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「ギリギリエモーション 」 (カタールW杯GS第3戦:日本代表 2-1 スペイン代表)
ハリファ国際競技場で行われた日本代表対スペイン代表戦は2-1で勝利。
まさに地獄から天国でした。
絶望的な気分になった前半から一転して、後半開始3分で見せた同点劇。さらにそこから3分後の逆転劇でしたからね。サッカーには、こういう瞬間があるからたまりません。本当にしびれました。
まずは後半早々の3分、堂安律の豪快なミドルシュートで同点に。
来たー、堂安! @ABEMA で視聴中 https://t.co/XZKP3xpSE3 #ABEMAでFIFAワールドカップ #本田の解説 pic.twitter.com/DcfPT25d2y
— いしかわごう (@ishikawago) December 1, 2022
そしてその3分後には、最後まで諦めなかった三笘薫の「1ミリでも中に入っていれば良い」と執念の折り返しを田中碧が詰めて逆転に成功。VARチェックの結果、得点が認められ、早朝の日本中に歓喜の瞬間が訪れました。
三笘→田中碧、幻か。 @ABEMA で視聴中 https://t.co/XZKP3x7JpV #ABEMAでFIFAワールドカップ #本田の解説 pic.twitter.com/GSZu6GnYRb
— いしかわごう (@ishikawago) December 1, 2022
サッカーファンが早起きして、眠い目をこすりながらもリアルタイムで試合を見るのは、こういう場面を目の当たりに出来ることがあるからなんです。
「あの試合の、あの一瞬を目の当たりにしたんだぞ!」という自分が歴史の生き証人になったような感覚は、試合の結果を知った後に配信で観ても味わえないんですよね。
この日の堂安律と田中碧の二つのゴールは、早朝から応援していた日本のみんなの心を、きっと撃ち抜いたんじゃないでしょうか。
なので、サッカーファンじゃない人は気をつけたほうがいいですよ。
一度でも心を撃ち抜かれると、あのサッカーの矢はなかなか抜けないですから。僕なんてハートを撃ち抜かれてからサッカーを書くことを生業にしてしまい、15年以上が経っております・笑。
■サプライズだった左CB・谷口彰悟の抜擢。そして田中碧と守田英正のダブルボランチに思いを馳せる
試合前のスタメン発表でサプライズがありました。
これまで出場のなかった谷口彰悟がセンターバックでスタメンに抜擢されていたことです。このスペイン代表戦のスタメン予想で、谷口彰悟をいれていたサッカーメディアは、自分が目を通した限りでは目にした記憶がありません。
なぜ、この大事な3戦目で初出場の谷口がスタメンに抜擢されたのか。おそらく2戦目のコスタリカ戦での課題を受けてのことだと思います。
コスタリカ戦の後半では、三笘薫と伊藤洋輝の左サイドの縦関係が攻撃面であまりうまく機能しませんでした。
試合を見ていて自分が感じたのは、もし左センターバックが谷口彰悟だったなら多少は強引(に見えるよう)な縦パスでも、三笘につけていたんじゃないかということでした。川崎フロンターレでプレーしていた同僚同士で感覚を共有できますし、谷口ならば受け手がトラップできるような位置に、寸分の狂いもなくパスを出せるからです。川崎フロンターレでも、左サイドバックの車屋紳太郎につけていたパスなどはかなり強気でしたからね。
なので配球の出来る谷口彰悟を左に配置して、後半から投入する予定の三笘薫との縦関係をスムーズに構築したいのではと推測しました(後半を見る限り、その狙いは確実にあったと思います)。
「このチャンスを死んでも逃したくない。自分のサッカー人生の全てをかけてポジションを勝ち取る」
W杯本大会の登録メンバー発表前にロングインタビューをした際、谷口彰悟はそう力強く語ってくれました。
31歳のディフェンダーが語ったその重みは、コメントそのものよりも、それを紡ぎ出した時の表情にいろんな思いを感じ取れました。自身のキャリアの集大成を見せるという覚悟が、そこにはあったからです。きっっと、それだけのものを賭けてこのW杯のピッチに彼は立つ。そう思うと、試合が楽しみしかありませんでした(ゲームでの素晴らしいパフォーマンスは後ほど)。
もう一つ。
中盤に目を向けると、遠藤航がベンチスタートとなり、田中碧と守田英正のダブルボランチがスタメンとなっています。
川崎フロンターレを長く取材している自分にとって、デビュー当時から見ている2人がW杯でボランチを組んでスタメンになることは、感慨深いものがありました。
思えば、田中碧がJリーグ初スタメンを飾ったのは4年前のことです。2018年11月の味の素スタジアムでのFC東京戦でした。奇しくも、その試合でボランチを組んだ相手は、大卒1年目の守田英正です。
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この時の田中碧の背番号は「32」。
しかし翌年2019年、「25」に変更しています。この「25」は守田英正がつけていた背番号でした。
当時「25」に変えた田中碧に理由を尋ねると、少し微笑みを浮かべて「これはあんまり言いたくないですけど……」と前置きした上で、当時こんな思いを語ってくれています。
「僕自身、選手として守田くんを超えたいというのがあります。守田くんは超えたい存在なんです」
大卒一年目でレギュラーを奪い、森保ジャパンで代表デビューをした守田とのポジション争いは高い壁だったはずです。でも、だからと言って、「敵わないな」と彼は白旗はあげない。むしろどんどんチャレンジしていきました。
そうやって2人は川崎でのポジション争いで切磋琢磨していくわけですが(ここは本文でたっぷりと書いております)、この4年後、W杯のグループステージ突破をかけた一戦で、日本代表の中盤を仕切るボランチコンビがこの2人になるなんて・・・・やはり嬉しいものがありました。
■日本のスペイン対策と、打開策を探るスペイン。序盤の攻防戦を読み解く
では、試合の振り返りをしていきたいと思います。
戦前のポイントとして、「圧倒的なポゼッション率を誇るスペイン代表に対して、日本代表がどう戦うのか」というがありました。
そこでの考え方は、大きく分けて二つ。
一つは、チームとして前傾姿勢でボール狩りのようなプレッシングを行い、スペイン代表からボールを取り上げることです。
どんな相手でも、70パーセント近いボール保持率を誇る彼らからボールを奪ってゲームを進めることができれば、スペインは思うように攻撃をすることはできなくなります。彼らからボールを取り上げることができれば、チームのリズムを奪い、そのままスペインの持ち味を消すことにつながります。
もう一つの考え方は、引いてコンパクトに守ること。
スペインに最初からボールを持たせてしまうと割り切って、じっと我慢して守ってしまうわけです。
サッカーはボールをたくさん持つほうが勝つスポーツではありません。点をたくさん決めた方が勝つスポーツです。だから、どれだけスペインにボールを持たれても、自分たちは慌てない。逆に、スペインに持たせているぐらいの感覚に切り替えて、守ることにパワーを注ぎながらチャンスを狙う。そういう戦い方もあります。
結論から言うと、前半の日本代表の戦い方は後者でした。
ワントップの前田大然は、前線からどんどん追い回してプレッシングのスイッチを入れていくというよりは、スペインのアンカーであるブスケツの前に立ち、彼に入るパスコースを消すことを意識したポジショニングをしていきます。いわゆる「ブスケツ番」です。
スペインのビルドアップで、中盤の要・ブスケツを経由しないように遮断する。そして中盤と最終ラインがコンパクトな陣形を保ちながら守備で構えて対応しました。
ただスペインからすれば、引いて構える相手との戦いは日常です。
日本の守備ブロックのどこに綻びが生まれるのかを探るように、ボールを動かしてきます。
スペインには相手の守備ブロックの間で受ける達人がいます。インサイドハーフのガビとぺドリです。ともにFCバルセロナ所属で、ガビは18歳、ぺドリもまだ20歳ですが、戦術眼に優れた選手です。
特にガビは、立ち上がりからボランチの守田英正の横にあるスペースにサッと顔を出してボールを引き出そうとしてきます。前田大然がブスケツを消せない時は、守田が出て行ってブスケツをケアしないといけないわけで、ガビはその瞬間を見逃さず、守田が動いてできたスペースでボールを引き出そうとしていました。
5分、右インサイドハーフのガビがうまく守田の横でクサビを受けると、センターバックの谷口彰悟がディフェンスラインを崩して、たまらず前に出て行きます。右サイドに展開されて右ウイングのニコ・ウィリアムズと長友佑都との1対1を作ると、サイドからクロス。これはゴール前で弾き返し、ブスケツのミドルシュートも上にそれて、ことなきを得ました。
ただブスケツの対応に守田が引っ張られると、ボールを受けるガビに浮かれてしまうわけで、これを再現され続けると、日本の左サイドの守備は困り続けます。ここら辺の日本の守備組織の泣き所を見つける作業と、そこの駆け引きはさすがスペインですね。
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