鬼木フロンターレとは何だったのか:Vol.57〜チームスタイルとの齟齬が生じていたタイの国民的スター・チャナティップの獲得。そして負けない等々力は25試合でストップ。
シーズン序盤は、いかにチームのスタイルに新加入選手を融合させていくかがポイントになります。選手もチームに馴染むことを意識しながら、どうやって自分の良さを出していくのか。そこに苦心する時期です。
「自分の良さを出すこと」と「自分がしたいことをやる」のは全く違います。選手はチームのために、自分の良さを出さないといけないわけです。しかし、チームのことを意識しすぎてしまうあまり、自分の良さがなくなってしまっては意味がありません。新加入選手、役割やポジション変わった選手は、どうしてもそこの塩梅で悩むことが多くなります。
リーグ4試合目(第10節)の浦和レッズ戦で決勝弾をお膳立てした脇坂泰斗がこんなことを話していました。
彼はこのシーズンから14番を背負っています。ただ気負いがあったのか、どこか精彩を欠いていたのです。すると指揮官から「お前はお前だから」と声をかけられたと言います。
「それで吹っ切れたというか。チームに合わせようではなく、自分の良さを出せばいいという思考に変わって、自分の中で変化がありました。ハッとしたというか。そこでうまく得点に絡めたので、チームの勝利に貢献できて良かったと思います」
鬼木監督は、選手に「自分の良さで勝負しろ」とアドバイスすることが多いです。去年の塚川孝輝もそうでした。ウズベキスタンで集中開催されたACLで、ジョアン・シミッチのポジションであるアンカーで出場するも、なかなかうまくいかずに悩んでいる時期、自分の良さで勝負することを指揮官に言われています。
「もっと思い切ってやればいいいのに、みんなに合わせようとしていました。難しく考えすぎている自分がいたと思います。そうしたら、試合の次の日に、鬼木監督が『自分らしいアンカーでいいから』と色々と話してくれたんです。『ジョアンにはジョアンの良いところがあるんだから。合わせないといけないところはあるけれど、自分の良さを出していい』と。その言葉で、自分の中でつっかかっていた部分が取れました。もっと自分自身を信じてあげてもいい」
この言葉とともに、塚川は「自分らしさって何だろう?」と考えるきっかけにもなったと話しています。この浦和戦は、塚川はサイドバックで急きょ出場してますが、やるべことに集中したことで得点の起点になっています。
鬼木監督は、選手に「自分の良さで勝負しろ」とアドバイスすることが多い人です。ある日のオンライン囲み取材で、自分の良さを出すことを選手たちに伝えている背景について、少し聞いてみました。
返ってきたのはシンプルな回答でした。
「このチームに入ったのは、その『自分の良さ』があるからです。だから、自分の持っているものを出して欲しいということですね。単純に、それを出せばチームの力になりますよね。そこを大前提として持っていて欲しいからです」
なるほど。
そもそも、「なんでその選手にオファーをしたのか」というと、自分の良さを評価されているからです。だったら、それを出して欲しい。ごくごくシンプルな理由だということです。
「もちろん、チームのやるべきこと、やらないといけないことはあります。でも、そこに引っ張られすぎて、自分を失ってしまうのはも違います。やっぱりプロ選手である以上、ストロングポイントを試合で見せてほしいですし、チームは組織なんですけど、その中で個が隠れすぎてしまうとチームの力にならないのといっしょですね」
そして鬼木監督は、「試合を観にくる人が何を観たいのか?」という視点でも、やはり個を見たからそこを大事にしていると言います。
「試合を観ている人も、チームを見ながらも、やっぱり個を観たいと思うんですよね。そこで選手の特徴や、個性を出すことが大事です。自分も試合を観に行って、この選手を観たいなと思ったとき、その選手がチームの中で隠れているともったいないなと感じます。そこはありますね」
チームの中で、個を出すことにもがいている存在がいます。
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