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「周到な準備は勝利を招く」 (リーグ第28節・浦和レッズ戦:1-1)

 GK安藤駿介がこの試合に向けて語ってくれた言葉がずっと頭に残っていた。

 川崎フロンターレは、15年前に第25節・鹿島アントラーズ戦で3-1のスコアからの16分の再開試合を経験している。現在もクラブに所属している選手の中で2009年から在籍しているのは彼だけである。当時新人である安藤はメンバー外だったが、「両チームの準備の差」が如実に反映された展開だったと語っていた。

「あの試合を川崎は1つの試合として準備していました。ただ鹿島は16分だけの試合として準備していたのだと思います。その結果、ファーストプレーに入れられてしまった。その準備の差はあったと思いますね」

 再開後のファーストプレーで岩政大樹に決められて3-2。1点リードしているとはいえ、残りは15分もある。しかもピッチにいる全員がフレッシュな状態だ。

そこからの鹿島はパワープレーどころか、入念に準備してきたであろうフルパワープレーを繰り出してきた。一方のフロンターレはそれを自陣で耐え続けるという、準備していなかったであろう展開が続いた。何より、コンディションやパワーの出力の仕方も含めて、短時間ゲームに向けた準備不足が否めなかった。

 今回の浦和戦は後半開始からなので、時間は45分。
この時間が長いか短いかと捉えるかは判断が分かれるところだが、90分のゲームとは違う準備が求められると割り切った方が良かったのだろう。同じ轍は踏まないことが重要だと安藤駿介は言った。

「今回も1試合としての準備の仕方をしていたら、0-2、0-3になるかもしれないですよね。でも、そのあたりはオニさん(鬼木達監督)も分かってると思います。だから、あの時と同じような状況になるとは思わないですし、そこも1つの経験則として伝えたいです」

 勝負のポイントは、やはり準備の仕方にあるように思えた。
キックオフからのスタートダッシュで、どれだけ主導権を握ったままゲームを支配できるのか。

 試合当日。約3ヶ月のハーフタイムを終えて、両チームが整列してゲームが再開。蓋を開けると、0-1で負けていた川崎フロンターレが、素早い出足で浦和レッズを圧倒して押し込む展開に持ち込んでいた。そして55分、小林悠のヘディングから同点。

 してやったりの展開だったのだろう。ゴールの瞬間、スタッフがベンチから一斉に飛び出してきて、いつも以上に大きく喜んでいたようにも映った。

 小林悠にアシストをしたのは、左サイドバックの三浦颯太だ。
フリーキックのこぼれ球のセカンドボールを味方が拾い、中央からボールが経由されると、完全にフリーだった三浦は丁寧にトラップ。次に蹴りやすい場所にボールを置いてから、自慢の左足を振り抜いて小林悠の頭に届けている。

 試合後のミックスゾーンで三浦にクロスの狙いを尋ねると、ターゲットの頭そのものではなく、ターゲットの前にある空間に落とすようなイメージを持っていたと明かしてくれた。

「今日は2トップがユウさん(小林悠)とシン(山田新)だったので、試合前からクロスの本数を増やしていこうと話していました。ピンポイントではなく曖昧なボールでも、合わせる人の前の空間に落としてあげれば、チャンスになるかなと思ってました。感覚が良かったですね」(三浦颯太)

 鮮やかなアシストを記録した三浦だが、この日の躍動ぶりはクロッサーとしてだけではない。いつも以上に左サイドでのアップダウンを繰り返し、果敢にドリブルで勝負を仕掛けて突破口を作り出してた。

相当に飛ばしていたのは傍目からもわかったが、45分限定のゲームだからこその割り切りだったと本人は明かす。

「相当きつかったですけど、(45分)1本ならという感じでした。あのペース配分で90分は厳しいです。ただ今日限りの戦いが全員ができたんじゃないかなと思います」

 では、なぜ川崎フロンターレだけがあれだけ強度の高い45分を表現できたのか。それがこのゲームの本質的な部分である。

 そこは、やはり準備の仕方に秘密があったと言える。

 そもそも三浦は、公開された19日のチームトレーニングに不在だった。その日の左サイドバックには橘田健人や河原創、田邉秀斗などが試されており、この後半も欠場する可能性があるのはプレビューで触れた通りである。

 だが実際の試合では、この見事なパフォーマンスである。

 一体、何があったのだろうか。
本人に尋ねてみると、こんな風に明かしてくれた。


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