鬼木フロンターレとは何だったのか:Vol.48〜ラモス瑠偉が語るヴェルディ川崎の黄金期。ナビスコカップ3連覇にあった、若手達が主力に与えるプレッシャー。
2021年6月。
第21節の横浜FC戦は代表日程で主力の半分がいない状態となりました。日本代表で谷口彰悟と山根視来が、U-24日本代表で三笘薫、旗手怜央、田中碧が不在です。ただ、これはカップ戦ではなくリーグ戦。
スタメンクラスの半分を代表で欠いて戦うリーグ戦は異例です。それも鹿島アントラーズ戦でのタフな激闘から中二日でのアウェイゲームでした。相手は最下位の横浜FCとは言え、いま振り返ると、過酷な条件でしたね。しかも連続無敗記録が続いている状態ですから。
連戦のため公開練習が少ないことで、なかなかトレーニングを見たり、チームの雰囲気を感じられる機会がなかなかありません。報道陣でさえそうなのだから、サポーターは、一年以上、麻生グラウンドでの練習見学ができない状態だったわけで、試合に絡んでいないメンバーがどういう状態なのか。そこは気になるわけで、この横浜FC戦はそれを披露する一戦と言えました。
ただ選手達は自信を持っていました。質の高いトレーニングができているのでしょう。登里享平は「サブ組の練習もみんなモチベーションを高くやっている」と評していました。
「力のある選手が抜ける試合になるが、オニさん(鬼木監督)がコントロールしているように、サブ組の練習の調子はスタッフが共有している。良いプレーをしなくては使ってもらえないし、サブ組の練習もみんなモチベーションを高くやっている。それぞれが良さを出して、自分の利益を求めてやれば、それがチームの利益にもなる。うまくサポートしつつも、チームを良い方向に進められればと思う」
強いチームには、やはりそのクラブにしかない独特の雰囲気があるのだと思います。
そこで思い出した話があります。
これはまだフロンターレが無冠だった時代。鬼木監督初年度の、2017年のルヴァンカップ決勝を控えた時の話です。
ガンバ時代に国内3冠を経験している阿部浩之が、当時のチームでの普段の練習や選手間の雰囲気について、こんな興味深いことを話していたんです。それまでガンバ大阪でプレーしていた彼は、中村憲剛や小林悠、登里享平などが練習から若手にアドバイスする光景に少し驚いていたようでした。ガンバにはない文化だったからです。彼はスタンスの違いをこう話していました。
「(ガンバでは)誰も何も言わないですよ。ミスしても、ほぼ何も言わない。自分で考えて学べ。それがプロですから。それ(何も言わないこと)で学ぶこともたくさんある。それで(考えてから)聞いたらいい。聞いたらちゃんと答えてくれる。だから、そこに辿りつけるかどうかなんです。何も言われないからそのままだったら、それで終わり。出るために何をすべきか。それは自分で考えるべき」
非常にシビアですよね。「ミスをしたら怒られる」というのは、言い換えれば、まわりに気にかけてもらっている証拠ともいえます。厳しいようで、それは優しさなのです。ミスしても何も言われないというのは、ある意味、もっと厳しいわけです。
サッカー選手というのは、磨いてきた技術で飯を食べているプロフェッショナル。同じチームでもそれぞれが独立している個人事業主です。言ってしまえば、お互いにライバルとも言えるわけで、阿部はそういう環境で結果を出すことで、ガンバでの居場所を見つけてきたわけです。
彼は言葉を続けました。
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