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鬼木フロンターレとは何だったのか:Vol.67〜自分たちを信じてサッカーをし続ける。その試合で登里享平と小林悠がゴールを決めた意味。

2023年シーズン。第10節のアビスパ福岡戦(3-1)、京都サンガF.C.戦(1-0)、サガン鳥栖戦(1-0)のリーグ3連勝があり、チームは少しずつ右肩上がりになっていきます。

 アビスパ福岡戦では登里享平が6年ぶりのゴール。京都戦では大島僚太のアシストで、小林悠が劇的な決勝弾と、クラブに長く在籍している選手がチームを勝たせる気持ちをゴールという形で示してくれました。

 特に京都サンガF.C.戦で決めた小林悠のヘディングゴールは多くの人の心に響きました。

大島僚太からの絶妙なパスに頭で合わせ、倒れながらゴールネットを揺らすと、素早く立ち上がり、ユニフォームを脱いでゴール裏に詰めかけていた川崎フロンターレのサポーターに向かって駆け寄っています。

狂喜乱舞するサポーターに向けて、脱いだユニフォームを力強く掲げる。駆け寄って祝福するチームメートにもみくちゃにされながらも、それでも自分のユニフォームを掲げ続けた。自らの背番号11を見せ続けました。

 そこには、ある思いがあったからです。

「試合前にも11番のユニフォームを着ているサポーターがチラチラ見えていたんです。今年はなかなか怪我が多くて、そういうサポーターにも不甲斐ない気持ちがあった。それでもアウェイの京都まで駆けつけてくれた11番のユニフォームを着たサポーターを見て、『俺はまだ決められるぞ!』というのを見せたかった。『やってやったぞ!』と。決めたらやろうと思っていました」

 自分を応援しているサポーターのために。
ユニフォームを脱いで非紳士的行為でイエローカードをもらってでも、それを伝えたかったのです。

 そしてもう一つ。家族のためでもありました。

「僕がゴール決めていなくて、泣いている息子の動画があるんです。それを試合前に見て、『絶対に決めてやろう』って。ハーフタイムにも見て、その感情のままピッチに入ろうって」

サポーターのため。愛する息子のため。そして、何より自分のため。今季の小林悠の初ゴールは、そんないろんな想いが詰まった決勝弾でした。

なお、このゴールには後日談があります。

それはGKである安藤駿介の談話です。京都戦前のアビスパ福岡戦で、試合に帯同しない居残りメンバーで行った麻生練習での小林悠の凄さを話してくれたんです。

安藤駿介が言います。

「メンバーに入っていない時の練習でも1人だけ異質なんですよ。フロンターレのサッカーは足元がうまくて、ボールが入った時に何かをやるイメージがある。でも、やっぱり小林選手は自分の仕事がどこかをすごく理解している。自分が試合をイメージして、どこで仕事をするのかをはっきりとわかっている選手。だから、チームが苦しい時にパサーにとってどこにいて欲しいか。そういう気持ちがわかる。最後、自分のところにボールが来たら、自分が仕留める。その意識でずっとやっている。そこはベテランの域ですよね」


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