの見張りやともに狩猟を行ったりし、関係性を保つ。ちなみに雄同士であると互いに意識し合い喧嘩の原因となる。また「子殺し」を行う種でもあるため、2体以上の場合、つがいの雄と雌、雄or雌とその幼体たち、雌と雌になるようにグループ間で調整を行う。雄とその雄の子ではない幼体の組み合わせは、雄が幼体を攻撃するため厳禁である。1度に1~3体ほどの幼体が生まれるが、残すのは1体とし、成長期頃に残りは自然へと返すのがルールとされている。
王であるポッドは彼らのルールを尊重し、彼らを政治の対象とはしていない。とはいえ反社会的ではなく、自ら達だけでは手に入らないものを都市と交易しながら生きている。草食獣の肉、薬草、南方由来の鉱物などを金属加工品、アイスクリスタル、医薬品などと交換している。またグリフォンの知識は彼らとの交流の中から見出されたものである。都市部で利用される個体は訓練が徹底されるので、雄同士でも反発しあわない。なお魔法生物学上ではサバナに生息するものをグリフォン種、浮島に営巣するものをクラウド・グリフォン種としている。これらは体内の魔素が微妙に異なる。
・乾いた流砂丘
砂の国中央から西に存在する、幾万もの流砂によって構成される砂の海。非常にゆっくりと北から南西に流れ、最終的には下層へと落下する。「忘れ去られた建物」の行き着く場所で、地中から建物が「生える」。これは流砂によって流され、最終的には砂による損傷で潰され、砂とともに流れ落ちる。この建物群には流された遺跡や、無くなった寺院なども含まれる。
この国における一時滞在者が非常に多いのはこの場所のためである。この建物で遺物を探し、一攫千金を夢見るトレジャーハンターが非常に多いのがその理由。これは国公認の事業で、危険だが高収入ということを国民に課すわけにもいかないための、苦肉の策でもある(国民でも参加は可能)。
参加資格は成人であること。自らの意思による参加であること。参加中の死亡及び重大な損傷の責任を国に問わないこと。他参加者への妨害行為を行わないこと。崩落危険度の高いエリアに侵入しないこと。他参加者の死亡に加担した場合砂の国の裁判対象になること。発見した物品は終了時に鑑定にかけること。などが大まかな内容となっている。発見した物は審美され、博物学・歴史学鑑定により妥当な金額を提示。合意に至れば国が買い取るというもの。ただし聖遺物級の物品の場合、国に強制的に買い取られ、物品の持ち出しは出来なくなっている。ただし、提示される額にはかなり箔が付く。
とはいえ、これだけではただのデスゲームなので、国内外からの非難を避ける安全策も設けられている。対策として、付喪神が依り代としていた物に守護魔法をかけた、お守りの装着が義務付けられている。
このお守りは参加者の守護と、移動魔法を掛け合わせたものである。この「守護」の範囲は付喪神の依り代が用いられるため、非常に強靭かつ多岐にわたる。まず擦り傷、切り傷の損傷を防ぐ「硬化」。参加者の肉体やスタミナを上昇させる「活性化」。そしてこのお守りが壊れた瞬間に装着者をベースキャンプに引き戻す「転送」が強力な効果として存在する。特に最後の「転送」は最重要とされる。流砂への転落や死亡につながりかねない事故、建物内に残された呪物により攻撃対象となったとき、それを肩代わりして壊れることで安全性の確保に一役も二役も買っている。
これに他国で用いられるワイヤー射出・巻き取りの移動魔法が加わる。これは最大15mの魔法の鞭を作り、それを伸縮させることで移動の効率化を図るものである。要はスパイダーマンの糸や立体機動装置のようなもの。この流砂丘には魔素が少なく、これにはお守りの魔素を用いている。そのため魔術師であっても魔法が行使できないため、体力勝負の色合いが強い。
これにより安全性の確保に加えて、探索にパルクールのようなスポーツ性、場合によっては一攫千金にもなりうるとして非常に人気のある事業となっている。加えて参加者の増加により、公平性、安全性がより必要になったため、現地に「裁きの国」の執政官が着任。また死亡事故・事件に関しては砂の国から、裁きの国に司法権が譲渡され、厳格化もなされている。
日中のみ参加可能で、砂嵐の場合は中止となる。突入申請が可能なベースキャンプは3カ所存在し、午前に参加申請をすれば午後には突入許可+時間となる程度の待ち時間。基本料金ではお守り+装備一式だが、料金の上乗せで踏破された部分の地図情報など、効率よく探索できるようになる。この「ワイヤースポーツ」を競技化しようという意見も多いが、国はあくまで「国の事業」であり「遺物・付喪神を探しだす」ことを最重要とし、「安易な競技化は怪我人や事故を増やしかねない」と慎重な姿勢を崩さない。
また普段は一般開放しているが、名のある遺跡や歴史深い寺社などが出現した場合は一般参加は一時見合わせとなる。すぐに国直属の遺跡探査部隊が招集され、探索・調査・研究などが行われる。この間の旅行者の余計な滞在費などは国から補填が出る。それだけ遺跡探査にも国は熱意を持っている。
この流砂丘にはその流砂の複雑すぎる流れと、エネルギーを確保できる安定した地面が存在しないため、生命体はほぼ生息していない。見られるのは、辛うじて流されない台地に根付くサボテンや食虫植物程度である。
・ベースキャンプ
このベースキャンプは初めは簡素なものであったが、人の集まりに合わせて大型のキャンプとなった。観光地となったことから特別地区として、遺跡探査同様、このキャンプでの治安は「裁きの国」によって監視と治安維持がなされている。流砂の影響で地盤が安定しにくいため、ツェルトが用いられる。内部はクリスタルを用いて冷暖房を効かせる。いずれのキャンプも西端に砂丘への門がある。これは積み重ねられたレンガで作られ、門の上では鷲獅子を駆る羽根騎士たちが不法侵入を監視している。また近年では流砂ではない砂海で行われる。「砂海釣り」が見出された。
3つのキャンプは門を中心に、そこから西から東にかけて形成されている。西端に門、そして出発拠点近くに大きな篝火がある。これは周囲の地滑り及び砂嵐を防ぐ魔法陣の核を担う。火種は鉱山から採掘されたアースクリスタルの大結晶が用いられる。地熱を利用した篝火。また「転送」が発動した際に装着者とクリスタルを結び、座標を割り出し、これの周辺に「転送」される。西部はこの篝火を中心に、遺跡探査の申請場所、及び出土品の鑑定所と研究機関、そして出発を待つ人のための宿泊施設と食堂で形成される。
そこから東の進むと、キャンプ中央部には古物商の大ツェルトが存在する。道を挟んで、北側に販売専門の大ツェルトがあり、こちらでは土産品や蒐集家向けの品々を扱う。また各種のお守り、指輪、アクセサリー、宝石など「タープラチャン市場」顔負けのお守り市場がある。これらには呪物を市場に流さないようにするため、不定期に魔術に長けた、裁きの国の政務官+砂の国の監視員が諜報員として出入りをしている。彼ら曰く、お守りにも値段をつけるだけの効力がある模様。また珍品・奇品も多く流通する。
そしてその反対側、南側に売却専門の大ツェルトがある。これは審美を受けたが、発見物の買取金額に不満があった場合に売買が行われる場所になる。国はあくまで「博物学と歴史学」を軸に見るのに対し、古物商たちは独自の観点で発見物を買い取るため、需要も大きい。古いレコード、映画のネガフィルム、廃れた楽譜など蒐集家にとっては価値がある物もあったりするので、国よりも高値で買い取ってくれる場合も結構ある。他には、これらの品を直す復元師、彫師、画家なども住む区画である。
そして東側端には旅行客用の騎獣の受け入れ場所と一般住宅と畑が広がる。ここでは魔法陣の影響で砂嵐がほぼないため、主に小麦と綿花が栽培されている。砂が少ない分、収穫もスムーズに行われる。また小麦を飼料として、ドードーの養鳥が行われている。ここのドードーはグリフォンと人が行き来する環境に慣れており、放飼いにされている。鳥舎や畑周辺を散歩しており、撫でたりすることが可能。体毛は暖かく、頭から背中を撫でるとうっとりとする。ただし、いたずらすると非常に臭いガスを口から吐くので怒らせてはいけない。毒にも耐性があり、害虫や毒虫も食べてくれる益鳥である。ただし、調理する場合はガス袋に有毒成分をためる体質のため、このガス袋を切り離す必要がある。この世界では常識である。
・砂海釣り
文字通り「砂の海で行う釣り」のこと。砂の中に住む生物も存在しており、その調査を目的として編み出された釣りの方法。釣りではあるが、砂魚類は食用に用いるには口からエラにかけて砂が残るので、何度も水洗いをする必要があり手間がかかる。ただし、その中には美味かつ貴重なものも存在する。これは峡谷などでも出来ることが確認された。その場合、峡谷の間を飛行する飛魚類やそれを捕食する翼竜などが釣れる。
この砂海は一番南部に存在するキャンプ近くのサバナ方面に広がるもの。そのため、砂海釣りは南部のキャンプでのみ可能である。そのため南部のキャンプは北部2つと比較すると規模がやや大きい。ただし、その分観光客も多いため、遺跡探査に参加する場合には時間がかかり気味。その点であえて他のキャンプを選ぶ人間も存在し、バランスを保っている。
主に釣り餌に用いるのは小型の昆虫と草食獣の肉を混ぜたサンドボールが使われる。練る大きさを変えて獲物を見定める。釣果としてはスナザソリ、コスリイムシ、サンパラオイソプス、ヒワレタイムシ、ガンブロラスター、エクリピタスといった節足動物。そしてサンドモール、スパイクモール、スティラコスなどのモグラ類。ディミルス、デイノガレリクス、サンドカンタス、エクリカンデス、サンドヘリコプオン、サンヒボドゥス、エクリプスヒボドゥスといった、硬骨魚類や砂鮫が釣れる。小~大型の多様な種が釣れ、サンドシャークのサンドヘリコプリオン、サンヒボドゥスなどは釣れた節足動物を生餌として用いると釣れることが多い。
非常に独自の発達を遂げた種が多く、砂の中という過酷な環境のため、栄養を体内に溜める種が多い。節足動物は見た目から食するのを苦手にする人も多いが、この国で貴重な栄養素+タンパク源であり、薬用にも用いられる。またサンドシャークは研究対象+その食材的価値が高いため現れた場合には多くの関係者が集まる。
サンドシャークは風・土の魔素を持つ魔法生命体である。大きさは1.5m以上ある。危険な種だが、そのヒレのフカヒレは栄養豊富かつ美味で歯触りがよく、美食家に高額で買い取られる。ランクで言うと最上級のフカヒレ、天九翅の扱いである。砂海の頂点捕食者・エクリプスヒボドゥスは未だ1体しか釣れたことがなく、これを狙う漁師も多い。3m以上あり、釣りあげるのも一苦労。食材として扱われたケースがなく、未知の味である。
・その他
国としては観光業に加え、鉱山から出土する多彩な鉱石と、遺跡から出土する多様な遺物と宝物を輸出する経済強国。国内でも職人育成、後継育成に力を入れているため他国よりもかかる税は少なく、公的扶助も厚い。
特に結びつきが強いのは「森の国」。これは国内だけで生産できる食物に偏りがあるため。特に野菜やフルーツ、漁業資源に乏しく、それらを生産できる森の国とのつながりが強い。これらを輸入し、国内のマーケットに流している。ただしそれを差っ引いても圧倒的な貿易黒字で、経済基盤は強固。
Ⅳ おもちゃの国
統治者・駒后チェス
政治形態・絶対王政
気候帯・西岸海洋性気候
主要産業・農業、林業、裁縫業、彫金業、文学、舞台芸術、
統治力・A 財政・A 治安・A 人口・C- 外交・A 観光・A
役目を終えた、捨てられたおもちゃたちが流れ着く場所。
流れ着いたおもちゃたち、それを直す職人、農業従事者、そして文学と音楽、舞台を作り上げる役者、作家、演奏者たちで構成される。
国土全体が極めて狭く、中央に城を含む城壁都市が東西に広がり、北部に森林部、南部に穀物や野菜、漁業の行われる川が流れる。
・絶対王政
女王はこの国の建国者+統治者であり、チェスのクイーンの駒から顕現した存在。チェスという戦略的玩具から生まれたため、とても計算高く冷静、思慮深い。また戦闘術にも優れ、チェスの駒を実体化させ相手を追い詰める召喚魔法と、大剣「スティルメイト」をしなやかな体幹で自在に操る騎士でもある。音楽や文学を愛する心も持ち、国民から圧倒的支持を持つ。
絶対王政は「独裁」であり、歴史上悪名高い政治形態である。しかし、それは為政者の能力・趣味嗜好などによる。この国の女王は冷厳な存在だが、慈愛の精神も併せ持ち、物事の本質や国民のニーズを見抜く力に優れている。そのため政治・文化・外交全てにおいて高い演算的思考を持ち、国民の良き理解者である。そのためこの権威が王にゆだねられる形式でも、国としては非常に良好な状態にある。
また国土が小さいのもこれが理由である。女王が確実に統治が出来、人々が安全に暮らし、産業が根付くことを考えた結果である。国土を小さく持つことでこれらが無理ない範囲で循環している。より大きな国土を持つことも出来たが、確実な統治を優先したため国土が小さい。「世論」も存在を許されており、女王は兵士たちにこれらの情報収集などを命じながら、執政をしている。「朕は国家なり」という思想はこの国には存在しない。
とはいえ悩みもある。女王は自分を神的に崇める行為を危険視している。これは他の意見を異端視し、その醸成を阻むことになるためである。信用がありすぎるというのも悩みものである。魔法で変装した自分で都市を見回りながら、政策を考えることも女王の日課である。
・城塞都市
この国唯一の都市で、この国の中心。東西に楕円形の形をした都市である。街のイメージとしてはイタリアの石の街「カッラーラ」が近い。色彩鮮やかな住居、城を誇る。大理石、石灰石、硝子など様々な石材から成る。
東端には飛空艇の発着場と出入国を管理する東門がある。そこから西部の広場まで石畳の道が存在する。これを中心に施設が分かれる。町づくりに秀でる砂の国以上に景観が整備され、街の外灯一つ取っても彫金師による美しい掘り込みが成され、花や麦、翼など美しい模様がつけられている。東北部はこれらを編み出す彫金師と裁縫師、板金工が集う職人街がある。対し東南にはこれを売買する商人街が連なる。
中央部には北側にこの街の住人の住宅地が広がるちなみにこの町の住民は6割が余生を過ごすおもちゃたち、残り4割が産業を担う人間である。おもちゃたちは人好きで愛想のいい穏やかな物たちである。観光客の子供たちに抱き着かれることもしばしば。そして中央部南に観光者の宿泊施設が並ぶ。同じ区画にカフェやレストラン街も広がる。
中央西寄りでそこから北と南に道が分岐し北側に北門、南に南門がある。中央の広場ではストリートアーティストが集い、自らの芸に勤しみ将来の演奏者や役者としての修行を積んでいる。この両脇、城前庭に北に音楽、南に演劇の学舎がある。そして西部突き当りに女王の城が存在する。
門から出た北側には森が広がる。門沿いには木材の加工場などが存在するが、森の中央から奥には魔法生命体の生息圏のため林業を営む人間には立ち入っていい区画と、立ち入ってはいけない区画の境界がしっかりと教え込まれる。奥地は苔や菌類が生い茂るが、同時に危険な魔法生命体が生きる。
門から南部には麦と野菜の畑が広がり、風車や河といった原風景が広がる。北部の森同様肥沃で穏やかな風が流れゆく。城壁の影響で北風に強く、日当たりも良好。また城門付近ではレユニヨンドードーの放牧が成される。河では淡水魚も釣れる。こちら側には危険な魔法生命体は生息しておらず。加工するための建物が多く建築されている。
女王の城内部には地下に備蓄用倉庫、1階にオペラ、演劇、オーケストラ各種対応の演劇場が存在する。ここは娯楽以外に、行政や行事にも使われる。そして2階には兵士の居住区と食堂、そして外壁への通路がある。3階には女王の間がある。
西端には普段は閉じているが、西門が存在する。西門は周囲の浮島へ鉱山資源などを採掘するときに開かれる。採掘は工兵隊によって行われ、安全管理がなされる。なおこの国では騎獣として幼いころからしっかりと育てられた、穏やかで知性あふれる天馬ペガサスが用いられる。
・都市/東部
飛空艇のランディング、入国管理局を抜け、空港を出ると大きな城塞とそれに建てられた東門が見える。ここからも奥に築かれた美しい城が見える。それを囲う城塞は非常に高く、集中式城郭が整然と並ぶ。
城塞には複合材料が用いられる。木材、石灰、硫黄、砕砂、硝子やプラスチックの混合で出来ている。耐久性、耐震性の高い構造でこれは砂の国と協議し完成された特殊素材であり、現在この世界で最先端の技術である。城壁が存在する理由は主に2つ。1つは北部から北東へ伸びる「歌唄いの森」に危険な魔法生命体が複数生息するためである。この中には極めて危険かつ感覚に優れるものが存在するため、それを避けるためである。もう1つは町に芸術的建造物が多いため、それの風化防止のためである。
門からは大通りが続き、これには花や水、風といった自然をモチーフにした流れを持つ美しい模様が見られる。これらは石灰、硫黄、大理石といった鉱石が使われ、進むと淡くも七色に変化する美しい色も目を引く。そして門付近には白・赤・黄・橙など鮮やかな棟々から成る商店が広がる。
北側商店には裁縫、彫金、板金などの職人が集う。彼らは流れ着いたおもちゃたちを直すことを目的に集められた職人であり、砂の国よりも細かい作業を行うことに優れた者が多い。砂の国ほど鉱物資源には優れないため、木の繊維を細かく編み込んだ美しい造花や、金属に細やかな細工を彫り込んだオルゴールといった「精密さ」が強みである。これらの物品は南側の商店に納入され土産物やブランド品として売買される。金管楽器、木管楽器、舞台衣装、舞台用カーテンなど演劇用の道具も彼らによる作品である。
特にこれらの複数の職人によって作られた衣装には高い価値がつけられ、この世界で最高品質のブランド力を持つ。裁断、裁縫、ボタンや各金具、それぞれに細やかな技術力と美しさが宿る。ちなみに砂の国にも高級衣装店があるが、あちらはアフリカ、アジア風に対し、こちらはヨーロッパ風の衣装が主流である。これはそれぞれの国の気候性のため異なる。
・おもちゃ達
おもちゃとは子供向けの玩具のことである。しかし、時間の流れは不可逆で、子供もいつかは成長する。おもちゃたちは「道具」と違い、物としての自分の限界が来る前に、壊れたり廃棄されることが多い。そして、それを免れたとしても、いつか別れる時が来る哀しい存在でもある。それ故に女王はこの国を立ち上げた。彼らが輝き続けられ、「物」として終わりが迎えられるようにと。
このおもちゃ達は分類では付喪神に近い存在である。しかし、おもちゃは信仰や尊敬の対象になりにくく、付喪神になるものは極めて稀である。正確には思念体スピリットに当たる。その思念を受け入れる場所がこの国である。満たされなかった愛情を注ぎ、人の笑顔を作り、自身も愛情を注がれ、そしてその思念が還るときまで役目を果たす。
そのため、彼らは人間たちに対し非常に友好的で、積極的に交流を持とうとする。人々もそれを受け入れ、この街で羽根を伸ばし、この国を楽しむ。物として人とともに歩む国。それがおもちゃの国である。
ぬいぐるみやプラスチックのロボット、機関車のミニチュア、ラバー製の恐竜たちなどがちょこちょこと街を行き交う。彼らには修復時に衝撃吸収の魔法パーツが付属され、接触事故などを起こさないように手が加えられている。そして、観光事業の店番や宿泊施設の案内役や子守役などを積極的に手伝い、この国は成り立っている。特に子供に抱かれることや追いかけっこ、ごっこ遊びをとても好む。
・都市/中央部
北側には住宅地が広がり、住民とおもちゃの住宅が作られる。一緒に生活を行う住宅も多く、家の掃除などを行ってくれる。また戯曲を描く作家や文学者はおもちゃ達の知識・経験などからインスピレーションを受ける場合も多い。特におもちゃ達はサービス事業者と同居するケースがかなり多い。
これは町のサービス事業がおもちゃ達によっても担われているためである。診療所の受付や案内、呼び出し。レストランでの受付、配膳管理、メニュー説明など、小柄ながらも行っていることは幅広い。診察や調理といった専門的もしくは人間の大きさに合わせる必要があること以外には積極的に参加する。彼らは分類で言えば魔法生命体であり、食事は不要。あくまで周囲の魔素からエネルギーを吸収する。また金銭も国から扶助が出るため必要とせず、この街のサービス業は人件費がとても安い。
これは中央南側の宿泊施設でも同様である。受付やホテルマンの配置、部屋までの案内、都市内部の説明など、半分近くはおもちゃ達によって運営されているといっても過言ではない。初めての来訪者はやや戸惑うが、これらの光景を見ることでこの国の体系を理解することになる。
観光客は国そのものを楽しむ家族連れ、演劇や音楽を聴きに来る人々、街や畑の風景美を穏やかに楽しむ人々、彫金具や洋服などの品々を買いに来るものなど年代層及び目的は幅広い。城塞に囲まれ、風が少ないため秋~冬にかけて特に観光客が多くみられる。
・都市/中央広場
街の中央からやや西に中央広場が存在する。色鮮やかな大理石によって作られ、淡い桃・黄・緑・青・紫による美しい菱形を敷き詰められた円形の広場である。ストリートアーティスト、ストリートミュージシャンが集う場でもある。なお落書きは厳禁であり、犯した場合は重罰に科される。
彼らはここの上の段、城の前庭に存在する音楽、演劇を学ぶ学生たちで、これは演奏者、役者としての修行である。自己の技術の上達や緊張、意識などの勉強でもある。そのため、それぞれの披露を持ち回りで行い、競合しないようにしている。また協同で芸を披露する者たちも多い。
具体的には楽器演奏、舞踊、バレエ、歌などが披露され、粗削りながら今後の成長性を秘めた高い水準の芸が披露される。昨今では「森の国・天都」の仙術師の和風雅楽・舞踊も協力して執り行われ、誰でも聞き、見ることができる芸術が披露される。演者、市民、旅行者の交流の広場である。
・芸術学舎
城前庭にある芸術の研究を行うものたちの学園。北が音楽、南が演劇である。この学園は規模が小さいため、募集倍率が高く、高い知識と実技がそれぞれ求められる。この街の音楽家、舞台役者はこの狭き門の突破者がほとんどを占める。引退後にここの講師となるものも多い。
ちなみにそれぞれの大学には土・水による魔法陣が展開され、防音仕様となっている。各々が自分の音や動きと真剣に向き合うことのできる環境づくりが成されている。
実技演習が多く、日中の演劇場は彼らの実技演習が行われる。また、国内のみならず、各国の文化と芸術を受け継ぐことも担っている。そのため他の国へ出向いての演奏会や舞踏会も行い、国々の文化にも触れることにも重きを置いている。その都度課題曲が変わるため、指導が厳しいことで有名である。それぞれの国に応じた選曲、編成、台本が選ばれる。
ちなみに砂の国から出土した楽譜はほとんどがここに買い取られ、修復と曲の再生が行われる。無論高値を提示されるが、それを凱旋演奏会・舞踏会などで補填している。特にオーケストラ向けの楽譜は各方面の知識が必要となるため、引退者や現役のアーティスト、指揮者など多くの人々の知恵と時間をかけて再生が成される。楽譜は歴史的価値を秘めるが、その復元は素人には不可能であり、復元した結果の賛否や価値の判断基準は専門家に依るところが大きい。そのため、価値が変動するため古物商に流されている。
・女王の城
都市西側に存在する美しい蒼い屋根と、白い城壁から成るの壮麗な城。城壁には外壁と同じ複合素材が用いられ、高い耐久性を持つ。プラハ城が最もイメージに近い。窓にはステンドグラスがはめ込まれ、翼を広げるペガサスが描かれる。そこまで大きくはなく、必要最小限の大きさに造られている。これは効率を重視する女王の要求。城内は白のアラベスカート、黒のマロンブラウンダークでチェスの市松模様が織りなされる。来客も多いので、学生や兵士によってしっかりと掃除がされる。
地階には冷害に対応するための備蓄倉庫が存在する。強力な氷の魔法陣が敷かれ、麦や野菜、水産物が保存される。保存のためと同時に、食害を防ぐものであり、時期を見ながら卸売業者と相談しながら、納入、利用、保存が成される。なお、この国には地下牢は存在せず、絵画に閉じ込められる。そのため、2階~3階では稀に絵画が動くが、日常茶飯事なので気に留めるものはほとんどいない。ちなみに暴れる者はただ絵画が動くだけの半面、異議申し立てなどを行う者は絵画の内容が変化することで、判断ができる。
1階にはオペラ・演劇・舞踊・オーケストラ各種対応の演劇場がある、濃い赤の柔らかな布地が敷かれる。毎日、演目が変わり、人々を飽きさせないスケジュールが組まれる。また年始の女王の挨拶や、行政報告会が行われる。ちなみに2階席は角度がつき、見づらいため建設されなかった。
2階には兵士たちの詰所と居住区が存在する。兵士たちはそれぞれの適正によって配属先が異なる。外壁で天候と安全性を見る偵察兵、外壁にペガサスとともに配属される有事の際の天馬騎士、主に都市の維持管理と治安維持、情報収集を行う諜報兵、国営のための情報整理を行う内務兵、浮島で鉱物採取を行う工兵、城の管理と運営・食事を作る衛生兵、そしてペガサスたちの手入れと幼い個体の飼育を行う整備兵に分けられる。もっとも数が少ないのは天馬騎士で、ペガサスとの連携や、騎馬状態での攻撃など、戦闘経験に秀でた戦士たちで成る。なお兵士全体の男女比は6:4で女性も多い。これは戦う女王に憧れ志願する者が多いため。それぞれの適正から、槍術、弓術、魔術などの訓練が行われ、実力も併せ持つ強き女戦士たちも多い。
3階には女王の私室がある。女王の私室は狭く、本棚とベッド、机と椅子、絨毯があるという質素な部屋である。本人は物が増えすぎるのを好まず、効率的で淡泊な性質が私室からも見て取れる。ただし、浴室の湯の中で音楽を聴くことを好み、これを邪魔されるのをとても嫌う。真面目かつ優秀だが、自分の時間やペースを崩されることを嫌う神経質な一面も。
・歌唄いの森
都市から見て北から北東に広がる緑豊かな森。奥地には苔や菌類、茸などが生えるが妖異の巣窟でもある。木々の間を流れる風に歌が混じることがあり、「歌唄いの森」と呼ばれる。木工品のために園芸師が出入りする。
自生する植物はセドロ、クヌギ、クルミ、セイヨウグリ、ホワイトオーク、ヒノキ、ブナ、マツなどが自生する。同じ温帯の森の国と比較し、土地の標高が高い位置に国が存在するため、種類があまり豊富ではない。クルミ、クリなどは果実として、ホワイトオーク、ヒノキ、ブナは各種木材として用いられる。園芸師には苔を目安として、それ以上深く入らないようにと強く教えられる。生息する動物群はカモノハシガエル、ロンギスクアマ、コエルロサウラヴス、スクトサウルス、ヤマガラ、ジカッコウ、キタタキ、プレスビオルニス、トリアドバト、ラクスパラミス、キタリス、マーモット、ヌートリア、エピガウルス、モロピス、ドロモルニスなどが生息し、小~中型のもので草食性、雑食性の動物群が生息する。
中部以降はこれらの混在した森林が続きより大きな樹木で形成される。この区域になると日陰の部分が増え、その部分に苔が生え始める。松茸の成育も確認されたが、安全管理のため深入りは禁止されている。中部では生息動物の種類が増え、上記のものに加え、ハブ、ガストルニス、テレオケラス、ドエディクルス、ヒッパリオン、ディノフェリス、エアレー、ペガサス、ランドクラーケン、コカトリス、バジリスク、ハルピュイア、セイレーンと危険な種が多く住む。この森の歌はこれらハルピュイアとセイレーンのものとされ、園芸師にとっては凶事の前触れとされている。
そして影深い森深部にはこの森の頂点捕食者・影狼スコルが生息する。スコルは名前の由来が「嘲り」「高笑い」とされている。この「歌」はスコルが唄っているものではないかとも言われが、詳細は不明。鋭い感覚を持ち、獰猛かつ非常に執念深い。スコルを含むこれらの妖異を避けるために城塞は建築されている。特に上位捕食者の魔法生命体は視覚、聴覚、嗅覚に長ける個体が多いため城塞の壁でそれらを隔絶している。
・落穂拾いの麦畑
都市から南に広がる農業地帯。光景がミレーの名画「落穂拾い」に似ているため、この名でいつからか呼ばれるようになった。森は城塞を境に南にはつながらない。そのためこちらには危険な魔法生命体は生息していない。北の森の菌や苔といった地中の分解者が排出した栄養素が地下水とともに流れるため、面積こそ大きくないが効率の良い土地利用がされ、収穫高も良い。
栽培される農作物は米、小麦、大麦、トマト、ナス、レタス、キャベツ、ニンジン、キュウリ、ナス、カリフラワー、グリーンピース、ホップ、アンティチョーク、ホウレンソウなどが栽培される。また風車が点在し、風力で小麦を挽いたり、大麦の撹拌などが行われる。この大麦からはビールが作られる。これにホップを加え、土魔素での殺菌された生ビールが主流である。
また小麦と野菜片を飼料に、レユニオンドードーの養鳥が行われる。レユニオンドードーはドードー同様飛べない鳥である。ドードーが丸くカモに似るのに対し、レユニオンドードーは黒と白の羽を持つトキに似た風貌を持つ。ちなみにドードーはハト目、レユニオンドードーはペリカン目に属するため、厳密には共通点の多い、まったく別の種である。そのため、レユニオンドードーにはガスを吐く内臓機関がない。
ただし、成育のされ方はドードーのそれから見出されたものである。元々被食動物だった森に住むものを飼いならし、家畜にしたものがルーツである。臆病な性格で飼い主以外の人間からは距離をとる個体が多い。普段は麦畑で放し飼いにされ、羽毛、乳製品、卵、鳥肉など、各方面に利用される。ちなみに部位にもよるが、ドードーは脂が多くのるのに対し、レユニヨンドードーは脂肪分が少ないがタンパク質が多く取れる。そのためドードーは焼き、揚げに適し、レユニオンドードーは蒸し、煮物に適する。
地下水を汲み上げた川が存在し、こちらにも独特な生態系が作られる。生息種はトミヨ、パーチ、アユ、アッシュメドウズ、タモロコ、クニマス、アルケリアといった種が生息する。流域が短いため種類は多くない。しかし森由来の川藻が生息し、いずれもそれらを食す栄養豊富な種が多い。
こちらに生息する動物群はクイナ、ショウビン、キムネカカ、コウノトリ、ヒョウガエル、オスアカヒキガエル、シームリア、ホヴァサウルス、エルギニア、プロガノケリス、ハバリアマツネズミ、パレオカスター、ハリネズミ、タニエオラビス、ボアモドキといった草食~雑食の生息種が多い。頂点捕食者は人間と鷹の一種であるグアダルーペカラカラ。
・その他
国全体として第1次、2次、3次産業のバランスがよく、特に第2次産業の裁縫、彫金、板金、第3次産業の演劇、音楽、舞踊と観光業は最先端の物を誇る。人口の少なさ以外には目立つ欠点がない。ただし、人口の少なさは少子化や後継者不足などの問題にもつながるため、大きな弱みでもある。
外交力、交渉力も高く、国々から一目置かれた存在でもある。貿易では不足しがちな漁業産業、果実、食肉、絹糸などを他の国から輸入し、彫金品や裁縫品などを輸出する。特につながりが強いのは同じ「物」の国である「砂の国」。それぞれに通じるものがあり、為政者たちは意見交換をよく行う。
Ⅴ 森の国
統治者・双子の女王 華姫ブラッドと情姫エモ
政治形態・それぞれの町の代表と女王による合議制
気候帯・温帯湿潤気候~寒帯
主要産業・農業、水産業、木工業、製糸業、治癒魔法学、製薬業
統治力・B 財政・B 治安・C→B 人口・B 外交・S 観光・A
忘れ去られた植物、生物、妖異、妖怪などが流れ着く国。
主に自然の中で生きる農業、水産、酪農従事者、養蚕・製麻による製糸業者。そして魔法など超自然的なものを研究する魔術師、仙術師、風水師、学者によって構成される。
北部に妖異の住む山を持ち、そこから流れる湖が西に存在。西では水産業が盛んで、東では養蚕と製糸業。南では果樹栽培。そして中央に魔法研究都市を擁する。また、国土全域が肥沃であり、各地で農業が営まれる。
・天霞の霊山
国土北にある妖怪を中心に構成される山。標高が上がるほどに高等妖異が住み、頂上には古い神々や仙人達による都が存在する。山の上に住む者ほど人から離れた生活を望み、山の下に住む者ほど人間とともに生きることを望む。標高は4257m。アルプス山脈グランド・ジョラス級の山。
山の下には、人を好む妖異が住む。主に精霊、河童、猫又、座敷童など、人に害をなさず、場合によっては益をもたらす存在が多い。また妖怪と縁深い狐、狸、猫、犬なども自生しているが、おとなしい妖怪たちとともに生活しているため、人間にも友好的な個体が多い。植物分布はクスノキ、ケヤキ、サトウキビ、クリ、コナラ、スダジイ、マテバシイ、クヌギ、ヤナギ、アカヤナギ、スズカケノキ、モミジバフウ、ヤマグワ、ヤマモモなどで構成される。河は透き通る美しい水が流れ、メダカ、シラウオ、アユ、ヤマメ、ニジマスといった栄養豊富な魚類が生息する。動物群はトリアドバトラクス、シノカンネメエリア、ジャロヴィプテリクス、アデロバシレウス、カモノハシ、ムササビ、モモンガ、ハリモグラ、キンモグラ、カワウソ、ニホンノウサギ、プロラグス、エピガウルス、キンギツネ、エゾタヌキ、ヤマネコ、スジオイヌと植物食性や雑食性で危険性はあまり高くない種が多い。
山の下~中層には天狗が暮らしている。山に適した砦を作り、規律ある組織となっている。ここは山の関所のような存在であり、不要な入山を止めさせたり、山頂に奉納品がある場合に代理で受け取ったりする。妖怪にとっての役所のような存在となっている。人と関係性を積極的に築こうとはしないが、修験者など認められたものは共に修行を行ったりもする。自給自足の生活をしており、山間部の野草や薬草を集めたり、狩猟をしながら生きる。植物分布はタケ、ニシシギ、イロハモミジ、ヤマブドウ、ミヤマガマズミ、イチョウ、シラカバ、ブナ、カシワ、ヒノマツなど。また秋には紅葉の名所としても知られる。この時期は麓から多数の観光客が来るため、落下防止や安全管理を行う。これは自らの領域保全と意図しない上層への入山防止強化のため行われている。動物群はキレンジャク、ヒメレンジャク、グリプトドン、イノシシ、プロコンスル、ダエオドン、シンテトケラス、エラスモテリウムなど。天狗という空中の頂点捕食者がいるため、厚い皮膚をもつ強靭なものが多い。これらに麓の動物群が混じり、食物連鎖が構成されている。
中~上層はほぼ人間に対し害をなす妖怪が多数を占める。鬼、山童、山姥などがお互いの縄張りを干渉しあわないよう生活している。基本的に気ままに、自分たちのルールで生活を行っている。いずれも文化的側面を持ち、農業、鉱業、園芸などを行う者たちでもある。最も数が多いのは鬼の一族。気性こそ荒いが、話の分かる種族でもある。また人間の作る米酒や芋焼酎などの酒類の得意先でもある。酒に対し、鉱山資源、金属加工品や仕留めた生物の希少品などを提供してくれる。植物分布はツツジ、コマクサ、キンポウゲ、シラネアオイ、オンダデ、シャクナゲ、カエデ、チドリノキ、オニモミジ、イチョウ、クロマツ、シラカバなど。春~夏には雪解け水により、ハナゴケ、ミズゴケ、スギゴケなどの藻類も豊富に育つ。生息する動物群はアカゲラ、コブハクチョウ、トキ、ハクトウワシ、オオワシ、エチゴモグラ、ヤマアラシ、エオマニス、ミミセンザンコウ、オオセンザンコウ、ベアードバク、ヤマバク、トクソドン、エンテロドン、ムース、アイベックス、アンテロープ、ムフロン、ユニコーン、ケルピー、ニホンオオカミ、ダイヤウルフなど強靭な脚力や飛行能力を持ち、山の斜面に適応した種で構成される。上層は斜面が厳しく、ほぼ独立した生態系となる。頂点捕食者は鬼。
・天都
最上層には天都と呼ばれる古い神々と仙人たちの町が存在する。都には神の奇跡による陣が敷かれ、豪天や吹雪を防ぐと同時に招かれない人間や野生生物が入れないようになっている。都は湖の上に築かれた厳島神社のような形状の棟々が見られる。蓮と常咲桜が水とともに流れゆく幻想的かつ美しい都市。区画整理のなされた源の宮がイメージしやすい。この流れゆく水を触媒とし、陣が形成されている。水中には白い水龍が住み、水難事故などを防いでいる。
都市の人口構成は余生を過ごす神々、そして仙人、神々たちに仕える山童そして修行中の仙術師で成る。比率は1:1:3:5で仙術師がほとんどを占める。町の運営はほぼ山童が行い、雅楽や舞踏、温泉などが営まれる。温泉事業は山童の担当だが、雅楽と舞踊は修行の意も込めて仙術師の課題となっている。町には古い彫像、知識や説話を描いた屏風、曼荼羅図などが存在し、歴史的にも価値ある都市である。ただしご飯が非常に質素なことでも有名。
神々と仙人たちは余生を過ごすと同時に、自らの知識を次の代に残すことを目的としている。そのため、日中は仙術師たちに教育、実技指導、試験を課したりと、鍛錬が行われる。ただし教えは厳しくなく、緩やかに進行する。瞑想や水や風に触れ、穏やかな時間を過ごすことも重要とされる。
閉鎖的で山の妖異以外には山麓南東にある「桔梗神社」の風水師たちと交流がある程度。ちなみに天都も町としての参政権を有するが、「世俗とは距離を置くべき」としてこれを放棄している。ただし、交換条件として女王ブラッドからの命令には従うことになっている。とはいえ、命令が出されたことは1度もない。女王は先人の知恵を借りるため、時々訪問し神や仙人と意見交換することがある。穏やかに時間が流れるため、女王にとっても特別な場所である。
山頂山肌からは漆喰や石灰岩、翡翠、氷茸が出土する。湖の水を利用し稲作や大豆の栽培も行われる。陣の外には竹林が根付き、食用から木工品として利用は多岐にわたる。水産物はウキゴリ、サクラマス、ニシキゴイ、カブキナマズなど。また大きなカワノリが生息し栄養豊富な海苔となる。動物群は少なく、タンチョウ、オコジョ、ユキウサギ、プロポティリウムが陣の外に生息し、個体数は少ないがアグリオテリウムが頂点捕食者にいる。ごく稀ではあるが、静かな神域のため龍を見ることができる。
・仙術
この世界における「仙術」とは「超人的な神通力」のことである。人が持つ眠っている力で、それを開花させたもの。そのため、それを無理に呼び起こそうとすることは逆効果のため、鍛錬は緩やかに行われる。素養としては純真さと強靭な精神が重要とされる。「超能力」もこれに含まれる。
要は人の使っていない脳の7割の部分を自在に引き出し、通常時でも「火事場の馬鹿力」などを使いこなす術のこと。仙術において重要とされるのは「暗示」である。これを自己に暗示をかけ、平時を火事場に置き換えることで馬鹿力を発揮させるといった自己強化を行う。また相手に対して、人間が生物として本来持つ動物としての「獣性」を相手にたたきつけることで、相手の精神を攻撃・昏倒させたりする間接的な他者への暗示などを使いこなす。他にも五感や遺伝子といった眠れる力を自在に取り出す術である。
魔法と異なる点は、仙術は「人間が生来的の持っている力の発揮」であり、外的因子に依存しない能力である。理論上では人間ならば誰でも使える力であるが、細胞の稼働率を100%にするには同時にその分体力を要するため誤用すると過剰な疲労で死に至るため、素養を選ぶ。状況によって脳神経、運動神経、感覚神経、遺伝子情報から適切な選択をし、それを活性化させ発揮、その後に鎮静化させる。この緩急が「仙術」である。これを駆使するものを「仙術師」と呼び、これを神の域まで極めたものを「仙人」と呼ぶ。
仙術師となるには、強い心と精神を兼ね備えていることが肝要で、マヨヒガにような空間に神と仙人が対象を招き入れ、適性を見極める。その数か月後、本人の意思(と未成年の場合その親の同意)によって弟子として天都に招かれる。現在では人だけではなく、天狗や鬼の仙術師も見られる。もちろん彼らは彼らで、妖異として己の中の不遜さ、気性などと見つめ合う必要があり、簡単になれるものではない。途中であきらめる者も少なくない。そういった者は下山後、知恵者として放浪するもの、寺社の後継になるもの、魔法都市で仙術を研究する者など、その経験を多様に生かしている。
・蒼映の湖
天霞の霊山から流れ込む川から成る湖。北から流れ落ちた川は麓で分流し、南西に向かって最も大きな支流を持つ。しばらく進むと土壌の柔らかい部分に流れ込む。そしてできたのが国中央から西北西に位置する、この蒼映の湖である。名前の由来は透明度と反射率の高さから、空の蒼を落としたほど鮮やかな色に由来する。
妖異の住処でもあるが、河童の勢力地であるため、人に害をなす者は少ない。他には水上を駆ける水馬エンバールや、半馬魚ヒッポカムポス、妖蛇ヒカギリ、水精アーパス、小豆洗いなどに化けるカワウソなどが生息する。また湖底に水龍の寝床があり、ごく稀に水上に体の一部を見ることができる。天都のものとは違い、こちらは野生の個体で青い体色をしている。ただし、あくまで人里方面は安全性が高いというだけであり、湖北部から西部にかけては危険な妖異が住む。
生息する水生生物は極めてに多岐にわたる。これは「国土全域が肥沃」という性質のため、湖底も肥沃なため水生植物が繁殖する。それにより植物性プランクトン及びそれを食べる動物性プランクトンもとても多く、魚たちにとっても豊かな環境のためである。生息魚介類はヤマトシジミ、イシガイ、ヒメモノアラガイ、マツサカガイ、カワシンジュガイ、メダカ、ウキゴリ、シラウオ、ドジョウ、アユ、ヤマメ、ニジマス、サクラマス、ニシキゴイ、カブキナマズ、アカヒレタビラ、ワカサギ、ベニザケ、ウナギ、ウグイ、スズキ、モリガレイ、ボラ、クロダイと小型~大型とかなりの種類を誇る。
両生類も同様の理由で多い、ピパ、ムカシガエル、アマガエル、ヒキガエル、ウシガエル、イモリ、サンショウウオ、ディプロカウルスなどが流域に生息している。そしてこれらを捕食する爬虫類としてイシガメ、クサガメ、シキスッポン、マタマタ、モリイグアナ、ノギハラバジリスク、ミズヘビが水辺で生活をしている。ヒカギリやカワウソ、カワベインクなどがこれらの魚類、両生類、爬虫類の上の捕食者にあたる。頂点捕食者は水龍ミズチ。
・蒼の里
蒼映の湖は南西にさらに南下する支流が存在する。この河川の流域に存在するのが、水産業に強い「蒼の里」である。これは湖での漁業、河川での漁業、そして湖上にて行われるカワノリ、カワモズクの養殖などがそれにあたる。また、アオコや赤潮、青潮の発生を抑制するために、湖の水を掃けるたり、繁殖しすぎた水生植物の除去なども行う。また支流には水車が立ち並び、水力で脱穀を行ったり、小麦を挽くのに利用される。
この国の住宅は江戸・寛永時代の建物調で構成される。これは蔵造りなどにも適した瓦、スギ材、ヒノキ材、そして漆喰などを合わせて構成される。ただ、中央の都市のみ外注のため、大きく様式が異なる。
農業品は米、小麦、大豆、キュウリ、スイカ、冬瓜、カボチャ、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ヤマイモ、ゴボウ、大根、ニンジン、ビート、テンサイ、キャベツ、レタス、トマト、ナス、ブロッコリーなど。この国では基本的だが、非常に多様な種が栽培される。またこれらの豊富な農業資源を元に、養鶏、酪農が営まれ、栄養にあふれた食事が食卓を彩る。またこの国では自然由来の農薬以外は使われないため、水田にはドジョウ、カブトエビが生息し、各地で柳川鍋などが食される。
またこの里の土壌は川の水を多く含む湿地帯と温帯の両方の土壌を持つ。ここに様々な花々が植えられている。元々は開拓時に余った湿地帯の利用について検討した際にアヤメ、カキツバタを植える案が採用されたため、その方向性が維持されている。今ではアイ、アカネ、オオボウシナ、クサギ、ベニバナ、ムラサキが植えられている。いずれも薬・染料の原料となる種が選ばれ、2月から夏にかけて変化のある色彩が楽しめる。そして、それらを収穫し、美しく多彩な染物が作られる。濯ぎや水分を抜くときには水車が用いられる。花のみでなく、染物を干す際も一面が華やかに彩られる。
様々な花々が植栽されているため、鳥類が多く生息する。スズメ、ルリバト、トラツグミ、ウズラ、カササギガモ、ヤマガモ、キジ、リョコウバト、カラスバト、カンザシバト、カンムリムクドリ、メガネウなど、小~中型の物が多い。また住民たちによく懐くゴクラクインコやコンゴウインコが愛玩鳥として飼われていることが多い。また昨今では、人懐こいフクロウオウムの保護が国から里に任されている。備蓄の食害を防ぐため花を素材としたお香が里外へ向かってたかれるため、嗅覚の強い哺乳類が嫌いな匂いを立て、寄り付かないようにしている。頂点捕食者は人間と縞梟コタンコロカムイ。
・澱みの流刑場
湖西から霊山の境界に存在する湿地帯。そこに生えるマングローブや竹林で構成される森。非常に境界が曖昧で、湖の霧で迷い込みやすい地形をしており、危険度の高い妖異が多数存在する。生命体は妖異以外には植物と節足動物、爬虫類が生息するのみである。人影が見えても、基本的に亡霊の類。
魍魎、鵺、餓者髑髏、雷獣などが住む。とはいえ、この領域は彼らの物であり、人を食らう種ばかりだが、それも自然の成り行きとされている。高位の妖異たちにとっては必要な場所であり、そのため参政権も持っている。森の代表は夜叉が務めている。罪人の流刑場であり、これは各里合意のものである。行き場がない者の行きつく場所でもあり、里に居場所がない者などに対しては食われるよりも、仲間として迎え入れられることもある模様。要求もしないが、拒絶もされない。ある意味、真に平等な場所である。
・桔梗神社
霊山から南東部に存在する、風水師とその弟子・巫女によって構成される神社。八百万の神々を信仰する神社で、人間から妖異まで訪れるものは非常に多い。天都とも交流があり、仙術師が修行に訪れることもある。神社としては広さや施設などはごく一般的なものである。鳥居と石段そして鎮守の杜。手水舎、絵馬掛け、神社を管理する社務所。そして拝殿、神楽殿、本堂がある。また宿舎の明主社、そして修験堂と宝物殿がある。鎮守の杜はキキョウ、トチギシロ、竹などで構成される。
この世界における「風水術」とは吉凶の方角、物事の「流れ」「方向」を見る術である。建物の向きや、その場所の鬼門に当たる場所などを見切り、対策を教えるアドバイザーである。ただし、これを見出すのには膨大な量の知識を必要とし、学問的側面が強い。「陰陽術」もこれに含まれる。
ちなみに風水術を極めたものは「運気の流れ」を瞬時に見切ることができる。禁忌であるが、これを闘いに利用する「暗殺風水」というものが存在する。相手の攻撃を避けられる自分の吉の方向、相手に大打撃を与えられる敵の凶の方向を見切り、一対一では無類の強さを誇る。もちろんそれを行えるしなやかな体術も必要。なお多勢に無勢だと、攻撃方向などが重なり安全な方角もかなり狭くなるため、多対一を苦手とする。現在はその知識のみ「裁きの国」に保管され、伝授および習得は禁止されている。
また神社という立ち位置から、人間と妖異の中間の立場を持つ。大きな問題は合議にて解決されるが、些細ないざこざを解決するために交渉や説得を行う。そのためにも周囲から尊敬されている必要があり、日々勉強、精進をしている。生息物は山の麓の類する。神社のため、数体の狛犬が生息する。山間部や遠方へ行く際に騎獣としても使われ、魔素で空中を駆ける。なだらかな台地の上にあり、心地よい風が吹き抜けてゆく。
・黄の里
桔梗神社から見て南方5km先の、風通し良い土地に「黄の里」が存在する。これは桔梗神社と里の間に春はアブラナ、秋はコスモス、キバナコスモスが咲き誇る花畑を有することが里の名前の由来である。また、里でヤマグワの栽培及びこれを元とした養蚕が盛んに行われる。また神社の剪定も請け負い、トチギシロが収穫され、繊維業に強い。トチギシロとは大麻成分が出ない麻のこと。
農作物・畜産は蒼の里と同様の物が栽培、生産される。この里独自の物としては、タケノコ、カリフラワー、アブラナ、トチギシロ、ホウレンソウが栽培され、緑黄色野菜の生産に優れる。ちなみに水は霊山から地下に潜った支流を汲みだして使われる。また紡績や養蚕、精麻などが行われるため、比較的大きな棟々で里が形成される。これは換気性と日照、虫や小動物の侵入を防ぐこと、また紡績機の可動性などが重視された結果である。
また北部の花畑付近では養蜂が営まれる。作業の際には麻布できた作業着と牛革を鞣した手袋、靴で作業を行う。養蜂家の家付近にはキンリョウヘンが植えられ、蜂はセイヨウミツバチ、巣箱は巣枠式の物が用いられる。また天敵のスズメバチを避けるために樹木から離れた、花畑中心に家屋が建てられる。こちらも大きな家屋で作られるが、耐寒性・風に耐えることに主眼が置かれる。近年では養蜂のイメージも強まり、これも「黄の里」の由来として考えられるようになってきている。
虫と共に生きる里のため、お香による食害対策ではなく堅牢で穴が開きにくい素材や樹木、ネズミ返しなどの建築の応用による対策が主流。生息する動物群はミソサザイ、クイナ、ヒバリ、アイサ、ブッポウソウ、ネアニス、ヒョウガエル、ヤモリ、カナヘビ、アカネズミ、オナガトビネズミ、アラゲウサギ、アマミノクロウサギ、ギンギツネ、シンテトケラスなど。これらの対策として柴犬を飼う家がとても多い。頂点捕食者は人間と槍蛇ヤクルス。
・紅の里
国土南方に広がる日照に優れた土地にある、果実栽培に秀でた里。里の名前は太陽とリンゴ、その台木となる海棠や薔薇そして、枝垂桜の名所であることに由来する。生命の紅色でもあり、狩猟が盛んなことでも有名。血の色と生命への感謝の意もこの名には含まれている。
農作物は蒼の里の物に加え、リンゴ、ナシ、カリン、ビワ、ウメ、スモモ、モモ、ミカン、キンカン、イヨカンなどが加わる。また茶畑があることでも有名。畜産もされているが、他の里よりも規模が小さい。これは狩猟により、動物性タンパク質を補える分需要が下がるためである。里中心に農作物が植わり、外周に果物が植えられる。
狩猟の技術としては弓術が用いられ、弓道が盛んな里でもある。外周に果物が多いのは、そこから落ちた果実や匂いで野生生物をおびき寄せるためである。猟が行われる日は決まっており、その日は農業従事者は作業を控えることになっている。そのため里から出られない日ができるため、その日は漬物や酒の醸造が行われる。そのため蔵と家が一体化した長屋が里には多い。また狩猟日は外部へと通知され、その日は紅の里方面には向かって行ってはいけないと通例で決まっている。また旅行者への伝達も徹底される。
生息する生物は多岐にわたり、メジロ、メグロ、ウグイス、ツグミ、ハチクイ、エボシドリ、ヒメノガン、カワセミ、ヒレアシ、クマネズミ、ハタネズミ、ガルハタネズミ、ヤマネ、タケネズミ、バンディクート、ノウサギ、ヤブノウサギ、ウサギワラビー、ニホンカワウソ、ハイアス、ヒラコテリウム、ミオヒップス、アルガリ、オオツノジカなど小~中型のものが多く、主に狩猟の対象になるのは中型の種。頂点捕食者は人間と神狼マカミ。
村の南方には川の支流が続き、その脇に梅、海棠、枝垂桜が多く植栽され、手入れがなされる。そしてその南端には下層へと流れ込む滝口が三日月状に広がり、川に混じった桜の花びらと水滴により、美しい光景が織りなされる。この水は最下層へと流れ落ちてゆく。
・翠の里
かつてこの国にあった、「常盤の都」の原型。木工業、園芸業に秀でていたため「翠の里」と呼ばれていた。里々の中心にあり、商業の中心地であった。ある日大きな嵐が発生し、人々は各々の家に籠りそれが過ぎ去るのを待った。断続的な霧と豪雨、そしてそれに伴い流刑場の妖異たちが跋扈し、人間の外出を許さなかった。それから3日後に晴天が訪れた。しかし里の中心には傷ついた神獣ユニコーンが横になっていた。
そもそも一角獣は排他的な種族であり、自らに治癒の能力を持つ。それが治癒せず、傷ついている時点で相当弱っていた。住民たちが傷の手当をしようと近づくも長い角を振りかざし、近寄ることも出来なかった。その時点でもう目が霞み始め、一角獣は敵かわからず疑心暗鬼、そして自暴自棄になり始めていた。
女王達がそこにたどり着いた時にはもう息絶え絶えであった。そこで女王エモは「ここにいるものは敵ではない。皆貴方を助けたかったのだ。」と伝えた。死を目前に憤怒と恐怖に震えていたが、その心を受け取ることで高まっていた負の感情は安らかなものへと変わった。死こそ避けられなかったが、最期に一角獣は彼らへの愛と敬意、そして里に恵あれと願い、散った。その時から、この町には超自然の力、神や妖異の操る魔法の力にあふれていた。その時から「翠の里」は「常盤の都」へと変わった。
・常盤の都
現在存在する魔法研究都市。ちなみに「常盤色」は常緑樹のような濃い緑色のこと。また依然農業も盛んで、商業の中心都市である。他の里の2倍近い広さを持つ。教育機関があり、また各地の農作物から薬用成分を取り出す医薬学なども発展している。ちなみにここで研究されている魔法は基礎的なもの+治癒魔法という非常に限定的なものである。それ以外の魔法が学びたい場合、他国の魔法研究院へと行く必要がある。
この都市は上下に複数の層を持つ独特な都市構造をしている。最下層には池が広がっている。イメージとしては碧いホオズキのような形状をしており、商業、学術、農業がそれぞれ連関して、都市が形成されている。層はそれぞれが植物の葉のように、上の層の陰にならないよう少しずつずらされて造られている。強化硝子素材により下層でも日光が届くよう設計されている。この独特かつ、特徴的な都市設計は築城に強い「砂の国」の技術者たちに依頼し、造られた。そのため、強化硝子といった砂の国由来の素材が使われている。
上層には外周部に飛空艇の発着場、そして開けた場所に園芸業の花畑が存在する。基本的にこの層は硝子や留め金の点検や都市の維持管理をするための細い通路から成る。高さとしては、中層から8メートルほどの高さがある。
中層は地表と同じ高さに存在し、最も堅牢な層である。石灰石と漆喰を利用した強固な広場を持つ。マーケット、牧場、農地、食堂そして宿舎や療養所、教育機関が存在する。また中央部に広場を持ち、その奥に「清浄の間」と呼ばれる合議が行われる大きな建物が存在する。この建物にはステンドグラスがはめ込まれ、鮮やかなユニコーンが形作られている。この広場の周囲にマーケットが形成されている。主に普段から需要の高い物が取引される。
中下層には魔法研究施設、製薬場、加工品のマーケットが存在する。中層から8メートルほど降りた位置で、地表からやや下に当たる。他里で加工された研究用の花粉や資料が研究施設に収められ、蜂蜜や河藻、栄養価の高い果実は製薬所に納入される。これらで作られた簡易治癒魔法キット、農薬、医薬品がこの層のマーケットに流れる。また元々盛んであった木工品もマーケットで扱われる。薬用の樹皮、食器や綺麗な木目の加工用板などを扱う。
下層には地下水による池が広がり、その上に層が出来ている。地表から16メートルと距離があり、水面も近いため他より温度が低い。ここには水産資源を生かすための生け簀、農業品の保存蔵、酒類の醸造施設、植栽研究場そして大図書館が構成される。この層は水力エレベーターで物品の行き来がされる。また大図書館には本の劣化対策で紫外線の侵入とカビの発生を防ぐため、他国由来の風の魔法陣が敷かれる。触媒はかつて亡くなったユニコーンの角が用いられている。空気の循環も兼ねており、下層の淀みやすい空気に流れを持たせている。今でもこの都の守護神とされている。
・魔素の偏り
本来は土地には魔素を生成する泉「龍脈」が存在するが、この国の場合土壌がそれを先に吸収し、肥沃さを維持する。そして残りを神や妖異たちが吸収するため、非常に魔素が薄い状態であった。これは魔素が満たされずに流刑場の妖異が暴れる「百鬼夜行」が発生していた原因でもある。それがユニコーンの願いにより、里に大きな龍脈が開くことで、人間も魔法を使用できるようになったというのがこの国の現状である。ただし、その分土壌の生産性が低下した。一方「百鬼夜行」が無くなり、治安も安定した。
そのため魔法研究の歴史は浅く、あくまで生産性の低下を補うこと。そして、里の発展のために利用されることに決められている。ちなみに最も魔法研究に秀でているのは「裁きの国」である。膨大な量の呪文、魔法式、魔法陣、召喚術を解明し、保存している。また国下層に様々な魔法大学院が存在することも有名である。
・治癒魔法
この国で中心的に研究されている魔法。これは風・土・水の複合魔法であり、源流はあくまで「自然の流れ」である。そよぎ命を運ぶ風、生命根付く大地、そして生命の源の水の力にて、神が行う奇跡「祝福」を疑似的に再現し、怪我の治療を行うものである。これに自然由来の薬用成分の利用、求められる栄養素の補給を足すことでこの国の医学は形成されている。
「治癒魔法学」のみでは他国より後進的と言わざるを得ないが、自然の利用に広く通じるこの国ならではの利点を生かし、その部分を補完している。魔法が一般化したとはいえ、この国の本質の「自然と共に生きる」という根幹は変わっていない。
ちなみに魔法の利点としては、素養を選ぶ「仙術」とは異なり、習得には特異な才はいらないこと。勉強による記憶・集中といった努力で上達すること。「自分の能力を高める」ことに強い仙術に対し「他者に対してもそれを施すことが簡単」な点などにおいて優れる。また、仙術は使用者自身を対象にするため、魔法陣などの広範囲の結界術を持たない。ただし、仙術と競合する部分も存在し、天都公認で仙術師もこの研究に協力している。
各里にも学業を修めた治癒魔術師が住むようになり、国全体での公衆衛生の向上につながった。治癒魔術師は自然の理解者でもあり、各里で寺子屋や初等教育も担う。ちなみに魔術の基礎こそ学ぶことになっているが、いざこざの原因になるため、破壊魔法・召喚魔法は合議で認められた者のみが学べる。実際、習得者はかなり少ない。学ぶには他国へ渡る方が早い。
・妖魔絵師のアトリエ
常盤の都から蒼の里への道の中ほど、蒼映の湖近くに俗世嫌いな妖魔絵師が住んでいる。妖魔絵師とは描いた妖魔を実体化させる厄介者で、その危険性から奈良時代に滅ぼされた。本来、これは血縁にのみ遺伝するものだが、その絵師は理由は分からないが、その才能を遅咲きながら花開かせた。
「裁きの国」はこれを危険視したが、気分屋な絵師を監視下に置き、余計なストレスを与える方こそ危険と判断。実際、この世界を滅ぼしかねない存在を実体化させ、裁きの国地下に幽閉されている。そのため、月次会議への出席と定期的な面談、絵を描いた際の報告を条件にこの国に住んでいる。
ただし、力ある統治者の生みの親でもあり、女王のブラッドとエモは彼の娘に当たる。現在は女王の姉妹、その姉の夢見師、弟の雷狼、妹の山彦の6人で自給自足の生活をしている。いずれも国を持てるほどの高位の魔法生命体である。読書と雷狼と共にこの国を散策することを趣味とする。赤茶色の洋館に住み、マイペースに生活をしている。
・その他
一国のみで余るほどの生産率を誇る農業強国である。国内だけで生産と運営ができ、他国に依存しないという圧倒的強みを持つ。実際、この国なしでは成り立たないという国も少なくない。そのため、各方面に顔が利き、外交に強い。主に農業関係品を輸出し、魔術関係の知識を輸入する。
また花畑、桜並木、染物畑、森林浴、紅葉といった観光資源により、美しい風景を求めて春から秋にかけて多くの観光客が訪れる。他国からも原風景と美食に定評があり、愛されている国である。
Ⅵ 聖の国
統治者・聖王アルコル→聖王の冠+聖騎士団長ヴィルヘルム
政治形態・王と世襲制12人の騎士団による貴族院制
気候帯・西岸海洋性気候区→温帯→冷帯
主要産業・軍事産業、築城工業
統治力・- 財政・- 治安・- 人口・C- 外交・- 観光・-
かつて名を馳せた騎士たちの国。現在は滅亡し、その遺跡とそこに巣食う妖異たち、難民、一部の騎士のみが残る。
国土の小さな貧しい国であったが、他の浮島、及び国家を侵略することで拡大、成長していた軍事国家。また国の訓示を「聖教」とした宗教国家。
当初は貧しいの国土の小国であり、不足していた森を擁する国、山を擁する浮島などを合併させることで成長してきた。中規模に成長後、統治者たちが失われ、国土にひびが入り、分散しつつある。現在は聖堂、騎士団詰所、王宮及びその周辺環境にのみ地盤が残り、他は浮島として流れつつある。現在はスコットランドのエディンバラのような外観を残すのみとなっている。
・聖王アルコル
先代の王であり、自身も武人として名を馳せた騎士王。知略、政治力そして統率力、いずれも優れた王であった。しかし志半ばで後継者不在のまま病にて死去。その後騎士団の間で意見が迷走し、政治が混乱。力ある統率者をなくしたことで国土が崩壊し、国の滅亡に至った。
王としては力をそこまで持っておらず、他の異形の力を誇る王たちに比べると純粋な人間であったため国土も小さい状態であった。しかし、王として国を動かすには人々の団結を高め、弱い国土そして国民を守るために軍事的拡大政策をとらざるを得なかった。無論、時には融和・協調のために協定の元、国土を拡大していった。反発が起こった際に国同士で戦争を行った。いずれも軍事協定、宣戦布告協定を通した騎士道然としたものであり、「裁きの国」でも敗戦国の国民の排他などを行わないことを条件として認められていた。事実、死者は多くを出さず、王と騎士たちの武勲が称えられた。
しかし、子宝に恵まれず後継者は不在のままであった。そのことは当然意識していたが、先送りにしていたことが国の崩壊の原因となった。若いころから鍛錬と政治、闘いに明け暮れ精神こそ強靭であったが、肉体は衰えつつあった。国土がある程度安定し、国の産業も回り始めたころ、王は突然胸に激痛を感じた。勲章として得てきた傷からか、それに耐えられず、呼吸も困難に、目も霞み、誰かに胸中を託すことが出来ずに病にて急逝した。
生前は片手剣と盾を駆使し、緩急絡めた剣術と盾による打撃・防御を操る実直かつ冷徹な騎士であった。騎馬術・体術・兵法に精通し、どのような局面でもそれに対応し、柔軟な指示と戦術を駆使した堅実な騎士王であった。
・聖教
聖の国の訓示として、宗教化された教え。内容はシンプルで「開けぬ夜はない。だから、今は耐えよ。」というものであった。これは王アルコルの質実剛健な性質が全面に出たものであった。その「耐える時」が終わった頃にその王が倒れてしまったのは全くの皮肉である。
国の建国時からいるものほどこの教義を理解し、ストイックな精神を持っていた。国民団結のための教義であり、武勇に優れる聖騎士ほどこれに理解、共感を示した。しかし国家が安定し、戦争が減ってからは形骸化し、その理解、意見が分かれる原因にもなってしまった。
・聖騎士団
この国に集った武勇に優れた12人から成る円卓の騎士。それぞれが武器を勲章として持ち、それを受け継ぐことで代を代わることとしていた。元々は弱小国であった国を奮起させるために作られたもので、国土が安定していこうはこれを「世襲」するのもどうかとされていた。事実、国としてはあくまで貴族院として残すが、それに優先する市民参加型の市民院を作る議論が挙がった最中であった。そのため王の死を暗殺と考える者もいる。もっとも国が崩壊した以上、その議論は無意味である。
それぞれに一~十二の騎士が存在し、異なる武器を持つ。当初は王に忠誠を誓う者たちであったが、戦争が減ったことで思考が多様化し、意見の齟齬が増加。騎士とは名ばかりで、武器を振れなかったものも存在した。騎士団が一枚岩でなかったことも崩壊の原因である。
本来は王を含む13人で構成されていたが、王が急死したため12人の中で王への忠誠を誓ったタカ派と平和慣れしたハト派をもとに議論がまとまらなくなった。「忠誠」か「経済」か「闘争」か「秩序」か「忍耐」か「教義」か「利益」か。それぞれの騎士の意向が合わずに、政治は一気に不安定化。国民の多くは移住し、経済も弱体化。そして国土は一気に腐敗が進み、現在は妖異の巣窟へとなった。
・一の騎士
受け継ぐ武器は「長槍」。初代から世襲した3代目がこれに当たる。騎士の中で最も「資本主義」に傾倒していた人物である。先代までは一番槍を務めた騎士の勇であるが、それ故先代が早逝し、3代目は槍術よりも、自身の保身と利益のために動いていた浅ましい人物である。
闘いが減り、今後騎士が要らなくなると思っていた一の騎士は自身の地盤を固めるべく、社交界に多く顔を出し、自分でも土地利用による資金繰りを始めていた。早逝した父から教えられずにもらった槍を重荷に感じると同時に、好機とも考えていた。今後は槍などではなく、金に力が宿ると。
しかし王アルコルの急死により、その目論見は外れることになる。他の騎士も金さえあれば収まると考えていたが、まったくもってそんなことはなかった。「忠誠」や「騎士」に未練がある者が多かったのだ。こんな立場だけのものを保ってどうする?剣だの騎士だのぬかして何になる?今こそ、資本を以って安定化に努めるべきではないのか?だが保身のために自分はそれは使いたくない、という自己矛盾に溢れていた。
結果、国は崩壊し無価値になった金と長槍のみ彼には残った。国、槍、金とすべてが頭の中で混在し、彼は使い方も知らない槍を付いて歩く亡者になった。こんな針のようなものどうすればいいんだ。毒虫のような針しか自分は知らない。そうか、自分も毒虫になればいいのか。そして、一の騎士は尾に槍を持つ蠍のような醜悪な妖異へとなり下がった。
・二の騎士
受け継ぐ武器は「弓」。先代は弓の扱いに秀でた優秀な狙撃手であった。しかし彼は生まれながらにして視力が悪く、その道を阻まれた。しかしながら、父の武勲や軍記物語を読む中で、彼は騎士としての夢をあきらめることが出来ず、自分のやり方で道を切り開こうと志した。
彼は自作の罠や爆発物を巧みに使い、受け継いだ弓をクロスボウとして用い、狩りなどでそれを披露していた。しかし、どれだけ努力を尽くしても他の騎士から理解は得にくかった。見世物としては一流だが、騎士としては二流だと。受け継いだ武器に、「栄誉」に細工をして、どうしたものかと。
しかし、六の騎士は違った。君のその「見世物」を「戦術」として昇華させないか、と。二の騎士は六の騎士の誘いに乗り、暗い色の中に場所を見出した。現在はさらに技巧を活かした道具を利用する。爆炎弾、閃光弾、鈴、毒菱、トラバサミ、ワイヤートラップなど、彼の卓越さはさらに磨かれている。「戦術」を武器とした弓使いは、その中で今日も矢を番える。
・三の騎士
受け継ぐ武器は「長大剣」。三の騎士は人間ではなく、雌の飛竜ワイバーンである。元々は浮島に営巣していた野生のワイバーン。だが、今もなお王アルコルへの忠誠を抱く誇り高き女騎士である。
国の拡大事業を進める中、一つの浮島に住むワイバーンが立ち退かないという報告をアルコルは受け取った。攻撃をしても、矢をいくつ受けても、そこから動かず火を吹くのだと。勘の鋭い王は自らそこに出向き、威嚇する飛竜に言葉を並べた。「貴女の領域を汚して申し訳ない。部下が知らずとはいえ、貴女に危害を加えたことを謝罪する。だが、今後は貴方の子が生まれ、育つまで我々は何もしないことを誓おう」と。飛竜は卵の側を離れ、王に頭を垂れた。そして、その地は併合されたが、不可侵が守られた。
その後、しばらく時が流れ、都に一体のワイバーンが現れた。しかし、人を襲うでもない、ただ立ち尽くし、誰かを待っている様子だった。しかし一部の人間はこのワイバーンを知っていた。早急に王に伝えられ、王はその飛竜と対峙した。そして、いつぞやのように頭を垂れた。王はそれに応え、感謝を伝えた。それ以来、彼女は「長大剣」というもう1本の牙を贈られ、三の騎士となった。それは王の死後も揺るがなかった。今も王宮前広場に佇み、火を吹き、後脚で長大剣を使いこなすワイバーンの姿が見える。
・四の騎士
受け継ぐ武器は「杖」。四の騎士は兄弟12人にも及ぶ大家族の四女である。これは「杖」を受け継ぐために、家系の中から一番教養を持つものを次の代にするという先代の意向である。そのため、彼女は父と王、聖教、この国そのものを良く思っていなかった。彼女が後継に選ばれたときは尚更であった。そのころには国も安定し、戦争も減っていた。
この国は何だ?父は何だ?私や兄妹を家畜か何かと思っているのか?選ばれなかった姉や弟の努力は何だったのか?この杖に振り回される、この国に振り回されるのはごめんだ、と。先代を代理にし、杖だけ持ち、裁きの国・黒法院に留学していたが、自堕落な生活を送っていた。そんな中「聖の国」滅亡の報告を聞き、茫然自失となってしまう。
当初は兄妹の死を悲しんでいたが、今は四の騎士の立場を活かしまだ国に残っている難民を救い、他の国との移民交渉役を担っている。もう我々を縛っていた「聖教」はないのだ。せめて姉弟の分、自由に生きよう、と。
・五の騎士
受け継ぐ武器は「大剣」。五の騎士は大柄な戦士で先代の死後、その大剣で多くの敵将を破ってきた猛者である。質実剛健で純粋な「聖教」の敬虔な信徒であった。耐え抜いた先には光が待っている、と。
しかし耐え抜いた先には混乱が待っていた。王の死にも胸を痛めながら、騎士たちは別々の意見を交わし、かつて見た「団結」そして「聖教」はもう無いのだと、その光景を茫然と見ていた。壊れゆく国を見ながら、無力な自分を嘆いた。教えは受け継がれると、楽観視した自分の哀れさを嘆いた。
その肩をたたく者がいた。今までの歴史、命、闘いを絶やしてはならない、と。横には六の騎士が立ち、手を差し伸べていた。力無いながら、その手にしがみ付いた。そして、彼は六の騎士とともに歩むことに決めた。
・六の騎士
受け継ぐ武器は「長剣」。若いながら副団長に指名される実力者。戦争経験は浅いが、模擬戦では左手にショーテルを逆に持ち、相手の剣戟をはじき、長剣を急所目掛けて突き立てられる高い動体視力を持つ強靭な騎士。
彼は以前から国が安定した際の騎士団のあり方を考えていた。古い考えを持つ団長は時代とともに廃れるも歴史だ、としたが彼は、我々は国の「聖教」の担い手として、そのシンボルとして闘い続けるべきだ、とした。しかし、この問答に決着がつくことはなかった。
国に大地震が走った時、思ったよりも早かった、と彼は思った。王が崩御されたのだと。それと同時に探りを入れ始めた。私に同調する者もいるはずだと。それ以降、彼は行き場をなくした者たちを導くものとなった。そこは「暗い色」という人の血で描かれた薄暗い呪われた絵画である。滅びゆく国の中でそれでも闘うことを止められない、己を自嘲しながら力ある者、「同類」を探し始めた。普段は押し殺しているが、彼は生粋の戦闘狂であった。
正確には戦闘で相手が弱る様と、自分の血が流れ弱る様に「自分は今生きている」という実感と充足を感じるサドマゾヒストである。サディストとマゾヒストの両面を持ち合わせる。ただし、普段はそれをコントロールし、この国に溶け込んでいたため、「マイルド・サイコパス」と考えられる。しかし国が崩壊した今、それを隠す必要はなくなった。今は自分と他者の血の中で生の実感と充足を感じる、快楽殺人者である。
・七の騎士
受け継ぐ武器は「大斧」。その斧同様巨漢であるが、その実は肥満体であり、斧を持って歩けるだけの形だけの騎士である。彼も一の騎士同様、保身に走った哀れな騎士である。
もともと物臭な性格で、たまたま生まれ付いた家系で大飯ぐらいの大男であった。とはいえ、自分の身分を維持すること、そして口うるさい先代から逃げるために、鉱業事業者のまとめ役をこなしていた。とはいえ、こちらも身分から与えられた簡単な役で、その圧力だけで荒稼ぎしていた。
しかし、それにも終わりが来る。一の騎士同様、会議では自身の保身に走り、その後大斧だけ持ち出し、国外へ逃亡を企てた。しかし当然ながら同様に脱出しようとする人間で溢れ、混乱していた。しかし、自分が常に優先されてきた彼には、それが耐え難い苦痛であった。
気が付いた時には受け継いだ大斧で周囲の人間を斬り殺していた。騒然とし、周囲から人がいなくなったときに彼はやっと意識を取り戻し、自分がもう人の道からも外れていることに気づいた。それならもういいか、人に戻るのも面倒くさい、と。そして七の騎士は羽根に斧の形を持つ、いびつな蜻蛉の妖異へとなり果てた。
・八の騎士
受け継ぐ武器は「刀」。最も王に長く仕えている騎士で、御年76歳ながら現役。長い戦歴とそれから見出された刀術・兵法・判断力・決断力を併せ持つ歴戦の強者。非常に厳しく、死ぬまで息子に代を譲る気はなかった。
長くを見てきた騎士で六の騎士同様、今後の騎士団のあり方を考えていた騎士の一人。六の騎士と同じ考えをした人間の一人。そのため、頑固さから一瞬、戦友でもある聖騎士団長を殺すことを考えてもしまった。そのことを即座に悔やみ、心中を告げ謝罪すると同時に、自ら牢に入った。その際に六の騎士に刀を託し、自分が死んだら息子に渡すように依頼した。
王崩御の際、牢から出て騎士団会議に加わるよう促されたが、仲間に刃を向けようとする者はもう騎士でないとしてこれを拒否。王の死に静かに祈りをささげた。その後、六の騎士は彼を絵画に誘うが、これも拒否。その後刀を受け取り、今は静かにこの大地とともに命を散らすことを願う。
・九の騎士
受け継ぐ武器は「直剣」。若き戦争未経験層の騎士だが、今後の国土の整理、政治に注力し、それ故剣術の技術を不要とした現実思考的な騎士。先代はこの考えを尊重し、これも新たな時代の一歩だと黙認していた。剣こそ振るえないが、勉強熱心で弁が立つ王の知恵袋のような存在として活躍。同時に一の騎士、七の騎士のような癒着や政治腐敗を無くそうと尽力していた。
王崩御時に、嫌々ながら一の騎士、七の騎士同様国の安定に意見するも、成立せず他の騎士たちを見限った。その後、彼は剣を手に聖堂に逃げ込んだ国民を守るために奔走。自分は戦えないながら、残った兵士たちに指示を出し、即席ながら巧みな軍略を編み出し、妖異を撃退しながら生きていた。
その後、四の騎士の伝手で生き残った者たちと国外に脱出。その際、四の騎士はともにいてほしいと願うが、知識だけで、剣を振るえなかった自分の無力さからそれを断った。現在は「おもちゃの国」にて兵役に就き、受け継いだ直剣を手に剣技を磨いている。
・十の騎士
受け継ぐ武器は「斧槍」。三番目に長く王に仕えていた無口ながら、勇猛で戦闘経験豊富な戦士。朴訥さ故あまり目立たないが、柔軟な思考で会議を円滑に進めていた議会の縁の下の力持ちである。おそらく彼が存命だった場合、このような悲惨な結果にはならなかったと思われる。
時代の変遷とともに「聖教」がそれにそぐわない形に変化していることに気づいていた一人。六の騎士ほど極端ではなく、古株故団長にも顔が利く。物事の中間に立って物を見ていた。王崩御の地震の際、一部地殻の変動による地割れに飲み込まれ死亡した。
・十一の騎士
受け継ぐ武器は「祭具・懐中時計」。この国の墓守とその鎮魂を行っていた祭司の騎士。戦争が多かった国のため墓地が多く、霊的妖異が発生しやすい環境であった。それを抑えるのが代々の十一の騎士である。この懐中時計は「時間は不可逆」ということを暗示し、魔法と彫金術で作られた特別性のものである。戦争経験は長くないが、祭司としては高い能力を持つ。
王崩御時は離れた地の巡礼に行っていたため会議には参加できなかった。数日かけて何とか首都までたどり着き、聖堂にて九の騎士と合流。対妖異の魔法陣を張り、国民を守ることに徹した。その後、四の騎士、九の騎士とともに国民の脱出を援護した。
その後はまだこの国に残っている人間が聖堂に逃げてくることが予測されること、また今回の惨事を鎮めるために聖堂に残り、祈りをささげている。現在は四の騎士との連絡役で、難民対応の任に就いた「裁きの国」の執政官と情報共有を行っている。
なお、彼の情報により湧いている妖異の種類がより明確になった。確認されているものは、インプ、コープス、ゴースト、レムレース、スケルトン、バンシー、ガーゴイル、オーガ、ヘルハウンド、ナイトメア、ゲリュオン、ダークレイス、デュラハン、ジャバウォック、ファースト・スコルピオ(一の騎士)、セブンス・ダムセルフライ(七の騎士)などが存在する。また、死霊騎士団ワイルドハントの発生も見られたため、極めて危険なエリアとされ、現在は各国に通知と進入禁止が徹底されている。ワイルドハントは幾多の死霊騎士たちが妖馬ナイトメアに乗り、強い冷気とともに人々の命を枯らし、その命と魔素を吸う妖異である。北欧における百鬼夜行のようなもの。神出鬼没で対処法が確立されておらず、災害級の妖異である。
・十二の騎士
受け継ぐ武器は「巨大斧」。これに巨大な鎖を巻き付けた独特なもの。鎖の先には返しのついた刃物が付属する。右手に斧を持ち、左腕に鎖を巻くことで盾のように用いたり、鎖を持ち振り回すことで広範囲を攻撃したりと、我流ながら戦場で育った独自の戦闘術を駆使する。聖騎士団長のヴィルヘルムがこの十二の騎士である。
国王とは2番目に付き合いが古く、建国当初からの仲で「聖教」の立ち上げにも関わった。頑固で融通が利かない性格のため、別の観点を持ち、腕もたつ六の騎士を副団長に指名したのも彼である。とはいえ、その時は六の騎士の本性に気づいていなかった模様。現在は国も王も仲間も国民も守れなかったことで、自己嫌悪と後悔に苛まれている。王の謁見の間の前に座り、彼と王の冠に宿ったわずかな力で現在の地盤を維持している状態。
話術が苦手で、政治家向きではない。そのためうまく言葉が表現できず、緊急時の会議を成立できなかったこともこれが一因である。あくまで根っからの軍人、武人で軍政を得意とする。そのため王と十の騎士がそこを支えていたが、今回の事変で急所を突かれた形になってしまった。その贖罪、そして自らの信念と忠誠のため、ここを死に場所と決めている。
六の騎士の提案も分かってはいるのだが、そこに六の騎士の「闘争を楽しみたい」という邪な意思も感じていたため、それには賛同できなかった。しかし自分も六の騎士同様、戦うことしか能がない「同類」だという認識もある。死に時を待っている悲しい戦士というのが彼の現状である。
しかしながら、その腕前は騎士団最強。戦闘では戦場で培われた荒々しさと冷静さの双方を兼ね備える。また斧と鎖を自在に駆使し、斧の斬撃、側面を用いた打撃、鎖での防御、移動、捕縛など、型が豊富で我流故に動きが非常に読みにくい。高齢ながら、老いなど微塵も感じさせぬバイタリティを誇り、体術、格闘術にも精通。今なお歴戦を勝利に導いた軍神である。
・暗い色の絵画
騎士団詰所・隠し部屋に存在する人間の血で描かれた不気味な森の絵画。六の騎士が戦場を求め、塗料の詳細を明かさずに人の血と絵具を混ぜたものを絵師に提供し、出来上がったもの。禍々しい妖気を発しており、強い精神力を持った者でないと、絵に祟り殺されるという呪物。巧妙に隠されており、「裁きの国」も未だこれを見つけてはいない。
内部には異空間が広がっており、夜の森林が存在する。「禁域の森」が最もイメージに近い。その中心には要塞状の城が存在し、ここで二の騎士、五の騎士、六の騎士は闘いを繰り返している。また彼らに同調、心酔した兵士たちも、この絵画の中に潜む。この絵画そのものが呪物のため、内部で妖異が発生し、妖異やまた外から紛れ込む強い精神力を持つ強者を闘いの対象にしている。ここでは時間が外部とは異なり、内部では時間経過が非常に遅く、内部の数時間が外部の数分に当たる。内部は絵画のため、組成不明の破損しない石材で建造物が構成される。
それぞれ3人の意図は異なり、二の騎士は自身の戦闘術の強化、五の騎士はやり場のない悲しみを吐き出すため、六の騎士は純粋に闘いの中に生の充足を見出すためにそれぞれ闘いをしている。六の騎士が求めた「永遠に続く戦場」であり、強敵を常に待ち続けている。ここには正義や悪は存在せず、弱きが死に、強きが生き、その命を継ぐ、殺戮のユートピアである。「開けぬ夜」の中、ひたすら闘いと研鑽、忍耐をし続ける捻じ曲がった「聖教」の極地。その点では六の騎士も死に時を待っている悲しい戦士と言える。
二の騎士と五の騎士は目的を別とするが、二の騎士は自分の戦術の有効性のために人と戦いたいという欲が、五の騎士は闘いの中で悲しみを他者にぶつけるために人と戦いたいという欲がそれぞれある。その点を六の騎士は見抜き「同類」としてここに迎え入れたものと思われる。対して、八の騎士は六の騎士と立場を同じとするが、それは自己と他者への厳しさ、ストイックさからくるもので、自分の思考とは異なる者だと考えていた。おそらく強者として、「獲物」としてコンタクトをとったものと思われる。
・気候変動
気候帯が西岸海洋性気候から温帯、そこから冷帯へと変化しているが、これは昨今の動乱の影響である。この国は併合を繰り返してきたため、中央に首都があり、その周囲に併合された国、周辺に浮島の蓄積から成る山が存在する。そのため中央がくぼんだ盆地となっており、周囲を山に囲まれていたため西岸海洋性気候であった。
それが国の崩壊が始まり、力の届きにくい周囲ほど砕けやすいため、中央を残し、外部が分離・崩落を始めたことで温帯へと変化した。それがさらに進行し、多くの死者を出すこととなり、もともと霊的妖異が発生しやすい環境の悪化で、多岐にわたる悪霊が跋扈することに。そこへ強い冷気を持ち、夜行するワイルドハントが出現したことで冷帯に変わりつつある。
・その他
難民の避難が終わり次第、国の崩壊も過渡期へと移るものと思われる。その時は、国内には忠誠から残る三の騎士、八の騎士、十二の騎士、完全に妖異と化した一の騎士、七の騎士、そして終わる国の中でも闘いを続ける二の騎士、五の騎士、六の騎士が残るもとの予測される。
その後は裁きの国監視のもと、完全に崩壊し、妖異の群れが去ったのち、統治者不在の浮島となるものと思われる。以降は公域となり、進入禁止が解かれるのが通例である。