鬼木フロンターレとは何だったのか:Vol.51〜フロンターレは死んでない。福岡で途切れた無敗記録からの生還。
2021年夏。
チームは正念場を迎えていました。柏レイソルとサンフレッチェ広島に引き分けた後、アビスパ福岡戦で初黒星。開幕からの無敗記録が、ついに途切れました。昨季からカウントすると、リーグ戦連続無敗記録が30試合で止まったことになります。
ただそこから中二日でのコンサドーレ札幌戦を控えていました。アウェイゲームの連続でチームは疲労困憊。福岡から北海道への移動があり、しかも中二日のデーゲームでした。
苦しい試合でしたが、札幌戦は2-0で勝利。
得点者は遠野大弥と小林悠です。勝利後の小林の「フロンターレは死んでない」という言葉はサポーターのハートを震わせるものでした。こうして王者は苦しみからの生還を果たしています。
今回はその初黒星をチームはどう受け止めて、前を向いて行ったのか。そんな時期を振り返っていきたいと思います。
まずはアビスパ福岡戦。
試合が開催されたベスト電器スタジアムは博多の森球技場として有名ですね。
川崎フロンターレがこのスタジアムに乗り込むのは、2016年以来となります。ちなみにこの2016年は、勝てば初優勝の可能性もあった1stステージの制覇をかけて乗り込んだ一戦でした。
しかし、最下位のアビスパ福岡に立ち上がりに2点を先行される苦しい展開となり、何とか追いつくも痛恨のドロー決着。土壇場で鹿島アントラーズに首位を譲る結果となり、結局、1stステージ優勝にも届きませんでした。苦い記憶が残る場所でもあります。
ただ川崎フロンターレの歴史の中で「博多の森」といえば、1998年のJ1参入決定戦が最大の出来事かもしれません。Jリーグ史に残る激闘として知られている一戦です。「神を見た夜」として作品にもなっており、川崎側からすれば「博多の森の悲劇」でもあります。
そして23年前のその試合にスタメンとして先発していたのが、現在監督を務める鬼木達です。2017年からチームの指揮を執っているので、監督としては初めての博多の森です。せっかくの機会なので、福岡戦前のオンライン囲み取材で「鬼木監督にとって、1998年のJ1参入決定戦はどういう記憶なのか」と尋ねてみました。
鬼木監督は「そうですね・・・」と言い、こんな唐突な質問にも、自分の遠い記憶の引き出しを引っ張りだしてくれました。
「自分の中では一番というぐらい記憶に残っているゲームです。あの参入戦のためにシーズンをずっと戦ってきて、その権利を勝ち取っての舞台でした。またチームも尻上がりで良くなっている感覚があった・・・・全てをかけた戦いでしたね。自分自身も決して悪いパフォーマンスではなかったですし、気持ちの入った試合をやれていました」
現役時代を振り返って「一番というぐらい記憶に残っているゲーム」であり「全てをかけた戦い」と称する時点で、あのゲームに関する重要性が伝わると思います。
そして「でも・・・・」と言葉を続けます。あの試合の展開と結末から学んだこともあったのでしょう。それは鬼木達のサッカー観と勝負観にも大きな影響を与えたものがあったようでした。
「勝負事が決まるのは一瞬の、ちょっとしたメンタルのところだったり、緩みだったり、プレッシャー・・・・どれか一つが欠けたりしただけで、ゲームは一瞬でひっくり返るものだと思ってます。そういうゲームだったなと。だから、(あの試合で蘇るのは)熱い気持ちと悔しい思いです」
2-1でリードしたロスタイムに起きた、まさかの出来事、サッカーの怖さを味わった試合ですが、その結果、川崎フロンターレというクラブはJ1の壁に跳ね返され、悔しい思いを続ける歴史も続きました。
J1の壁を超えても、今度は初タイトルの壁に悩まされました。それをようやく超えたのは、2017年のこと。あの98年の博多の森の悲劇を経験した19年後です。20年後の2018年にはリーグ連覇を成し遂げています。
ほとんどのクラブは頂までたどり着けないわけで、そう考えると、川崎フロンターレというクラブは、あの出来事から概ね正しい方向に歩んできた歴史だったと言えるかもしれません(2000年の昇格直後に降格した歴史もありますが)。
あの98年の「博多の森の悲劇」を踏まえて、現在までのクラブの成長をどう感じているのか。せっかくの機会なので鬼木監督に尋ねてみました。しみじみとこう語ります。
「一歩ずつ着実に成長してきていると思います。自分がそこに携われていることを嬉しく思います」
そして勝てる過程と経験を知っている選手がいることがクラブの強みだと言います。
「どうやってクラブが成長しているのか。どうしてチームが勝ってこれたのか。それの空気感を感じられていますよね。そして、そういうものを感じられている選手が大勢いるのは、自分たちの強みだと思っています。追い上げられているプレッシャーがある時こそ、それは生きてくる。そういう経験しているからこそ、落ち着いている・・・と言ったらアレですが、自分たちのやるべきことから目をそらさずにやれていると思います」
みんなで積み上げてきたからこそ、クラブとしての頑丈な建物が立ち、簡単には崩れない。タイトルを取れているのは偶然ではないということです。
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